シナリオ25
「へぇ~そうなんだ。ボヤ騒ぎを利用して人質を見つけるなんて。君、なかなかやるわね!」
(シルヴィって、やっぱりちょろいな……)
先ほどの選択肢に変化が生じた理由も、羽トカゲの暴走が原因だろう。あの放火事件がなければ、シルヴィもアグリの前に現れなかった。
考え方によっては、
「羽トカゲの活躍のおかげです!」
「キュッキュ!」
羽トカゲは無邪気に喜んでいるが、アグリの胸の内など理解できていないだろう。
アグリはモンスターテイマーではない。アグリと羽トカゲの間には、主従契約がない。つまり、羽トカゲはリアル世界の非正規社員と同じ。
シルヴィが気に入らなければ、簡単にクビに(討伐)されてしまう立場なのだ。
「でも、君って農民だから、魔法が使えないよね? どうやってこのボヤ騒ぎを起こしたの? 松明で放火? すぐバレない?」
「えっ?」
シルヴィはちょろい。それは間違いない。しかし、この『リアルクエスト』に招待されるほど、ゲーマーとしての勘は鋭いのだ。
「モンスターのフィギュアショップでは、楽しそうにお買い物してたわよね?」
「ええっ!」
「教会跡地では、なんだかゴブリンと親し気に会話してたし……」
(ぜんぶバレてる~)
なんでも、シルヴィが待機していた村の北には、見張りに適した高台があり、そこからアグリの動向は丸見えだったそうだ。
「フィギュアショップはしょうがないよね? ゲーマーとして見過ごせないし、お宝はすべて回収しないと!」
アグリの推測が正しければ、シルヴィは必ず同意する。そういう根拠があった。
「確かにそうね……アイテムコンプは当然かも……でも、あのゴブリンは? 親し気に話をしてたわよね? 拳まで突き合わせて」
「アレは税金相談。レッド……あのゴブリンレッドは上位種で、税理士の資格も持っているって聞いたから、相談に乗ってもらっていたの!」
まるで浮気がバレた男の言い訳のようにも聞こえるが、嘘や言い逃れではなく、本当の話。
現在、アグリには滞納している年貢があり、このままだと強制労働、もしくはステータス降格――奴隷(農奴)になってしまう。
それを回避するための対策を教えてもらったのだ。
さらに、にゃん娘パブで未払い状態にある入店料(10ガルズ)を返金できる裏ワザまで親切に教えてくれたのだ。
「マジ? ゴブリンに税金相談……? あのにゃん娘パブに借金まであるなんて……君ってどういうゲーム生活を送っているの?」
『プレイヤー・シルヴィとの好感度が著しく低下しました』
そんなテロップまでアグリの視界に過ったが、クエスト攻略のためなら多少の好感度の低下は致し方無い。
(っていうか……話に聞くだけだと、俺のゲーム生活ってクズ過ぎない?)
年貢を滞納したのはアグリの元キャラであるNPCだし、返済が困難な理由も地主であるアグリに無断で農園を拡張したカミラさん(NPC)だ。
にゃん娘パブの未払い金はアグリの責任ではあるが、初回ログイン時に知らずに、本能に従いうっかり店に入ってしまっただけ。
今回のボヤ騒ぎも羽トカゲが勝手に……この事実は言わないけど。
「いやいや、本能であんなサービスを提供しているお店に入っちゃだめでしょう!」
「ですよね~」
「それに……村中央の井戸でゴブリンを
「見てたの!」
「見てたっていうか、
「シルヴィさんのえっち!」
「ええっ、わたしの責任なの!」
(やっぱりシルヴィはちょろいな……)
自分と羽トカゲの失態を誤魔化すことに成功したアグリだったが、クエストは未解決のままだ。村のボヤ騒ぎも依然として収まっていない。
このままだと再び責任を追及されかねない。
これまでの成果――人質の居場所を教えなければならないだろう。
☼
ピコピコ:これからはシルヴィと行動を共にします。次の目的地を選んでください。
『人形ジジイの館』
「人形ジジイが子供たちの居場所を知っている。シルヴィの力があれば、聞き出せる!」
【シナリオ27へ】
『洋館』
「どう考えたってあの建物は怪しい……クエストに無関係なはずがない!」
【シナリオこのまま読み進む】
『村の倉庫』
「俺のにゃん娘そっくりのエロパネルはただのトラップではなかった。俺の心を混乱させて人質を隠すための囮だったのだ!」
【シナリオ28へ】
☼
「俺は、あの洋館が怪しいと思うんですよね……」
「わたしもそう思う。ゴブリンレッドも見張ってたんだよね? あれほど怪しい建物がクエストに無関係とは思えない」
「でも、入れないんですよ。正面口もお勝手口も固く閉ざされていて……」
「う~ん、なにかアイテムが必要なのかな? 鍵とか?」
「邪心像ってアイテムも使ったんですけど、効果ありませんでした。俺のゲーム勘ではコレがすごく怪しいんですけど……」
「高台から見てた……でも、さすがにアレだけはないと思うよ。建物の前で裸踊りするなんて……」
「出歯亀とか、シルヴィさんのヘンタイ! でも、どうしてないと確信できるの?」
「裸踊りなんて女性アバターだと無理だよ……普通の精神の持ち主なら、男性でも無理だと思う……ヘンタイは君の方だと思う……」
「確かに……」
「そうだ……ここへ来る途中、こんなもの拾ったんだけど……君はゲットした?」とシルヴィがアイテムストレージから取り出したのは、一枚のチラシ広告だった。
「これは……」
アグリにも覚えがあった。同種のものが『村の倉庫』にも山積みされていたから。
アグリもシルヴィもモンスター語は読めないが、そのチラシ広告には、ゴブリンレッドが見張っていた『洋館』への簡易マップと、切り外して使用する『ご優待券』がついていることまで判明していた。
「コレがあれば、あの洋館に潜入できるかも?」
ついでにゴブリンレッドとの約束も果たせる。まさに一石二鳥。
「でも……なんでこんなものまで持っているんです?」
シルヴィの所有していたチラシ広告には、あられもない姿のラミアや卑猥なボンテージで着飾ったオークなど、かなり過激なイラストまで描かれていた。
シルヴィのようなハイソな女性が所有するには、とても適さないゴミだ。
シルヴィの中の人は、腐女子なのだろうか……。
「ちがうからっ! アイテムコンプ目指しているだけで……!」
「それでよく、俺がエログッズ集めていて、最低呼ばわりできますよね?」
とまでは言わなかった。エリートプレイヤーにもプライドがあるだろうし。
「二手に分かれましょう!」
☼
『ご優待券』を受け取り、洋館へ向かう。
【シナリオ15へ】
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