第2-3話 ミアちゃん初出撃(前編)
「東部戦線に……SSランクモンスターが出現したとの緊急連絡が……このままではっ!!」
受付のお姉さんから告げられた衝撃の事実……わたしが野戦病院で治癒ボランティアをしていた時に聞いたのですが、ガイオスの軍勢はほとんどがコボルド、オークなどのC~Bランクモンスター。
ドラゴン種、キマイラ種などのAランク以上のモンスターは、とても数が少なく、そのおかげで人間側はなんとか対抗できているという事でした。
それが、SSランクモンスターとは……どんなモンスターが出現したのか、想像もつきません。
「ごほっ……ふぅ、セレナさん、出現した場所と敵の規模は?」
いまだ、ミアちゃん特製ハバネロ激辛ドレッシングにむせているアシュリーさんに慌てて水を手渡します。
先ほどまでの優しいまなざしから、人間世界を守る”守護者”の顔になったアシュリーさん。
「は、はい……出現場所は東部戦線のはずれ、オルグレン共和国のダイナ平原……ガイオス軍の侵攻正面からは外れた場所です」
「敵主力は……ニーズヘッグ級が3体!?」
受付のお姉さん……セレナさんは魔導鏡……小型の魔法通信装置に浮かび上がった現地からの報告を読み、驚愕の表情を浮かべます。
ニーズヘッグ!?
しかも3体……。
わたしの記憶が確かなら、コイツは伝説級の暗黒竜……勇者様が神託を受け、伝説の聖剣○○を苦労して手に入れた後に死闘を繰り広げ、その顛末が伝承に残っちゃうくらいの凄いモンスターです。
たぶんですが……人類のピンチ?
「マズいな……ダイナ平原は東部戦線の中でも今まで大規模侵攻が無かった後方地域……連合軍の主力は配置されていないね」
「……アシュリー、ニーズヘッグに対抗できるレベルの人材は……侵攻正面にしかいないぞ」
「ガイオス軍の圧力が強まっている昨今、ここに穴を空けるわけには……オルグレン共和国には酷だが、本国から増援を送るまで遅滞戦闘に徹してもらうしか……」
考え込むアシュリーさんを気づかわしげに、でもきっぱりと冷静な判断を促すレナードさん。
レナードさんのご意見は正しいと思いますが、増援が到着するまでにどれだけの被害が出るか……野戦病院で見た景色が脳裏をよぎり、わたしはぶるりと身体を震わせます。
「……いや、駄目だよレナード」
「それだとオルグレンに展開している友軍の被害が大きすぎる……ニーズヘッグに対応できる人材なら、ここにもいる!」
アシュリーさんはそう言って立ち上がると、親指で自分を指さしにやりと笑います。
そう言えば聞いたことがあります。
レイトン皇国のアシュリー皇太子は、新しい魔法を開発するだけではなく、世界有数の攻撃魔法の使い手だと……。
「……冷静になれアシュリー」
「いくらお前が凄腕の魔法使いと言っても、実戦経験は少ない……それに、ニーズヘッグ3体を単騎で相手取って魔力を持たせるなど……そんなことができる奴は世界にいない」
「お前が貢献できる場所は、戦場より後方……父上である皇王もそうおっしゃっているだろう?」
「でも……しかしっ!」
アシュリーさんの肩に手を置きながら、あえて優しい口調で語りかけるレナードさん。
アシュリーさんはいまだ諦めきれない様子で反論しようとします。
ふぅ……わたしは一つ息を吐きます。
初めて聖衣を身にまとった日、その後も基礎トレーニングとして何度か聖衣を身に付けましたが……そのたびにわたしの頭の中に響く声……伝説の女神さまと思わしき声。
彼女の声が、わたしに出来ると告げているのです。
正直とっても怖いですが……傷つき斃れる人々を、放ってはおけません!
「アシュリーさん…………わたし、行きますっ!」
「”パナケアウィングス”としてっ!!」
身体じゅうをキラキラと白魔力が巡る感触……わたしは控えめに……けれどはっきりとした声でそう宣言したのでした。
「ミア……!」
「カンタス……君は……」
わたしの指先から放たれる”白魔力”に、アシュリーさんが右手に付けている腕輪の宝玉が反応します。
わたしが本気である事を察したのか、止めようとしたレナードさんが言いよどみます。
「……仕方ない、どこかで試験運用は必要だったんだ」
「だが、私が撤退が必要と判断した時には、ふたりとも従ってもらうぞ」
「ありがとう、レナード」
「はいっ!」
こめかみを押さえ、ため息と共に根負けしたレナードさんに、元気よく返事をするわたし。
「……よしっ! ミア、聖衣に着替えて10分後、広間に集合だ!」
「分かりましたっ!!」
「セレナさん、転移の準備を!」
「レナード、例の機材を!」
方針が決まったので、アシュリーさんが動き始めます。
……そういえば、オルグレン共和国ってここから凄く遠かった気がします……馬車を使っても10日ほど掛かったような。
そんなに時間が掛かってしまって大丈夫でしょうか……そういえばアシュリーさんが言った”転移”、”機材”とはいったい?
おっと、いけません。
聖衣を着なければなりませんし、乙女として、クマさんパンツで戦いに挑むわけにはいきません!
……空を飛ぶのだと思いますから、きっちりスパッツを履くべきでしょう。
うんうん、年頃の女の子としてパンチラはバッテンです!
こんなことを考えてしまうなんて、我ながら意外に落ち着いていることにびっくりです。
……そして15分後、わたしはオルグレン共和国のダイナ平原、その上空三千メートルにいました。
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