鉱山奴隷
かんかん……とツルハシを打ち付ける音が坑道に響く。岩が砕けて、岩盤の一部に半透明で光る紫色の石のようなものが見えた。それを砕かないように慎重に掘り進める。そしてポロっと
「お、やっぱ魔石あったな。これで今日のノルマは終わりだ」
俺が鉱山に来て、一年ほどすぎた。
何故か異世界に来て衛兵に捕まって、そして気づいたら鉱山という感じだ。
だが何故だろう何か忘れているような気がするんだよな……でも何故か強くなりたいという思いが強い。異世界に来たから冒険したいとかそんなところだろうか自分の心ですら、わからないことがあるな。
ちなみにここは普通の鉱山ではなく、魔石が取れる魔山らしい。ここは空気中より負の魔力が多い。負の魔力とは人間が持つ正の魔力と違い、人に対して毒とされている。
鉱山は暗くなり始めると閉山するため、そこまでに一日のノルマの魔石1g以上を採らなければならない。当然休みはないし、ノルマをクリアできなければその日の食事はない。
ここに来た当初はとてもつらく、ノルマを達成できない時や、閉山時間ギリギリでようやくノルマ分の魔石が掘れるような感じで、食事もろくに食べさせてもらえず、常に餓死寸前だった。ここにはいろんな大きさの魔抗石が採れるがどれも小さくて、肉眼じゃ見つけずらかった。
だがそんな日々を切り抜けられたのは、魔術のおかげだろう。
魔術は魔力を操作する技術が大切で、魔力を体で循環させ身体能力を上げる魔術ーー身体強化。魔力を体から放出する魔術ーー魔力探知。これらのおかげだろう。
まず身体強化がなかったら、貧弱なこの体では、初めのころで死んでいただろう。
そして、魔力探知だ。これが生き残れた一番の要因だろう。
その効果というのが、放出した魔力が届く範囲内の魔力を持ったものを感知することと、その感知したものの魔力の量を測れるというものだ。
これに気づいたのは一か月ごろ経ってからだった。
その日はいつもより早くノルマが終わり、坑道で魔力操作の練習をしていた。まずは魔力を身体を循環させる、そして魔力を放出させる。この時は範囲は数メートルほどだったが、ほんの少しの何かが俺の魔力探知に触れた感じがした。それを不思議に思い魔力が反応したところを掘っていると、そこには魔石があった。
それにより、魔力探知することで魔石を感知できることをしり、それに気づいてからは、魔力探知を使うことで、魔石を早く見つけてノルマを早く達成できるようになった。
あとわかったことは、どうやら魔力探知は距離が伸びれば伸びるほど魔力操作が難しくなっていく、これは身体強化も同じで強化の倍率を上げれば上げるほど魔力操作するのが難しくなっていくことがわかった。後は魔力探知は身体強化よりも魔力を使う量が大幅に多いということだ。
異世界に来てからの発見はいくつもある。一つ目は一般的に毒とされる負の魔力の塊でもある魔石を食べても俺は死なないということだろう。
これは思い出したくもないが、ここにきて1か月半ほど経ったある時、一部に俺のことをよく思っていない奴隷たちに魔石を食べさせられたからだ。
なぜ俺が嫌われているかというと、俺は安定してノルマを達成できるようになっていたこと、髪の毛も白く、細見で東洋風の顔立ちの俺は、あきらかに違う人種ということで、一部の奴隷たちからは目障りな存在だったんだろう。まあ、いじめの一環だったと思う。
魔石を食べると急性魔抗中毒という症状になり、死んでしまうと言われているので、この世界では魔石を食べることは禁忌とされている。
俺も食べてさせられた時は一瞬気持ち悪くなり死を覚悟したが、何故か自分の中の魔力が減って、一瞬で気持ち悪さがなくなった。その後、数日しても何も起こらずそれを見たやつらは悔しがり毎日のように俺に魔石を食べさせたが、結局、数か月経っても大丈夫だった。
いじめてきてたやつらはいくら魔石を食べても死なない俺を見て、不気味に思ったのか関わらなくなっていったが。
二つ目の発見は魔力探知は魔石の位置がわかるというメリット以外にも対象の魔力量もわかるという機能がある。そして俺の魔力量が明らかにおかしいことに気付いた。
俺の魔力量は膨大すぎるのだ。一日中、身体強化の魔術をしていても使いきれないレベルだ。俺の魔力量を湖とすると、衛兵や奴隷はそれこそ雫の一滴ほどだろう。
他には、異世界に来て変わった事といえば何故か俺の髪の毛が白くなっていることだ。髪の色彩が抜けて完全な白といった感じだ。
何故かこの髪の毛を見ると奴隷たちは「無能だ」と馬鹿にしてくる理由を聞いても、お前は生まれた時から無能なのだから無能なんだと話にならない。こいつらの知能レベルはチンパンジー並みだから聞いても無駄だろう。
そんなこんなで、いろいろあり、流石に1年も異世界で過ごした。
そして奴隷たちの話を聞いたり、衛兵に聞いたりして、この国のことが少しわかった。
・この国では奴隷は基本的には解放されない(抜け道を模索中)
・奴隷の首輪は聖職者にしか外すことができず、首輪によって居場所を特定される
・エルフ、ドワーフなどは亜人とされていて、この国では奴隷しかいない
・この国の身分制度は大きく分けると下から順に奴隷→市民→軍人→貴族(聖職者)→王族
あまり話を聞けなかったので、少ないがこんなところだろう。
今日のノルマを達成したため、俺はこの一年を振り帰りながらも、魔力操作の練習をする。今以上に身体強化や魔力探知の練度を上げて早く強くならなくてはいけないのだ……
閉山の時間となり、魔石は入り口で衛兵に回収された。
鉱山から出ようとすると衛兵に声をかけられた。
「B52、食事が終わったら鉱山長のところまで来い!」
ここでは奴隷は人間扱いされてない。
ちなみにB52とは俺のことだ、ここの奴隷には、Aから始まり、その後ろに二桁の数字をつけられた名称が奴隷の名前だ。この鉱山には奴隷が100人ほどいる。だが鉱山奴隷は怪我や魔抗中毒などで、すぐ死ぬため、入れ替わりが激しい、もう俺もこの中では古参なほうだろう。
そのまま衛兵から食事を受け取り、それを食べる。いつも通りの固いパンにくさいスープだ、もうこの味には慣れたものだ。ここに来たときはよく腹を壊したものだ。
食事を食べ終わると、鉱山長の部屋へ向かった。
俺は部屋の前に着くと、声を出した。
「……B52です。失礼します。」
「入りたまえ」
そう言われたので、俺は部屋に入る。鉱山長の部屋に初めて入ったが、悪趣味な成金趣味のような部屋だった。俺たち奴隷から巻き上げた魔抗石で随分と儲けてるらしいな。
禿散らかした頭にでっぷりとしたお腹の鉱山長が口を開いた。
「さっそくだが、貴様にはダンジョンに行ってもらう」
おいおい、よりにもよって次はダンジョンかよ、ダンジョンとは負の魔力が強くモンスターが出現する迷宮のことだ。モンスターとはゲームに出てくるゴブリンなどといった生物だ。そんな危険な場所に戦闘経験のない一般人の俺が行ったところで生き残れるはずがない。身体強化にしても、戦闘経験のない俺では地球のクマを倒すことすらできないだろう。
「……お言葉ですが、私には戦闘経験がありません。ダンジョンに行ったところで使い物にならないでしょう」
「奴隷ごときがわしに反論するつもりか!!」
俺がそう言うと、鉱山長が怒る。裕福な市民である鉱山長は奴隷に反論されてプライドが刺激されたのだろう。しかし、切れたいのはこっちの方だ。
(てめぇみたいな禿ブタに切れられる筋合いはないだろ……)
そんな思いは外には出さず、申し訳なさそうな雰囲気を装い謝罪し、考えを話す。
「大変、申し訳ございません。しかしダンジョンに行くよりも、鉱山にいたほうが鉱山長の役に立つと思いますが……」
「奴隷は何も気にせず言われたことをしてればいいんだ! お前などいたところで私の役にはたたないし、これは決まり事だ、ここで魔抗中毒を起こさずに一年以上働いた奴隷は、ダンジョンに送られることになっている」
なるほど、そんな理由があるのか。しかし、こっちが下手に出てるからっていい気になりやがって、いつか絶対ぶっ飛ばしてやる。
あと、魔抗中毒というのは魔力の低いものほどなりやすいため、俺は大丈夫なはずだろう……そんなことを考えていると、鉱山長はまた話をし始めた。
「だが、貴様の心配は無用だ、これからダンジョンの訓練所に送られて、そこで何か月か訓練をしてから貴様はダンジョンに送られるからな」
魔山で一年以上生きてる奴隷はあまり居ないようで貴重だからか、使い捨てはされないようだ。
しかし、なるほど、それなら何とかなるか?
身体強化を練習し続けた俺の能力は、地球でのトップアスリート並みだろう。戦闘方法を教えて貰えさえすれば、異世界でいうところのゴブリンは倒せるはずだ。なにより魔法についてもっと詳しくわかるかも知れない。
「明日の朝に出発する、ーー」
鉱山長が何か言っているようだったが、魔法について知れるかもしれないという期待とダンジョンが危険な場所だと聞いていた不安から、俺の耳には話が入ってこなかった。
話が終わると、期待と不安を胸に俺は牢屋に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます