第24話
「あっちだ。追え! 侵入者だ!」
廃ビルの三階廊下を逃げ惑う九重と結愛。
走っている最中にもかかわらず、口げんかを始める始末。
「おい、俺らなんで敵に追いかけられてんの? 隠密行動を心掛けて、交戦は最終手段でって言ってたよな?」
「自分が大事なところでおならするからバレたんやろ!? ほんまバカなん?」
「っるせえ! う○こ漏らすよりマシだろ」
「う○こもおならもアカンわ! ていうかウチにそんな下品な言葉言わせんといてや。ヒロイン力落ちるんやけど」
「俺ぁお前を下ネタにも対応できる貴重な女子のツッコミ枠として起用するつもりなんだよぉ!」
「勝手にブッキングせんといて。お嫁にいけへんくなるから」
「お、さっそくテンポのいいツッコミ。実はお前……嬉しくなっちゃってる?」
「なっちゃってへん!」
廊下のつきあたりを左に曲がり、敵の追跡を撒こうと試みる。
階段を駆け上がり、四階へ。
電気が通っていないため、廊下はどこの階でも薄暗い。窓から差す月の光がほんのりと照らすのみ。九重たちと敵が踏みしめる足音がタンッタンッ、とせわしなく反響する。
とにかくビル内を駆け回り、敵と一定の距離を取れたところで、九重と結愛は教室ぐらいの広さの部屋になだれ込む。
ほこりが舞うこの部屋で、九重と結愛は息をひそめる。
「逃げ回ってばっかりやったらいつまでたっても絹衣ちゃんの居場所わからへんやん」
「それどころか敵のドンすら見かけねえ」
ひそひそと話す。
「もし自分ひとりやったら、絹衣ちゃん見つけて連れて帰れる?」
「ドンもぶっ飛ばしてやれるぞ。だがそれはお前がいても可能だ。わざわざ離れなくてもいい」
「うそや。自分、もうおおよその見当ついとるんやろ。でもウチがおるから無茶できへんのや、違うか?」
結愛は真っすぐに九重の瞳を射抜く。逃がしはしないと。
九重は明確に彼女の視線に応え、それからコホンと小さく咳ばらいをした。
「ちげーよ。その……あれだ。実はさっき階段上がってる時にな、ひざをやってしまって」
「ウチのシリアス返せ」
「悪気はねえんだ。俺ぁ口調だけじゃなく身体機能もおっさんくさいんだよ。適当なキャラ付けじゃねえんだ」
「キャラ付け……っ!」
「もうええわ」とため息交じりに吐き捨て、結愛は立ち上がる。
「ウチが足止めしといたる。その隙に自分はこっそり絹衣ちゃん探しといて」
「お前、でも――」
「侮らんでええよ。ウチ、今でこそ下位ランクの証の黒制服着とるけど、前は絹衣ちゃんとバディ組んどったぐらいにはやる女やってんで。ある任務の時に怪我してもうて実力出せんようになったけど、それでもあん時の感覚はまだ残っとるんや」
だて眼鏡をクイッと上げる結愛。レンズ越しに見える彼女の瞳は笑っていた。
立膝をついている九重は彼女を見上げる形になっていた。
「じゃ、ウチは前から出るから自分は後ろの扉から出てな」
そう言って、結愛はドンッ、と思いっきり前の扉を開け敵の注意を九重から逸らしていった。敵は結愛につられて、勢力が分散していった。
その隙に九重は可能な限り気配を消しながら、階上へと急いだ。
「ったく。変に劣等感なんて抱く必要はねえよ」
彼が駆け出すと同時に、その独り言はほこりと共に宙へ舞った。
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