ダンジョンに行きたい
ダンジョンというのは、世界中に存在し、神が作ったとされる迷宮である。火、水、風、地、雷、光の各属性ごとのダンジョンが存在し、自身の適性を持つ属性と同じダンジョンの試練をクリアすることで適性があった加護が与えられる。
ダンジョンは難易度により入り口が分かれていて、自身の持つ魔力量によって入れる難易度が決まってくる。
試練は難易度により5段階あり、クリアする難易度が高くなるほどより高い加護を与えられる。
ただしダンジョンには二つの種類がある。一つは加護を手にすることが出来るダンジョン。もう一つはダンジョンの機能が失われ、加護を手にすることが出来ないダンジョン、それを
ロストダンジョンは放置することでダンジョンブレイクが起きる。これは本来はダンジョンでしか生息できないモンスターがダンジョンから出てきてしまうという現象だ。それを防ぐために定期的に中のモンスターを狩らなければならない。
故に、ロストダンジョンを管理するための施設が作られた。それ訓練所だ。
訓練所は、地下にあるロストダンジョンを囲むように建てられている建造物のことで、冒険者に不人気のロストダンジョンを奴隷により管理させるための施設である。
――ダンジョン史――
「はぁ……はぁ、」(あの筋肉ゴリラ、絶対にいつかぶっ飛ばす)
俺は今、自分の体重と同じくらいの60kgの荷物を担いで走っている。止まることはできない止まったら最後だ。とてもきつい罰があるからだ。
後ろから、鬼のような赤髪、身長は190cm、体重は150kgあるかという巨漢が追いかけてくる。この修練場の教官の一人のリク教官である。
「おい、もやし! 走れ! ちんたらするな! そんなんだから貴様はもやしなのだぞ! くそども走れ! おいE21、E36!お前たちも――」
どうも名前が変わりましてもやしです。もやしというのは白髪ですらっとした細身だからというあだ名です。
地獄の訓練所にきて、2か月が過ぎた。筋肉は多少ついてがっしりしたが、所詮二か月だ。周りの男たちと比べると細い。鉱山にいたときは食事のせいか全然筋肉が付かなかった。
そのため、走り込みの訓練ではいつも最下位争いをしている。
身体強化があるだろうって? それは俺も思ったよ、しかし「馬鹿をいうな、身体強化を使ってたら素の体力がつかないだろう」と教官に言われてからは諦めている。
まあ、もし使えたとしても、例えば100kgの力を持つ男と60kgの力を持てる男がいたとして、120kgを持つためには、前者であれば1.2倍、後者であれば2倍の強化倍率が必要だろう。
身体強化の魔法とはそういうもので、元の身体能力が低い俺は身体強化を使っても、周りの奴隷たちと力は同じくらいだろう。
あくまで力はだ、速度は体重の差で確実に俺のほうが早い。あとは防御力も俺のほうが高い。
何故、筋肉の無い俺の方が防御力が高いかというと、魔力を纏う量によって体全体が丈夫になるからだ、これは人間の体だけではない。物質全部がこの性質を持っている。
ちなみに修練場に来てからは初めに身体強化を教えられたので、ここのやつらのほとんどが身体強化が使える。
流石に1年の差があるし、魔力操作が得意な俺は身体強化の練度では一番だ。
ちなみに、ここの奴隷たちは魔山で一年以上死ななかった者たちがいろんな鉱山から集められているらしく。魔力量が普通の奴隷より多い。さすがに俺よりも魔力量が高いやつはいなかった。そして意外にもあのゴリラ教官は脳筋のくせして、今のところ俺以外でナンバー1の魔力量をしている。
そしてこの訓練所に来てから、一つ悲しいことがあった、どうやら俺は魔術は使えても、魔法を使えないらしい。
それを教官から聞いた俺は数日間落ち込んだ。その落ち込み用はなんとあの鬼教官が「大丈夫だ、平民のほとんどは加護を持たないんだし、魔法は使えないんだから、無属性と同じだろ?……逆に考えろ、無属性はある意味才能だろ」と慰めてくれたくらいだ。
それを言われて逆に俺は傷ついたもんだ……魔法を使えたら今以上に強くなれるのに
昼飯を食べ終わると、午後からは戦闘技能の鍛錬だ。
魔力を槍に浸透させて行くように込めていく、魔力を体の外に放出するのと似た抵抗感を感じる。これは魔力浸透と言われる一種の魔術だ。
槍を正面に構え、突く。何回も何回も繰り返す。
敵を薙ぎ払うように、槍を振る。
槍を突き、振るうことで空気が唸る。そこには、確かな技術があった。この2か月の努力だ。
(俺、才能あるんじゃね?)
そこには慢心している一人の男がいた。
二か月前は「もやし!槍はもっとねじるように突くんだ!力任せにやるんじゃなくて、下半身も使って、腰を使い、手首も使い、全身を使え!」「なに休んでるんだ、休まずに振り続けろ!力任せにやるからそうなるんだ」などと教官に言われたことをとうに忘れている。
俺がそうして調子に乗っていると教官に話しかけられた。
「お前もやるようになったな、もう槍の技術に関しては上級クラスだな!」
ちなみにこの世界には、武術ギルドというのもあり、誰でも入会することが出来る。【
武術ギルドは初級が初心者、中級が中級者、上級は上級者、超級は達人といった感じの強さで、超級にもなると、剣や槍を振るうだけで周りの敵が吹き飛ぶらしい。聞いたときは、ほんとに同じ人間か? 竜級や神級はどんなレベルなんだ? と思ったものだ。
ちなみに上級クラスというのは、俺や教官のように技術があり、
もっとも同じ上級クラスといっても、教官のほうが全然レベルは上だ。それもそのはずで教官は元B級の凄腕の冒険者だったらしい。
ちなみに武術ギルドでは、ほとんどの人が魔力浸透させることができないため、大半は中級で終わるらしいが……
(やはり俺は天才ということだろう!)
なんてことを考えながら俺は槍を振るった。
訓練所の基本的なスケジュールは、朝から昼まで基本的な体力作り→ご飯休憩→昼から夕方までは戦闘技能の訓練→ご飯休憩→夜はダンジョン知識についての座学→就寝となっている
体力作りはダンジョンにおいて、一番重要なスタミナをつけるために、主に重りをつけての走り込みなどが多い。
戦闘技能の訓練では自分の選んだ武器についてそれぞれ講座を受ける、といっても槍と剣の二つに大まかに分けられた。ちなみに槍の担当はリク教官だ。それを知った当時の俺は剣にしとけばよかったなと思ったもんだ……他にも訓練の内容はあるが主にこんな感じだろう。
ダンジョンについての座学ではモンスターの対処法や、ダンジョンのことを暗記させられたり、ボスモンスターなど色々な知識について教えられる。
食事については昼と夜の二回だが、鉱山にいた時と比べると、質も量も、天と地ほどの差があり、栄養バランスについてしっかりと考えられている
他にも、怪我や筋肉痛の時は自由に休むことができる。自由に休めるといっても、訓練をサボるとダンジョンに行ったとき生存できなくなるので、奴隷のほとんどはサボったりしていない。
俺もここに来た当初は毎日のように筋肉痛になったので、初めのころは結構休んでしまっていたが、最近は無休である。
あとは、部屋も大人数で雑魚寝ではあるが毛布や布団などもしっかりしており、鉱山で牢屋の中で固い岩の上で寝てた時とは大違いだ。
このような扱いから、鉱山奴隷と違って、ダンジョン奴隷は大切にされているようだ。ここの教官たちが奴隷差別をしないことも要因の一つである。
――――
「もやし! よく頑張った! お前は貧弱なもやしなどではなく、強い繁殖力を持った。生命力豊富なもやしだ!!」
「結局、もやしなのは変わんねぇじゃないか! このゴリラめ」
……しまった心の声が出てしまった。
「あ? なんか言ったか?」「ーーいえ、なんでもございません」
「まあいい。そうだ卒業したならこれをやろう」
そう教官は言うと、鉄でできた槍を俺にくれた。訓練で使ってた槍と違い矛先がつぶされてないので、刺したり、切ったりできる。
訓練所を卒業する奴隷は武器が貸し出される。それでダンジョンに潜るのだ。
俺は結局2か月と少しという、普通より早めに、訓練所を卒業することになった。
体力作りの鍛錬はビリ争いをしていたが、座学と戦闘技能を教えることはもうほとんどないからだ。
「明日からはダンジョンに行ってもらう……しかしホントにソロでダンジョンに行くのか?」
「はい、自分のペースで行きたいので」
ダンジョンに行くときは、パーティーを組んでいくことのが普通だ。ソロでいくのは自殺行為と言われている。しかし俺にはサボるという目的があった。
いや厳密にいえば、モンスターを必要以上に狩りをしないといった感じだ。何故そんなことをするのかというと、ダンジョンで魔力操作をすると効率がいいからだ。ダンジョンというのは負の魔力が強く、魔力操作が地上よりもやりにくいため、魔力操作の練度を効率よくあげることが出来る。アスリート選手がやる低酸素トレーニングみたいなものだ。
それに、パーティーを組んでいたら、魔石を分けないといけないので、ノルマを達成するのにも効率が悪いし、何より一人だけサボって魔力操作の練習をしているわけにもいかないだろう。
強くなるためにも魔力操作の練習は必須だ。身体強化や魔力探知、魔力浸透も魔力操作の練度が上がるほど強力になる。
明日からはダンジョンに行くことになる。ちなみにダンジョンは訓練所の中にある。なので結局、寝泊りはここの訓練所になる。
(せっかくこのゴリラと別れることが出来ると思ったのに)
新しい刺激を期待に胸を躍らせ、やっと訓練から抜け出せると思い喜ぶ。しかし、そんなことを上辺では思っても、ここでの生活は悪くないなと心のどこかで思っている自分がいた。
★★★★★★★★★
リク教官の基礎能力
魔力量:C
身体能力:A
魔力操作:C+
精神力:D
魔法:火の希少級加護
槍術:B
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