シナリオ44


「邪心像よ! 我に行く道を示せ!」


 アグリが像を掲げると、扉はガラガラと音を立てて開き始める。


(助かった……)と安堵したのも束の間、明るい方へ、扉の向こうへと飛び出した。


 変化は顕著だった。

 ただ、太陽が燦々さんさんと照り付ける光の中へと飛び込んだだけなのに、アグリの精神力が大きく回復したのだ。


「やっぱり農民にはお日様の下が一番だな……あんな闇の世界など俺には似合わない!」


『違うと思われます。あなたは間違いなく闇の住人です……』


 肩に担いだエルフ娘まで「ヘ、ヘンタイ……!」とボンテージオークと対峙した時のような悲鳴を上げる。


「二人とも、酷い! こんなに頑張っているのに!」


 しかし、すぐに理解できた。峡谷の乾いた風を全身に浴びたことで。

 股間でヒラヒラと風に舞うふんどしに気付いたのだ。


「なっ、なんで脱いでるのさ! バグかよ!」


『組織の幹部でもないのに邪心像を使った弊害へいがいでしょう』


「そんな話、聞いてない!」


『人形ジジイはピュアな精神の持ち主には弊害へいがいがあると言っておりました。現在のその姿は邪心そのもの』


 『邪心像』を使うには、邪心の化身けしんとなる必要があるということか。

 アグリがピュアな精神の持ち主だったから、邪心的な装備に変更された。


(褒められているのか、けなされているのか、変な気分だな……)


 などと考えていると、背後から素直な称賛が聞こえて来た。

「あなたのその姿……そそるわ……」と。


 ラミア様だった。

 だが、洋館の戸口にたたずんだまま。向かってくる様子はない。


「このままこんな場所で殺してしまうのはもったいない……いつかその反抗心ごと刈り取って、思い切り抱きしめてあげる……」


 最後に、「また会いましょう」という言葉を残し、洋館の奥へと消えて行った。


「お、俺は助かったのか?」


『彼らの装備はGM様が御定めになられた十八禁コードを満たしておりません。建物の外へは出られないのでしょう』


「アイツらの装備が卑猥ひわい過ぎるってこと……? じゃあ、俺も危ないじゃん! ふんどし一丁!」


 アグリの疑問に今度はエルフ娘が答えてくれた。


「ふんどしまでなら大丈夫……それに、私の心も慣れて来た……ほんの少しだけカッコ良いと思えるようになった……ちょっとワイルドな畑の住人?」


『以前も説明しましたが、農夫の木綿のふんどしは見せパンと同じカテゴリーに分類されています』


「そういうオチは要らないっ!」


 かくして、アグリは最後の人質の救出に成功し、洋館を後にしたのだった。


(そういえば、ラミア様はリアルクエストとかセーブとか……もしかして……)


  ☼


ピコピコ:洋館での危機を脱したアグリ。このまま村も脱出できるのか?

【シナリオ46へ】

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