シナリオ13


「ゴブリンのくせに下手に見やがって! 俺は元世界一のゲーマーだ!」


 ゴブリンに猛然と襲い掛かった。


 アグリの先制攻撃。

 ゴブリンの胴体にめがけてタックル。

 ゴブリンを地面へと転がした。


「連続攻撃だ!」


 いくらゴブリンの虚を突いたとはいえ、アグリの攻撃力(レベル一)では致命傷は与えられない。しかも素手だ。

 アグリの右腕が虚空こくうに円を描いた。

 アイテムストレージを呼び出すための『ショートカットモーション』。

 ここはアグリの最強の武器――農具『熊手』を装備して、一撃で仕留める。


「あっ、アレ? なんで?」


 しかし、アイテムストレージへのショートカットモーションが使用できない。


「こんな時にシステム障害かよ! おい、ピコピコ! アバターのシステムが故障した! 何とかしろ!」


『故障ではありません。そういう仕様なのです』


「仕様だと?」


『現在、あなたは木綿のふんどし一枚です。その状態ではアイテムストレージからアイテムを取り出すことは出来ません。ステータスコンソールでのマニュアル操作が必要となります』


「なんでだよ!」


 マニュアル操作でのアイテム取り出しが可能と説明されても、「戦闘中は無理!」としか言いようがない。

 『農民(農夫・農婦)』には時間経過により『おにぎり』が(アイテムストレージに)自動ポップする『農民スキル』を有している。

 これさえあれば、廃人レベルの引きこもりでも餓死だけはしないという便利なスキルであるが、唯一の欠点がその量を調整できないこと。


 ちょっと油断すると、アグリのアイテムストレージは『おにぎり』であふれかえってしまう。

 君は想像できるだろうか。アイテムストレージのカオスを……。



『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『なた』『おにぎり』『おにぎり』『トマト』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『ニードルエルクの肉』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『ちょっとエッチな本』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『トマト』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『おにぎり』『トマト』『おにぎり』『おにぎり』『熊手』『おにぎり』『おにぎり』『『おにぎり』『やくそう』『おにぎり』『竹槍』『おにぎり』『じゃがいも』『おにぎり』『タケノコ』『おにぎり』……。


 もはや、ゲーム系絵本『ウォー〇ーを探せ』どころの話ではない。

 100TB(テラバイト)以上ものゲームプログラムが収められたSSDから、検索機能も使わずに、昭和時代の脱衣麻雀15MB(メガバイト)を探し出す行為に等しい。

 本来ならばAIが自動で分類すべき案件だが、アグリの内蔵AI(ピコピコ)は面倒がって全く手伝ってくれない。


「絶対、無理だろ! 戦闘中だぞ!」


「熊手がみつからねぇ!」


『ショートカットモーションが使えない理由は、不自然だからです。裸でいきなり武器やアイテムが現れては……。裸という格好は、相手を油断させるでもあるのです』


「マッパ同然の装備でモンスターと戦わせることのどこが戦闘行為なんだよ! 俺はソロだぞ! 美人局つつもたせでもない!」


 とはいえ、アグリの記憶と経験のコピー元である山鳥タクミも、格ゲー世界において、セクシー系挑発行為をぞんぶんに使用し、勝利を積み重ねてきた。

 今回のクエストでも、ふんどし一丁で踊ることで、ゴブリンを油断させ、ちょっと仲良くなることにも成功している。

 マッパに対し、それなりのリスクやペナルティが設けられていても不思議ではない。


 ピコピコとそんな言い合いをしている間に、アグリはゴブリンの群れに完全に囲まれてしまった。


って選択肢どこよ! どこにあるのっ!」


『無理です。完全に包囲されています』


 ナイフや竹槍を装備したゴブリンたちがじりじりと包囲を狭めて来る。


「待って! せめて服だけは着させて!」


 しかし、ゴブリンたちの耳には届かない。

 先に卑怯な手段で攻撃を仕掛けたのはアグリの方なのだ。


「ふんどし一丁で主人公が死ぬVRRPGなんて生まれて初めてだ……魔〇村は白ブリーフで伝説になったけど……」


『ハイ……聞いたことがありません。私たちも新たなゲーム史に名を刻むことになるのでしょうか?』


「歴史は歴史でも、黒歴史だろうな……」


 そんなピコピコの泣き言を最後に……、

 アグリの意識は途切れた。


  ☂


ピコピコ:アグリはふんどし一丁で死にました。

【シナリオ4へ】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る