シナリオ32
「ニャニャニャ、シーラにゃ~ん!」
プレイヤーギルドに到着すると、早速、シーラさんが担当する窓口へと向かった。
当然のごとく、周囲からの視線は(一部を除き)冷たかった。
「ネコ族マッパだ!」「十八禁行為だ!」「ヘンタイひまわり漢が出現したぞ!」
「伝説のエロゲ、にゃん娘物語とのコラボ?」「いやいや、そんな話聞いてない!」「ギルドには未成年だっているんだぞ!」「規制緩和バンザイ!」
しかし、アグリは気にならない。
爪の先で陽気にタップを踏みながら、『お悩み相談』窓口の最後尾へと並ぶ。
シーラさんの窓口には全く見識のないプレイヤーも大勢並んでいたが、アグリの姿を一目見て順番を譲ってくれた。
「君の悩みが最も深刻そうだ」「どれほどの悩みを抱えていたらそこまで?」と。
プレイヤーの中には、アグリを気遣う者さえいた。
「急いだほうがいいよ」「ゲーマー心理を理解できない頭の固い番兵NPCが駆けつける前に……!」「悩みを他人に打ち明けることは恥ずかしいことではない」「アタイも君みたいにオープンになれたら……」「ちょっとオープン過ぎだって!」
アグリも彼らも同じゲーマー。同じ悩みを抱えていても不思議ではないのだ。
しかし、エルフ族であるシーラさんは違った。
「シ、シーラにゃん?」
アグリが呼びかけても、耳の先まで真っ赤に染めて
時折、酸欠の金魚のように口をパクパクと動かしているだけ。
「マ、マ、マ、マ、マ、マッパ……!」と。
やがて、騒ぎは大きくなっていく。
他の窓口嬢は、「ヘンタイエロゲーマーよ!」「GM様に通報!」と騒ぎ、シーラさんの背後の席の上司などは、「プレイヤーギルドで
「シーラにゃん……ミャ~は……」
シーラさんはネコ漢に変身したアグリに気付いていないだけだろうが、ここで変身を解くわけにはいかない。
恥ずかしいわけではない。ラミア様の魅了攻撃と呪いでそのような感情など完全に消え失せている。
ゲーム的な意味で、人族のマッパは完全にアウト。GM様がお定めになられた十八禁行為に反するため、アカウントもろとも消滅してしまいかねない。
「そ、その口調は……アグリ君?」
これぞ二人の好感度がなせる愛の奇跡なのか、シーラさんはアグリに気付いてくれた。
「そうニャ! 元農夫のアグリニャ!」
「どうして……そんな格好で……!」
「変なのニャ! どんな格好をしても、他人からどんなに罵られても、ぜんぜん何とも思わない心と体になってしまったニャ! きっとラミア様の呪いニャ……」
しかし、すべてが遅かった。
屈強な兵士がアグリを取り巻き、嫌悪感を
「破廉恥ひまわり男、逮捕だ!」「こんなヘンタイ露出狂と関わっちゃダメ!」と。
「ア、アグリ君……」
「シーラにゃんっ!」
アグリの心と体の悩みは、もう二度とシーラさんには伝わらない。
そう悟ったアグリは、ヒマワリの花を必死にシーラさんに差し伸べる。
「いままでミャーの色々な悩みを聞いてくれてありがとニャ……そして色々と迷惑をかけたニャ……せめてものお詫びとしてこの花を……」
今回のクエスト受注前、シーラさんはひまわりが大好きと言っていた。
そして、アグリもアロマオイルの返礼として、いつの日かひまわりの花をプレゼントすると約束した……。
ロマンス映画のような美しい情景。
異種族の男女二人が織り成す感動的な惜別シーン。
『お悩み相談』窓口に並んでいたプレイヤーはおろか、番兵や窓口エルフ嬢までが固唾を飲んでアグリとシーラさんを見守った。
アグリとシーラさんに最後の時間を与えたのだ。
このような極限の状況に置いても、『TACT』社の最新AIは空気を読むことが出来るのである。
「そ、そんな……股間を隠していたひまわりなんていらない……」
「「「「「ですよね~」」」」」
シーラさんは同じAI制御でも空気が読めない。とてもザンネンなキャラ設定なのだ。最新AIでも設定には逆らえない。
だからこそ、こんなアグリとも普通に接することが出来るのだろうが。
「さあ、こんな
アグリは番兵に引きずられるように連行された。
「シ、シーラにゃ~ん!」
☂
ピコピコ:………………。
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