第1-2話 運命の出会い?
「ふぅ……気持ちいい~」
ばしゃり、と冷たい水で顔を洗います。
ふわふわのタオルでしっかりと水分を拭きとって……エリク社製の化粧水でお肌ケア。
暖かい紅茶を楽しみながら、化粧水が行きわたるのを待ちます。
その後は鏡台に座ってメイクタイムです。
むむむっ……少しだけ髪のおさまりが悪い気がします。
キレイに切りそろえたボリュームのある赤毛はわたしの自慢なのですが、どうセットしても後ろ髪が左右にひと房ずつ、ぴんと斜めに広がるんです。
お母さまは”天使の羽根みたいで可愛いわよ”と言ってくれるのですが……さらさらと風になびくストレートヘアーにも憧れるお年頃なの!
まっすぐセットするのはあきらめ、トーストとハムエッグを2皿ずつ平らげた後、服を身に着けていきます。
回復術師のトレードマークである紫のケープはそのままに、白とピンクを基調とした神学校の制服風の上着に、赤いラインが入った純白のスカート。
お気に入りの白い二―ソックスに黒のローファー。
いつもより少しだけ気合を入れたメイクをしたわたしは、滞在先の宿屋さんから通りに出ます。
昨日、興奮するアシュリーさんにお願いされ、彼の”ユニット”へ採用されたわたし。
なおも言い寄るアシュリーさんをチョップで黙らせた青髪のお兄さん……レナードさんに、「コイツは興奮すると話が通じなくなるから、また明日朝、ここに来てくれないか、詳しい話をする」と言われ、
ふわふわした気分のまま宿屋に戻りました。
”戦場のアイドル”ってなんだろう?
不思議に思うものの、どこかわくわくした気持ちを胸に抱いて、アシュリーさんたちが待つ建物に急ぎます。
*** ***
「おはようございます。 昨日採用?されたミア・カンタスです」
受付のお姉さんに挨拶したわたしは、建物の二階に案内されます。
二階はアシュリーさんとレナードさんの居住スペースも兼ねているらしく……そのほかに、最近普及しだした魔法通信装置(わたしの故郷にはもちろんありません!)が置かれた部屋とか、大きな講堂?みたいな何に使うのか分からない部屋もあります。
二階の一番奥の部屋でアシュリーさんたちが待っているようです。
「おはようございます、アシュリーさん!」
「おはよう、ミア。 今日も元気だね」
「ん、おはよう」
ドアを開け、しっかり朝の挨拶です。
”気持ち良い挨拶をすれば、一日幸せに過ごせるんだよ!”
お母さまの教え、わたしはちゃんと守っています!
今日のアシュリーさんはスーツ姿ではなく、蒼を基調とした少し派手目の私服です。
もしかしてステージ衣装とかなのかな?
昨日彼が言った”ユニット”、”アイドル”という言葉が気になります。
それにしても、相変わらずさわやかで人当たりがいい人です。
さりげなく椅子を引いてくれ、「そのヘアアクセ、カワイイね」とちょっぴり冒険したアクセを褒めてくれるとか、あふっ、乙女心的にはなまる二重丸ですねっ!
ちなみに、わたしの事はもっとフランクに、呼び捨てで呼んでもらうようにお願いしたので、彼のイケボで「ミア……」なんて呼ばれると、胸がドキドキするじゃないですか。
はい、ミアちゃんけっこうちょろいんです。
自分で言いだしたくせに、やけに動揺するへなちょこ自制心に心の中で回し蹴りを食らわせながら、アシュリーさんたちの準備が終わるのを待ちます。
数分後、白い壁に色々な図やイラストが描かれた大きな紙が貼られ、アシュリーさんが熱く語り始めます。
「まず、”大戦”について……ミアも知っているとは思うけど、モンスターとの”大戦”は、収束する気配を見せない……」
はい、もちろん知っています。
この世界には1つの大きな大陸があり、レンド王国はその西の端にあります。
大陸の東半分は、”魔獣領ガイオス”と呼ばれる、モンスターたちが跳梁跋扈する魔境になっています。
昔は特に大きな争いごともなく、バランスが取れていたらしいのですが、ちょうどわたしが生まれたころ、”魔獣領ガイオス”からこちら側へ大規模な侵攻があり……以来15年以上、”大戦”と呼ばれる戦争が、慢性的に続いています。
「レイトン皇国が中心となった連合軍がなんとかガイオス軍を食い止めてはいるけど、戦線は膠着していて、特に東部諸国の民には負担を強いている……」
眉をひそめ、苦悩の表情を浮かべるアシュリーさん。
わたしは静かに頷きます。
レンド王国をはじめとした西部諸国は、世界最大の国家であるレイトン皇国の後背地として、物資や食料、人材を”東部戦線”に供給しています。
回復術師は貴重なので、少しでも戦いに貢献しようと”治癒ボランティア”に志願したのですが……安全地帯であるはずの野戦病院ですら……戦場のようでした。
増え続ける負傷者に、足りない回復術師。
貴族の義務であるノブレス・オブリージュ……良い経験だからと軽い気持ちで参加したわたしは、今までどれだけ平和な世界に生きていたかを思い知らされました。
悪夢のような数か月が過ぎた後、故郷に戻ったわたしは、レンド王国のお気楽っぷりに、違和感すら覚えたほどです。
なので、ボブ王子のお妃候補として選ばれた時は、自分の人生や実家だけではなく、戦争に苦しむ東部戦線の人たちを救えるよう、妃になれたら王子に進言するつもりでしたが……。
あっさり婚約破棄されちゃったため、こんな感じになっているのです。
それに、婚約破棄の理由が……大臣さんから言われた理由があまりにしょうもなかったので今まで我慢していましたが……。
ううううっ、スレンダーな曲線を描く自分の上半身を見直します……わたしとしては魅惑の曲線だと思うのですが……ボブ王子が、
わたしの後に登場した胸の巨大な貴族のお姉さんにお妃候補の座は移ってしまったそうです。
世界を憂いていたはずが、自分の体形コンプレックスに思考を支配されてしまいました。
アシュリーさんの話は続きます。
「だから僕は考えた……レイトン家に代々伝わる伝説の”聖衣”……これに秘められた力をすべて引き出すことが出来れば……戦場に福音をもたらす女神……吟遊治癒アイドルを生み出すことができるとっ!」
……あれ?
先ほどから熱く語るアシュリーさんの言葉の中で、何か引っかかることがある気がします。
アシュリーさんのフルネームはアシュリー・レイトン。
世界最大の国家、レイトン皇国……アシュリーさんの言った”レイトン家”という言葉……え、もしかして?
「……あの、すみません……アシュリーさんってまさか?」
話が途切れるタイミングを見計らい、おずおずと質問するわたし。
わたしの想像が当たっていたのなら……。
「あ、そうか……自己紹介の時に言ってなかったね」
「僕はアシュリー・レイトン」
「レイトン皇国の
きょとんとした表情を浮かべたアシュリーさんは、何でもないような口調で自分の素性を明かします。
「ほっ……」
「本物の皇太子さまあああああぁぁ!?」
世界最大国家の皇太子さま……思いもよらなかった衝撃の出会いに、わたしは思わず椅子から立ち上がって叫んだのでした……。
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