シナリオ43
『執務室』を出るとちょっとした騒動になっていた。
「人族の匂いがするブヒ!」「うまそうな匂いガウ!」「観客に人族が紛れ込んでいるゴブか!」「センム、どうするゴブ!」「徹底的に建物内を探すのダ!」
主だった喧噪は、反対側――観客席の方から聞こえていた。
だが、アグリのゲーム勘は忍び寄る危機を告げていた。
(この雰囲気は……ラミア様か……?)
アグリの持つ武器では、ラミア様の爬虫類然とした
事実、アグリより5倍も10倍もある大型モンスターが、悲鳴を上げて
とてもじゃないが、戦える相手ではない。
「あっ、開かないぞ! この扉どうなってんだ!」
なんとかモンスターに見つかる前にお勝手口(裏口)まで辿り着いたものの、扉は固く閉ざされていた。
扉には鍵穴もドアノブさえも見当たらない上に、アグリの蹴りではびくともしない。
「フフフ……その扉は魔法で施錠されているのよ。解除に必要な
そんな説明と共に足音もなく姿を現したのは、ラミア様だった。
絶望に沈むアグリを
「フフフ……やっぱりお前は男の娘だったのね……」
「やっぱりって、俺の正体に気づいていたのか?」
「ええ……でも、所詮お前はコスプレ止まり。本物のこちらの世界を知らない。だから飼い殺しにして、そのカワイイ体に教えてあげようと思っていたのに……ああ、ザンネン……」
愉悦に満ちたラミア様の表情を見て、アグリの背中に悪寒が走った。
果たして、ただの恐怖なのか。それとも未知なる世界への興奮を抑えきれないだけなのか。
「飼い殺しって……プレイヤーの俺にそんなことが出来るはずがない! こんな魔王軍から見捨てられたようなはぐれ者組織に!」
さすがに、魔王軍の調査官――マルサまでがこの組織に侵入して調査している事実までは教えなかった。
「出来るわよ……私から奴隷という称号を授かれば、セーブ後のリスタートは常に私の
どうやらゴブリンレッドの情報には誤りがあったようだ。
この組織は魔王軍から見限られた集団ではなく、未だ何らかのつながりを持っているらしい。それともラミア様だけがこの組織で特別な存在なのか。
「その答えが戦争で勝つための美容整形(豊胸手術)かよ!
とは叫んでみたものの、なんの効果もなかった。イタチの最後っ屁、もしくは負け惜しみだ。(*イタチの最後っ屁=切羽詰まって最後の非常手段に出ること)
「あらっ? あなた、幼児体型がお好みなの? そのエルフのような絶壁が大好物って言うんじゃないでしょうね? 心も体もあまりに貧弱で見苦しいから、エルフの里も森もすべて焼き払ったというのに……」
「そんな酷いことまでやっているのかよ……オッ〇〇の大小に
「あなたの師匠って、
「貧乳どころか、俺の尊敬する師匠まで愚弄するとは……!」
怒りに任せ、武器――農具『熊手』を取り出した。
「そんな物騒な武器……あなたの
アグリの視界に斜線が生じた。
その直後、最強の武器――『熊手』は真っ二つに。一瞬にして叩き折られてしまった。
アグリの目には何も見えなかった。
結果からラミア様のしっぽ攻撃と想像できたが、SMショーとでは速さも強さも段違いの差があった。
もう打てる手立ては残っていない。
最強の武器を失った今、他の農具では太刀打ちできない。エルフ娘を背負ったままでは、逃げ切ることも困難か。
(このまま一生ラミア様の奴隷として………………農夫を続けるよりいいかも?)
そんな絶望に
そして微かに呟いた。
「この蛇女が私の里を焼いた…………絶壁?」と。
(おい、余計なことを考えるな……ここは一旦、土下座して命を永らえて……)
しかし、エルフ娘は止まらない。
アグリの肩口から腕を伸ばし……。
「いかづち!」
攻撃スピードだけならば、ラミア様をも上回っていた。
ただし、ファンタジーゲームの世界では使い古された攻撃手段、その出だしが圧倒的に分かり易かった。
つんざくような雷鳴と共に、光の帯が発生。
それと同時にラミア様も体をくねらせ回避。
(ミスか……!)
しかし、いかづちは大きく角度を変えて蛇のような胴体へと突き刺さる。
「こ、こしゃくな……エルフの小娘が!」
さすがに子供の魔法では一撃必殺にはほど遠い。
しかし、ラミア様は苦悶の表情を浮かべたまま、動かない。
否、動けないのだ。
「エルフ族って子供でもすげぇ! あのラミア様が一撃でマヒした!」
☼
ピコピコ:アグリはエルフ族の魔法に驚き、状況を見失っています。適切な行動を指示してください。
「マヒしている間に逃げるぞ!」
お勝手口からの脱出を諦め、正面口へと逃げる。
【シナリオ45へ】
「魔法の扉を開けるには
邪心像を頭上に掲げてみる。(*『邪心像・レアアイテムC』を所有している場合のみ選択可能)
【シナリオ44へ】
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