シナリオ36


「結局、こうなるのかよ……」


 ブツブツと愚痴を口にしながら、アグリは一人洋館へと向かっていた。

 緊急クエストにそぐわない恰好(コスプレ姿)で、危険地帯へ向かわねばならないことへの愚痴ではない。


 つい先ほどのシルヴィとのゲーム考察でもあったように、人質が村の入口に配置されているなどゲーム的にあり得なかったのだから。


 完全にゲームクリエイターの策略に振り回されている。

 村南部から侵入し、村中央の古井戸、北部の村長の家、南部の村の倉庫、そしてまた、村の北部へと向かわねばならなくなった。

 あからさまに怪しい洋館も、謎アイテム『ご優待券』も、ゴブリンレッドが簡単にくれたレアアイテム『マジカル変身セット』さえも、このための前シナリオ――演出に過ぎなかったのだ。


 アグリはこれまで以上にコソコソと村の洋館へと向かった。

 コスプレ姿が恥ずかしいというわけでもない。

 そのような羞恥心しゅうちしんなどクエスト冒頭で、ふんどし一丁で踊らされて以降、(プレイヤーへの好感度と共に)捨て去っている。(*『踊る』を選択したプレイヤーのみ)


 アグリの頭上には、これまで行動を共にしていた羽トカゲがいない。

 子供たちのそばに護衛として残したのだ。

 ドラゴニュートの力量ならば、シルヴィが駆けつけるまでの時間稼ぎぐらいはできると信じて。

 それに、洋館へは元社畜である羽トカゲは立ち入れない。


 このように配置するのがベストな選択だったと信じたかった。


  ☁


(本当にこの恰好で大丈夫?)


 アグリは洋館へ到着すると、扉をドンドンとノックした。

 以前、同じ場所で邪心像を掲げても、ふんどし一丁で踊っても、うんともすんとも言わなかった扉であるが、思いの外、簡単に反応があった。


「こんな時間に誰ゴブ? ショーはとっくに始まっているゴブ」


(この声……ゴブリンレッドか?)


「もしお前が招待客ならば、ご優待券を提出するゴブ」


 しかし、最年長の女の子からは「ご優待券を使うな」と厳命されている。


「オラは……この洋館の従業員だべ!」


 連れ去られた女の子は洋館で労働させられているという。それならば、女装したアグリも従業員として通用するかもしれない。


「従業員なのにお外で人語を使い、正面口から入ろうとするなど絶対怪しいゴブ……お前が本当に従業員なら合言葉を言うゴブ」


(合言葉なんて知らねぇって……)


「シャチクプチュンロード、シャチョーグースカ……ゴブが言っていることは理解できるゴブ?」


(それがこの洋館に入るための合言葉か? なんか変じゃね?)


  ☁


ピコピコ:アグリは何と返答しますか? ここまでのゴブリンたちとの会話を思い出し、答えてください。


「社畜には有休を、社長には厳罰を!」【このまま読み進む】


「社畜には残業を、社長には休暇を!」【シナリオ37へ】


  ☁


「お前が言っていることは正しいゴブ。しかし、この合言葉はこの村の社訓でもあるゴブ。おまえ、この村の者ではないゴブ。早々に立ち去るゴブ」


(えっ、マジ? ゴブリン語を間違った?)


 アグリは慌ててドンドンと扉を叩く。


「おい、レッド、開けてくれよ! 社畜にはサービス残業を! 社長にはゴルフ休暇を! 本当はそういいたかったんだ! でも、本能が邪魔をして……」


 しかし、ゴブリンレッドからの返答はない。

 それどころか、いつの間にかアグリの周囲をゴブリンたち――社畜たちが取り巻いていた。

 憤怒ふんぬの表情を浮かべて……。


「シャチクグースカ、シャチョープチュンマンジ……(社畜には有休を、社長には厳罰を……)って、もう遅いよね?」


「コッペチートゴロゴロゲー! マッパ!」


「あっ、今、なんとなく理解できた! こんな嘘つき男など同志ではない……裸にいてしまえ、って言ったよね?」


  ☂


ピコピコ:アグリはマッパに剥かれて死にました。

【シナリオ4へ】

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