シナリオ3


 廃棄された村の周囲は、頑丈な垣根かきねで囲まれていた。

 かつての住民による戦争対策もしくはモンスター対策なのだろうが、村が廃棄されて月日が経っているためか所々にほころびが生じていた。


 村の正面口、南ゲートには眠そうなゴブリンが一匹、竹槍を杖のように使いボ~っと立っているだけ。

 不意打ちでゴブリンを倒し、ゲートを突破できそうだ。


 アグリの役割はおとり

 遅かれ早かれ敵に見つかり、村中を逃げ回ることになっている。

 それならばコソコソと行動するのではなく、堂々と殴り込みをかけても良いのではなかろうか。

「オラオラッ! ロットネスト王国の農民相手に人質などめたマネしてくれるじゃねえか!」と田舎のヤンキー風に。


(たかだかゴブリン一匹に逃げ回るのもどうかと思うし……)


(いやいや、こんな早い段階で騒動とか起こしたら、シルヴィに負担がかかり過ぎるだろ……せめて人質の居場所くらいは特定しないと……)


「そうだ! 新しいプレイヤーに判断を求めよう! 俺に命令を下せるほどの器があるか、試すよい機会だ!」


  ☼


ピコピコ:アグリはプレイヤーに(上から目線で)判断を求めています。村の垣根からこっそり侵入するか、番兵ゴブリンを倒して村の南ゲートを突破するか選んでください。


 アグリはこっそりと村に侵入する。

「俺は元世界一の格ゲープロだぞ……ちょっとカッコ悪いって……」

【シナリオ5へ】


 アグリはふんどし一枚になり、ゲート前で踊り始める。

「オラの踊りで番兵ゴブリンを魅了させるだ! そして、意表いひょうをついて仕留める!」

【そのまま読み進む】

(*カッコ内のセリフはAIによる行動予測です。確定ではありません)


  ☁



「ちょっと待って! これからって正気か!」


『仕方がありません。これがプレイヤーの選択なのですから……アバターは選択肢には逆らえません……さっさと踊ってゴブリンを魅了させてください』


「いやいや、無理だって! 俺は農夫だぞ! 踊り子のスキルとか習得してないって!」


 アグリは脳内で反抗しつつも、装備『農夫のつなぎ』をさっそうと脱ぎ捨て、『木綿もめんのふんどし・農夫限定装備』一枚になった。

 そして、テクテクと番兵ゴブリンへ向かって歩き出す。


「なんで、ふんどし一丁なんだよ! 服着ててもいいじゃん!」


『アバターアグリはのスキルが未成熟です。服を着たままでは魅力が足らないと判断したのでしょう。たぶん……』


「たぶんってなんだよ! 絶対ないって! そもそも選択肢が変って気づけよ!」


 しかし、


『これらの選択肢は、農夫アグリのこれまでの戦闘経験から導き出された行動予測が基となっています。TACT社のAIはいつも正しい……かと?』


「かと? ってなんだよ! AIだって絶対迷ってるだろ!」


 アグリは村のゲートの中央――眠そうな番兵ゴブリンの前に仁王立ちした。

 そして、勇壮に踊り始める。



 ふんどし~出た出た~もろだしだぁ~『ヨイヨイ』

 緊急クエのさなか~なのに脱ぐ~

 あんまり~せんたくしが~ひどいので~

 さぞや~アグリさん~見苦しかろ~『サァヨイヨイ』


 あなたが~その気で~選ぶのなら~『ヨイヨイ』

 どんなぁ~場所だって~脱ぎましょう~

 だけどね~このゲームが~

 十八禁じゃないのは~忘れないでね~


 さぎょうぎ~ふんどし~おパンツさえも脱ぐ~『ヨイヨイ』

 するともう何もない~マッパなのよ~

 ゲームマスターが~モザイク処理しても~

 アグリは消滅するのよ~理不尽なのよ~『サァヨイヨイ』


 ブラックな~主従関係が~終わるまでは~『ヨイヨイ』

 アバター一つに~こころは二つ~

 支離滅裂な現状の~切なさに~

 いつかプレイヤーを~殴りたい~



『あなたは一体何をうたっているのですか……』


「知ったことか! アバターから次々と哀愁あいしゅうが沸いて来るんだよ! そういうピコピコだって合いの手やってるじゃねぇか!」

(*合いの手=歌詞の間に挟む掛け声や手拍子)


『確かに……なぜ私はこれほど優秀なのに、このようなアバターと行動を共にしなければならないのか……そんな悲しい気分になりました……』


 ゲーム世界のアバターはいつだって理不尽な存在だ。

 『戦う』が選ばれれば、どれほど凶悪なモンスター相手でも戦わねばならない。

 たとえ死に確イベントであっても、プレイヤーの好奇心に従わねばならない。

 ドロップ率0.01%のレアアイテムのために、おぞましいモンスターと何度も戦わねばならない。

 『踊り』スキルの熟練度を上げるため、雑魚ざこモンスター(ゴブリン)の前で踊らされることだってある。しかも卑猥な装備で……。

 踊り子の服とか、ビキニとか、ふんどしとか。

 そんなアバターたちの不条理がうたや踊りとなって表現されたのだろう。

 お唄のタイトルは『アバターなげき節』。


 アグリはプレイヤーから命じられた踊りを完遂し、意識(正気)を取り戻す。


 すると目の前には門番――竹槍をかまえたゴブリン兵がいた。

 難しい表情で、アグリをジィーと凝視していた。

 当然と言えば当然か。アグリの踊りに魅了された様子が全くない。敵か味方か、それともただの変質者か、判断に困惑している、そんな顔をしていた。


(まあ、分からなくもないけど……俺がこのゴブリンのAIだったらフリーズしてる。こんな状況に対応できるアルゴリズムなんてないだろうし……)


 するとその直後、番兵ゴブリンは腹を抱えて笑い始めた。

「ギャァ~ケラケラ、ギャァ~ケラケラ」と。


 一頻ひとしきり笑った後、テケテケとアグリに歩み寄る。

 そして、ふんどし一丁で呆然とたたずむアグリの左肩をポンポンと叩き、ふところをゴソゴソとまさぐり始める。


「パッパラー、ゴロゴロキー! パッパグルコッペゲー、プチュンソールガッツ!」


  ☂


ピコピコ:番兵ゴブリンはアグリに何かを渡そうとしているようです。踊りの報酬でしょうか?


「ありがとう」

 報酬を受け取る。

【そのまま読み進む】


「チャンスだ!」

 ゴブリンの虚をつき、戦いを挑む。

【シナリオ13へ】


  ☼


 アグリはゴブリンから踊りの報酬を受け取り、いそいそと『農夫のつなぎ』を再装備した。

 そして、ペコリとお辞儀して再び雑木林へ身を隠した。


「なあ、あのゴブリンなんて言ったか理解できたか?」


『おお同志よ! 立場こそ違えど、心だけは崇高すうこうであれ! と言っていたようです』


「内に秘めたプライドだけは忘れるな、ということか……こんなモノをくれるくらいだもんな……あいつも最弱モンスターの身空で相当悩んでいるんだろうよ」


『あなたと同じで心が病んでいる、とも言いますが……』


 アグリは『ちょっとエッチな本・レアアイテムA』を手に入れた。


  ☁


 アグリは同志(番兵ゴブリン)と戦うことを諦め、垣根の隙間へと進んだ。

【シナリオ5へ】

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