第四章

【幕間】


「お前の望みは本当に戦いだけなのだな」

 タタカイタイ。その者は答える。

「最も恐るべき力を持たされたと言うのに発揮する場も与えられず、永遠に等しい刻を見せ物として過ごす。その退屈に耐えられなくなったか。退屈は神をも討つと言うが、機械仕掛けの神を模した擬神も討たれかかったか」

 コノミニサズケラレシサイキョウノチカラヲツカイタイ。その者は答える。

「我らは異界より現れし者に百体前後もの同胞を略取された。その補填の手掛かりを求めて人の世に接触を続けてきたのだが、死んでも新たに生まれる約束された自動増幅によって保たれた世では、我等の望む大きさでは動かなかった。最早世界規模の騒乱を起こさねば我等の願いを成就させる程の動力にはならんと判断する。その抗戦の象徴となるのであればお前に力を貸そう」

 タトエソノイッセンデコノミガホロボウトモ。その者は答える。

「この世界に残る者からすればこれはお前に対しての刑戮だ。お前は回天をもたらす象徴となるが、同時に悪として処理される。それでも良いのか」

 ワタシハジブンノチカラヲシリタイ。その者は答えた。

「宜しい。その決意があるのならば、望みを叶えよう」


 ――◇ ◇ ◇――


 千年前に世界の殆どを水没させた大水災があったことを覚えている者はいない。人間はそれを語り継げるほど長くは生きられない。

 歴史という記録は残せるが、多くは虚偽が混じり真実が後世に正しく伝わることは少ない。そして多くの人間はそれを知っている。

 だから二千年前も三千年前も同じように世界が水没していたという事実が正確に歴史書に記載されていたとしても、信じるものは少ない。

 歴史書に書かれる以前の世界では四千年前も五千年前も、ずっとこの星は千年に一度の水没を繰り返していた。それは人の知らない歴史の真相。

 そして、機械仕掛けのものたちは、その全てを知っている。


「先世に起きた水災が、また再びこの地を襲う。それは定められた運命」

 広場の中心へと歩み出た神官は説教を始めた。神官の両脇には十三階建ての建物に匹敵する柱が一本ずつあり、その上には水を張った半球状の盆が載っている。

「しかしここは神に守られた地。天よりやってくる災いを聖神ディアボロスが打ち払ってくれよう。例え運命に定められたとしても、神の御力の前では無力!」

 それは何千回と語られる定められた台詞であろうが、民衆の心を熱くするするには十分以上の力があるに違いない。

「本日この日も天の異変を見定めるため、神が御出座おでましになる! さあ民衆よ、お出迎え差し上げよう!」

 広場が歓喜の声で揺れる。

 民衆の熱気が最高潮となったとき、広場奥に建てられた神殿と呼ぶにはあまりにも大きすぎる二つの建物の扉が開く。

「ディアボロスのおでましだーっ!」

 感極まった誰かが思わず叫び、それに呼応して声援が増え大きくなる。

 巨大神殿の中から、鐘塔ほどもある人型が一体ずつ顔を覗かせゆっくり出てくる。地響きを立てながら広場へと進む。民衆にとってはその苛烈な震動も身を熱くする。

 この国ではディアボロスと呼ばれる巨大な動く彫像を、建国以来神と崇めてきた。そのような絶対的な信仰があるからか、この国は不思議な安定を保っている。

 ディアボロスとは二体の神像の総称である。

 262フィートもある巨大な女性型立像の上に門のような形状の機械を載せたのが右神、同じ形の巨大女性立像の腰から下に三回り以上大きな複雑な形状の下半身型機械を接合したのが左神と呼ばれている。右神は右手に左神は左手に槌矛を持つ。

 動く彫像ということもあって歩行も可能であり、御告げを告げるために広場に現れるだけで国民という名の信者からは歓声が上がる。これだけの動く巨躯を見たら信仰も深まるのは当然なのかも知れない。

 二体の神像は神官の両脇に立っている柱の手前で停止すると持っていた槌矛を盆――聖水盆の中に浸けた。水を纏わり付かせた槌矛を振りかざすとそれを民衆に向かって振り撒く。水を浴びた民の声が咆哮ともいうべき高さにまで跳ね上がる。神像は一定範囲以内でしか水を撒けない筈であるが、広場に集結した民衆のほぼ全てが多少なりとも濡れている奇異さに、叫び続ける人々は気付かない。

 基本的にはこの神像は神殿という名の格納庫から広場へと往復し、民衆に聖水という名のただの水を撒くだけなのだが、それでも素質というものが必要らしく、神に認められ神を操作する資格を得たものは巫女と称され、この国では絶対的権力を持つことになる。

「黒龍師団がまた機械使徒の数を増やしたらしいぞ!」

 神の動く様を見、神の撒く聖水を浴び、興奮で思考が振り切れてしまったのかそんなことを口にする者が出始めた。信仰国家にとっては少しでも敵性の感じられるものを口撃するのは常套手段。

 人がもっとも残虐になるときは悪に染まった時ではなく、真偽はどうあれ正義の側に立ったと思った時に、人は可虐の制動装置ブレーキが壊れる。自分は正しいという免罪符を手に入れてしまうのだから。

「悪の枢軸め! そんなに世界を征服したいのか!」

「我が国にはディアボロスがいる! 機械仕掛けの悪の使徒が何機現れようとも蹴散らしてくれる!」

「そうだそうだ!」

 正義という名の見えない槌矛で悪と見なした者の頭を打ちのめす快楽に溺れてしまう者には、何十機もの戦略兵器級大型人型機械を揃える黒龍師団は格好の口撃材料。

「⋯⋯」

「⋯⋯」

 神の御出座しに狂乱する群衆の中に、この国の者ではない女性が二人混じっていた。

「悪の枢軸ですか」

「否定できないわ」

 一人はかなりの長身で、もう一人はそれほどでもないが女性の平均は越える背の高さ。二人とも自分の身長で変に目立ってしまうのではないかと心配していたが、国民の殆どは二体の神像に熱狂するのに忙しく、背が高い程度の女性などは目に入らないらしい。二人とも少し安心した。

「あの大扉の技術は相当なものですね。神殿自体の作りも高度ですし」

「そう思う」

 内部に巨大神像を収められるほどの空間を擁しながら倒壊の危険は見られない。しかも神像が出入りできるだけの大きさを持つ大扉という可動部を有しながら。ディアボロスの中にいる自動人形が建設に協力しているのは間違いない。

「散水機もすごく上手く隠されていて、これだけ熱狂していれば神像の振り回す槌矛からはほとんど水が届いていないなんて気付かないわね」

 広場の周囲にある高い建物の屋上から、神像が聖水を振り撒くのと同時に散水が行われているのは直ぐに見付けられた。その全ては一般人立入禁止の国家所有物件なのだろう。

「あの二体が歩く地面も崩れないように自動人形が色々と補修している様子⋯⋯だけど」

「だけど?」

 小さい方の女性――リュウナの疑問に、大きい方の女性――リュウガが応える。二人とも私服姿。

「その自動人形が協力しているのなら、規模が小さすぎる」

「確かにそうですね」

 機械神の本格的な修理・部品新造が必要な場合、一般的金属及び希少金属の採取から始まり、溶鉱炉の建設、重作業機械の製作と続き、機械神の周りは数十年の後には工業地帯規模の修理施設が完成している。

 更に自動人形が周囲で暮らしている人間たちを取り込んで仕事を与えた方が効率が良いと判断した場合、建国という壮大な事業に発展していく。黒龍師団はそのようにして生まれ、それが置かれた本国共々、人と自動人形が共存する場所として洗練されてきた。

 そのような地域で暮らしていると、街中を移動する自動人形と日に一度ほどは遭遇する。周辺地域全体が自動人形にとっては機械神の常態維持の支援設備であるのだから、人が預かり知らぬ機器が市街に点在し、それの調整の往復なのだろう。とにかく、機械神は普段目にすることはなくとも、自動人形は比較的目にする機会がある。

 しかしこの国は全くの逆。機械神の方が目立ち、自動人形の姿は見られない。二人もここへ到着する途上でも探していたのだが機械の彼女達とすれ違うことはなかった。移動中は衣服を着て目立たないようにしているのかとも考えたが、そのような気配も無い。

「?」

 群衆にもまれて姿勢を崩したのかリュウナがリュウガの腕に抱きついてきた。包帯を巻いた手を絡ませてくる。

「どうしました?」

「抱きついちゃだめなの?」

「そういうわけじゃないんですけど」

 リュウナは普段は冷やかな印象を人に与えるが、妹という先に生まれた者に頼らねば生きていけない立場に生まれた習性からか、ごく自然に甘えるような仕草をする時がある。本人は気づいていないかも知れないが、他人から見ると少し驚いてしまう、姉も含めて。

「それは良いとして」

 リュウガが水撒きを止めて待機状態となった二体の神像を見ながら言う。

「この信仰国家自体が自動人形にとって有効なものなのか? という疑問がありますよね」

 必要最低限の支援設備だけを作り、その後はディアボロスを絶対的象徴として崇める信仰だけを、数百年以上の時間をかけて大きくしてきたのがこの国。

 外敵が現れたら神自ら戦いに赴くのが正義。その教義を広め民衆を掌握しているこの国は、非常に強い安定を保つ。人のための国作りと考えたら成功例の一つだろう。

 しかし自動人形が人間のためだけに行動するのはあり得ない。機械神の常態維持と自動人形の代替品の探求の二つを行動理念にする彼女達からすれば、人間のためなど三番目以降に過ぎない。黒龍師団も人と自動人形の利害が一致しているから安定しているが、それが崩れたなら、機械仕掛けの彼女たちは機械神と必要な部材だけを持ち出し何処かへ消えてしまうだろう。

「自動人形を利用している者がいる?」

「そんなことができるのは神か悪魔か」

「狂信的指導者」

 二人の視線が後ろに二体の神像を従えて説教を続ける神官に注がれる。

「まあわたしたちの仕事は神官の正体を突き止めることではないですし」

 この国へやって来た彼女たちに与えられた任務は視察である。

 ある一定の期間毎に黒龍師団の中から二名が選抜され、この信仰国家の現状を確認に訪れる。

 未だ何機かが不在になっている機械神の中で、ディアボロスの名を冠した機体がある。五つ目の機械神、五号機になる。

 では目の前に佇立するこのディアボロスと呼ばれている二機が機械神五号機なのかというと、実はそうではない。

 キュアを始めとする黒龍師団を創設した自動人形は、この信仰国家の建国直後から潜入して調べていたのだが、本物の五号機ではないという結論に至っていた。

 あれは擬神機を改装して五号機を精巧に再現したもの。擬神機は火の星から投下されてもまともに落着できない機体が殆どで、この信仰国家のディアボロスは上半身が失われた個体と下半身が失われた個体を二機用いて作られたと予想されている。本物と同じように合体機能が有るかどうかまでは不明。

 しかしその改装には意思を持ちし自動人形が関わっているのは確かで、性能的には本物の五号機とほぼ同じものを再現していると考えられていた。

 その危険度ゆえ、定期的に黒龍師団から秘密裏に視察の者が派遣されているのである。

 今回は如何なる経緯からか、この姉妹が選ばれた。普段は一緒に暮らしているというのに、出発当日の顔合わせ時にようやくお互いが揃って任命されたのを知るのは、身体能力は人間離れしていても姉妹としての関係はごく普通というのを体現しているようで微笑ましい。家族だからといって相手の仕事内容を把握している訳では無いのは、如何にも一般的な姉妹関係。

 二人ともその顔合わせの出発時に、機械神五号機・ディアボロスの概要をキュアから聞いた。視察目的の巨重はそれを擬似的に再現したものであるが、性能的にはほぼ同一であろうと、本物の五号機の詳細を詳しく説明された。

 試作機としての一号機、実験機としての二号機、二つを統合しての完成機としての三号機が生み出され、機械神の基準となるものは出来上がった。

 それ以降は三号機を雛形として派生していくことになるのだが、まずは静的進化ということでその容積を生かした移動拠点として運用できるよう四号機が建造される。機械神という巨大機械をそのまま基地施設として擬装もできる訳で、運用方としては正統進化といえる。

 派生型の最初の機である四号機の成功により、今度は動的進化を盛り込み五号機が建造される。動的とはその機動力を活かし機械神を戦闘兵器として特化させる――ある意味こちらも正統進化。

 機械神より全高が若干低い女性型の人型大型機械が建造され、これにはグレモリーと名付けられる。なぜ女性型なのかというと、機械神本体に格納する必要があるので細身に設計する必要があったからだ。五号機の両肩には尖塔のように突き出した格納庫が取り付けられグレモリーをここへ収容する。

 機械神は通常は頭部内に操作室があるがこの機は二人乗り(一人でも操作は可能)であるので腰部にも同様の物が設置されている。またグレモリー内にも単独行動が出来るようにと操作室が設置されているが、これは他の機械神も分離行動時用に肩部と腰部に簡易操作室が設けられているのと同仕様。

 グレモリーそのものは機械神が人型のまま戦う場合は格納されたままか護衛を行うくらいだが、その真価を発揮するのは機械神本体を分割しての戦闘である。

 五号機は上半身と下半身の大まかに二つへと分離変形できるようになっており、二機のグレモリーがそれぞれを装着して戦う。機械神という武装兵器としても超常の存在を別個の大型人型機械が、機動する兵装庫として身に付けるのである。戦力としては想像を絶する。

 また、グレモリー一機が分割された五号機を背部に並列装着し、残った一機を予備機として残すことも可能であり、これはディアボロスのもう一つの姿とも言える全開戦闘形態でもある。

 だがここで一つの問題が生じる。戦闘兵器として特化させ過ぎてこの機への対抗手段が無くなってしまったのだ。機械神はあまりに強い力を持つ存在であり、常に暴走の問題も抱えている。その際は同じ機械神が討伐を行うのだが、五号機が全力で力を発揮した場合、前段階の四機では対抗は難しいとされた。

 そのため一度は建造中止も考えられたが、自己保存のための自衛手段と考えれば最高の機能であるので、建造は強行され最恐の機体は完成してしまう。

 対抗手段に関しては後続の機、六号機を装甲で、七号機を速力で、八号機を火力で上回る機体として設計し一応の解決を見るが、五号機が危険な存在であるのは変わらない。

『六号機は黒龍師団うちのところにあるけれど、七と八は?』

 キュアの説明が終わりリュウナがそう訊く。未入手機には七号機と八号機も含まれている。すると『それを探すのがお前たちの仕事だろう』と、当然のように返されてしまった。

「目の前の五号機――擬神機の改造機も大事おおごとだけど、七号機も八号機も早く見つけないと」

「どこにあるんでしょうね」

 人の生活を考えれば、危険なものはその所在をあかして一つの所にまとめて管理しておくのが安心できる状態であるので、黒龍師団はそれを達成すべく機械神全機確保に向けて行動している。

 機械神を全て格納施設に収めた後、機械使徒を守護として配置、半永久的にその状態を保つ。それを黒龍師団の最終目的として掲げる。

 しかし機械神が全機揃ったとき、もし世界を征服したければ一日も掛からない訳であり、人間はこの「もし」という言葉に弱い。黒龍師団がそれを考えない一枚板であったとしても、反抗勢力が「世界救済のため」などいくらでも理由を用意して機械神を手に入れようと画策するのは目に見えている。

 そして、念願叶ったあともまた同じ規模の目標を設定しなければならないと考えるのは、黒龍師団上層部の総意でもある。

 目の前の五号機は本物ではないので回収の目標にはない。だが、それでもほぼ同じ性能を持っていると考えられているあれがもし暴れだせば、本物の五号機と同じ方法で処理しなければならないだろう。

 黒龍師団は機械神の管理組織を自称しているだけだ。それは世界中の人々や国家に認められた訳ではなく勝手にやっているだけ。黒龍師団はその勝手の見返りに、世界中に投下され暴れる擬神機の破壊と回収も行っている。この信仰国家では黒龍師団は悪の枢軸とされているが、破壊活動を続ける擬神機の猛威を取り除いた土地では黒龍師団のことを正義の使者と称賛する地域もある。

 五号機が暴れだせば黒龍師団が手を下しにやって来ることになる。難しい問題の一つを黒龍師団は抱えている。

 二人はしばらくすると、その場からそっと抜け出た。もうすぐ神官からの説教が終わりそうな雰囲気だったので、終了直後の喧騒に巻き込まれないためだ。悪の枢軸と見なしている組織の者がいると知れたらどんな騒動になるか。ディアボロスが引き揚げるところまで本当は見たかったが、恐ろしくて最後まで見物なんてしてられない。

「⋯⋯」

 広場から去り行く二人を、神像の一つを動かす操作室から見ている者がいた。黒龍師団と呼ばれる機械神を管理する組織から定期的に使者がやって来て、この神像を視察して何事も無いことを確認して帰っていく。そして今までは代々の神像を動かす者も見て見ぬふりをしてきたのであるが。

 しかし、今回ばかりは。

「⋯⋯あの二人なら」


「あの⋯⋯あなたたち二人は、黒龍師団の人、よね?」

 翌日。視察の一貫として昨日屋上から散水が行われていた建物を一つずつ見て回っていた二人は、後ろから声をかけられた。簡素な上着とスカート姿の女性が一人。年齢的にはリュウガと同世代だろうか。年齢不祥な雰囲気も似ている。

「あなたは?」

 振り向きながら姉妹が応える。異国でしかも私服姿で所属先を言い当てられるのは不審でしかない、しかも見知らぬ相手に。

「私はディアボロスを動かす者の一人、巫女よ」

 それを悟ったのか相手が自分の身分を明かしてきた。自分はこの国の絶対権力者の一人であると言う。

「それを証明するものは?」

 リュウナが問う。自分の立場上、そのような虚言を使って近付いて来るものは多い。だから直ぐには信用できない。

「操作室の中からあなたたちのことをずっと見てた。その物腰、他の人とは違う。それに」

「それに?」

「これまでにやって来た黒龍師団の人に比べたら二人とも背が大きいから目立ってたわ。もうそっちの方から見つけてくれと言わんばかりに」

 それを聞いたリュウガは吹き出してしまった。リュウナも少し姿勢を崩す。

「これはもう観念するしかなさそうですね」

 街の雑踏に溶け込むにはそれほど難しくなかったが、上から見下ろす人間からすれば、二人の身長はやはり目立っていたらしい。

「隠密行動は無理か、二人とも」

 リュウナが自分たちの身長に呆れるように言う。姉ほどではないがリュウナも女性の標準値は越えるので一人で歩いている時はやはり目立つ。

「二人と話がしたい」

「そうですね、こちらとしても断る理由はないですね」

 お互いが立場的に希少な情報を持っている。ある程度の言葉は秘匿する必要があるが、それでもこの三人で成立する会話は貴重だと判断できる。リュウガが隣を見るとリュウナも無言で頷く。

 三人は広場近くのカフェテリアに腰を落ち着けた。平日の午前ということもあり閑散とした店内。三人はオープンデッキの席に着き、飲み物をオーダーすると広場の方を見ていた。

「私の名前はミカルナ。さっきもいった通りあれの片方の巫女をしているわ」

 遠くの方に見える神像を収めている巨大神殿の方を見ながら自己紹介した。

「わたしはリュウガ・ムラサメ、こちらはリュウナ・ムラサメ。お察しの通り黒龍師団の方から参った者です」

 リュウガが代表して自己紹介する。

「わたしたちはいつも通り必要なものを見て回って、それが終わったら帰るだけ。交渉とか要請とかは、なにも予定されていない」

 リュウナが入国目的を説明する。機械神を管理・運用する黒龍師団の関係者が現れたのだからディアボロスの引き渡しを迫るのかと思われているのかも知れないので、それを制した。それに擬神機の改造品には基本的に用はない。

「⋯⋯」

「あなたは神像の巫女をしているのにずいぶんと自由なのね?」

 しかしその言葉に無反応なので少しカマをかけてみた。

「ディアボロスとその周りのことを秘密にしておけば、ある程度の自由は約束されているわ」

 自分の話したいことに繋がるのか、それには簡単に答えた。

「秘密にしていることをわたしたちに喋るのはまずいのでは?」

「ディアボロスが飛び立つ準備をしているの」

 何かを伝えたくて自分達に接触してきたのは間違いないだろうと思っていると、いきなりそんな言葉が飛んできた。

「飛び立つ⋯⋯どこへ?」

「空よ、決まってるでしょ」

 何かの逃亡を考える比喩かと思ったら、実際の飛行準備らしい。

「推進材の製造機の最終調整とか結構慌ただしくなってる、外から見たら分からないだろうけど」

 水や空気を取り込んで推進機の燃料を作り出す機能は、もちろん擬神機にもある。しかしそれは内部に設置されている機器であり、その動作状況は作業員を除けば操士くらいしか預かり知らぬことになる。

「昨日、神官が語った言葉、天よりやってくる災いをディアボロスが打ち払ってくれる」

 今まで黙っていたリュウガが口を開いた。

「ディアボロスが飛んでそれを打ち払いに行ってくれる、そういうことですか?」

 飛行準備をしているということは、神官の言葉を信じるならばそうなる。

「じゃあ、そこまでしなければならない天よりやってくる災いとは何なのでしょう?」

 リュウガもこの世界の歴史は一般的な知識として知っている。今から千年ほど前、世界の殆どが水没する水災が起こったと歴史書には書かれていて、その災いをもたらしたものは天から降ってきたとも書かれている。

 災いは天からやってくるとなっているが、空から何かが降ってきて、その衝突により水災が起きているのなら、その痕跡である巨大な衝突痕クレーターが残されているはずだが、そのようなものは世界のどこにも見られない。多くの歴史書には二千年前にも三千年前にも同じように世界は水没していると書かれているが、同じような理由であるならば世界は空から降ってきた何かの所為で穴だらけになっているか、大地が大きく砕かれている。

 千年に一度の繰り返しが起こり続けているのであれば、周期的にそれはもうすぐ起こることになる。しかし繰り返しの痕跡が見られないので、一部の救世組織の者たち以外は水没への準備などせず、通常の生活を送るだけ。

 黒龍師団でも自動人形たちが特に表だった動きを見せていないので、大きな備えはしていない。副長が手掛かりのありそうな場所へと調査団を派遣しているくらいである。

「あなたの知り得る立場で、天から降ってくる何か、についてはどこまで知っていますか」

「星喰機⋯⋯という言葉を神官が使ったのを聞いたことがあるわ」

「星喰機?」

 聞いたこともない言葉の組み合わせに思わず聞き返す。

「それはいったい?」

「関連がありそうなのはそれくらい。言葉の意味そのものはわからない」

「そうですか⋯⋯?」

 会話を少し整えようかと何気なく目の前の街路を見たリュウガは、そこをミカルナが歩いていくのを見た。

「今ミカルナさんが外を歩いていてって⋯⋯え?」

 しかし当のミカルナは目の前に座っている。遅れて気づいたリュウナが外のミカルナと中のミカルナを見比べてさすがに目を丸くしている。

「あれは弟よ」

 ミカルナも自分と同じ姿の人間を見て事も無げに言う。

「弟? 男なのにスカート穿いてですか?」

 リュウガが思わず訊きリュウナは絶句。

 既に後ろ姿となった彼? は、今ミカルナが着ている衣服と全く同じものを着ている。似合っていない訳ではないが、中身を知ってしまえば異様である。

「なんというか、街中の硝子に映る私⋯⋯姉の姿を見るのが嬉しい⋯⋯ということらしい」

 説明になっているのかいないのか良く分からない姉からの説明。

「巫女であるお姉さんを自慢したくてやっているとか?」

「あの子は多分私たちが巫女となっていなくとも同じことをしていたと思う」

 少しばかり姉への愛情が強すぎるだけかと思ったが、姉の方が気になる言葉を含ませていた。

「今『私たち』と、いいましたよね?」

「あの子は神像のもう片方の巫女、双子の弟リカルト」

 何となくそんな答えが返ってくるとは思ったが、改めて知らされると驚く。

「⋯⋯あの神像の操士⋯⋯いえ巫女は、男でもなれるんですね」

 清純なる女子が二名選ばれると、キュアからの事前説明ではそう聞いていたのだが。

 そのような厳しい操士選定があるので、動かせる者の確保は難しく、その点においても脅威にはならないとされていたが、これでは今後の対応が違ってくる。

「今までの操り手の中でも最高の素質を持つということで特別に。あの子から比べたら私はオマケみたいなものよ」

 そのオマケであっても動くのだから、未だに選定試験が成功しないリュウナは悔しく思う。

「巫女の選定試験はこの国では女の子じゃないと普通は受けられませんよね? じゃあなんで弟さんがその場にいれたんですか?」

「ディアボロス自体が呼んだ、ということになっているわ」

「やっぱり神官の御告げかなにかで?」

「そう」

 神からの言葉を伝える役である神官の言葉であるならば、全てが罷り通る。民衆の心を掌握し自動人形すら意のままに操っているだろうあの神官が、全ての黒幕であることは分かってきた。

「もともとリカルトはあんなに利発的な子じゃなかった。常に誰かの影に隠れている⋯⋯私の後ろに隠れている、そんな子だったのに」

 その姉の吐露を聞き、リュウガもリュウナも複雑な表情になる。兄弟姉妹とはどうしても先に生まれた者が庇護し後に生まれた者はそれを頼らなくてはいけないと思い込み、育ってしまう。それを変えるのは非常に困難。

 しかもミカルナとリカルトは双子なのである。少しの偶然が螺曲がっただけで兄と妹になっていた。姉との関係に何かの不服を抱えていた弟は正義と言う免罪符を手に入れて、一般国民と同様に可虐の制動装置ブレーキが壊れてしまったのか?

「繰り返しですけど、わたしたちはただ視察のために入国しただけです。だから今ここで、何かをしてあげるということはできません」

「⋯⋯うん」

 彼女たちが動けないのは分かっている。現状で無理に行動すれば外交の問題にだって発展するくらいミカルナも理解している。こうやって話に付き合ってくれただけでもありがたい。

「でも、今あなたから聞いた話は持ち帰り今後の対策に役立てることはできます。だから貴重な情報を提供してくれたお礼として、あなたの望みも持ち帰りましょう。無下にはしません」

「だったら、弟を⋯⋯リカルトをディアボロスから離して欲しい」

 ミカルナが小さく言った。

「弟さんがディアボロスの側にいると危険?」

「⋯⋯」

 それに対して彼女は無言。言えない何かがあるかも知れないが、無言で答えたということにして話を進める。

「本人が巫女――操士を今後辞退することはないんですね」

「⋯⋯うん」

 彼を説得して引き離すのは難しいらしい。

「命の保証は良いのですか? 離すだけなら現状でも非合法の手段に訴えれば色々な方法がありますよ」

 これは弟がこのままでは危険を呼ぶ存在になるのならば、その前にもっとも近くにいるものが手を下せと暗に語っている。リュウガもそう意見できる程に壮烈な人生を送ってきた。

「弟は助けてほしい、でも弟はディアボロスの巫女である必要がある。そうなのですか?」

「⋯⋯」

 手を下そうにもそれが封じられた理由なのか? ディアボロス自体が動くことも今後の動向には必要なのだろう。だから弟の手を引いて逃げ出すこともできない。それが先程は無言で答えた理由か。

「それにあなた自身の命の保証は良いのですか。巫女の片方がいなくなればあなたの存在も危うくなります」

「⋯⋯弟が神像から離れることができるなら、私の命は⋯⋯」

「二人まとめて助けてっていいなさいよ!」

 今まで黙っていたリュウナが我慢の限界を越えたように声を上げた。自分も火の力がないという理由で処分されかけた身。そこから自分を鍛えてここまで生き残ってきたのだ。身体的有利があったとしても、生き残ろうと決めたのは自分自身。右手の包帯がその証拠。

黒龍師団わたしたちは悪の枢軸でもなければ正義の使者でもない、機械神のただの管理組織よ。でもね」

 だから、もがこうとしないで、しかもそれをしないのを犠牲という理由にするのが、はがゆい。

「その仕事が達成されるのならなんだってやるのがわたしたちなのよ」

「⋯⋯」

 ミカルナは思う。

 もしかしたら、この二人なら、願いを叶えてくれるのかも知れない。

 だから彼女は、心から絞り出すようにしてその言葉を口にした。

「⋯⋯私たちを、ふたりいっしょに、たすけて、ほしい」

「わかりました」

 リュウガはそう優しげに応えると勘定をテーブルにおいて席を立つ。

「もうお会いすることもないかもしれません」

 リュウガはそう言い残しドアに向かい、リュウナも会話せずとも分かったという風に席を立ち姉に続いた。

「⋯⋯」

 残された彼女は俯いたまま、誰にも聞こえない声で呟いた。

「⋯⋯おねがい⋯⋯」


 翌日。

「⋯⋯」

 空母型に変形してる十三号機の艦橋にいるリュウガは、そこから後ろに流れていく海を見ていた。

 先日、ディアボロスの巫女から話を聞いた二人は、このまま視察を続けている場合ではないと判断し、その日の夜に沖合いに碇泊させておいた十三号機に戻り、すぐに抜錨、帰国の徒についた。

 十三号機の飛行甲板上には、プルフラスが寝かせて積載されている。ここへ黒龍師団所属の艦艇が現れたのは、故障して擱坐した機械使徒を、航空母艦のような形状をした半潜水型輸送船セミサブマシブルシップが回収の途上で不足した水の補給のため、となっている。リュウナには悪いが、黒龍師団が為違えたと風評が立てば悪の枢軸の評判も少しは下がるかも知れない。この場合のように自動人形が関係者以外と接触する際、衣服を着て不振がられないように振る舞っている。

 人間二人が移動するだけなのに機械神と機械使徒が一機ずつ持ち出されるのも問題ではあるが、彼女たちがいなければこの二機は動かないので緊急のことを考えると、本国に置いておく訳にも行かないのである。

「⋯⋯」

 リュウガはいつか聞いた、キュアから教えられた機械神の真実を思い出していた。

『私の言葉をお前がどこまで理解できるか分からぬが、今から機械神の正体を語ろう』

 キュアが動かぬ口を使い説明を始める。

 機械神とは本来、十垓米ある物体を牽引するためにその十分の一、一垓米の大きさへと展開能力を持つ宙間機械である。

 その超超極大牽引機を限界まで縮小させているのが、普段機械神と呼んでいる物体になる。それでも鐘楼ほどの全高があるが、これ以上小さくするのは無理なのだ。

 機械神が基本的には戦闘兵器ではなく、それでいて他の兵器では比肩できないほどの戦力を備えるのは、元来は牽引機でありその使用局面が来るまで自己保存しなければならない矛盾を抱える為。機械神を戦闘に用いるならば、それは副次的に設けられた機能を使っているだけになる。

 機械神は牽引機として必要とされる時がくれば、操士などいなくとも勝手に動く。頭部の操作室にしても、全体的に調整する補機を移動や戦闘への別用途に使っているに過ぎない。複雑すぎる操作機器は並みの人間には取り扱うことは出来ず、特に十三号機の操士は主炉の操作回路の一部としての役割の方が大きいのがその証明。

 火の星から送り込まれる擬神機が機械神、特に三号機とほぼ同じ性能を持っているのに自動人形の常駐も必要なく、また、ある程度の数を量産できるのもこの牽引機としての展開能力が省かれているからと、付け加えて説明された。

 機械神は牽引機となるその時始めて意思を持って行動する。普段は思考が封印されている訳ではない。その時になって意思が生まれるのだ、突如として。

『機械神もあまりに永い時間を生きすぎた。だから意思を生み出す機器が誤動作を始めているのかも知れない』

 キュアの説明の大半は理解できなかったが「機械神には意思が生まれる」と言うのは分かった。

 自分はあまりにも特異な方法で操士となり、しかもそれは余剰と呼ばれる機。でもその中には全てを丸ごと焼き尽くせる程の火の力が眠っていて、世界を助けるも滅ぼすも自由、使いこなせるのなら。そんな自分だから、特別に教えてもらえたのだろう。

 全てが始まったあの日以来、十三号機が自ら動くということもない。

 十三号機が自分のことが欲しいと動きだし、助けてくれたあの日。

 それが意思を生み出す機械の誤動作と説明されても、素直に受け入れられない自分がいる。

 突然意思が生まれたんじゃなくて。それはずっと前から十三号機の中にはあって。

 ずっとずっと自分を動かしてくれる誰かを待っていたんじゃないのか、何千年も、ずっと。

「⋯⋯」

 ――自動人形を心から信用してはならぬ――。

 気持ちが曇るとき、いつもこの言葉を思い出す。

 自分と妹がまだ幼い頃、育ててくれた機械の彼女が毎日のように語っていた言葉。

 機械の彼女たちが嘘を吐いているということではなく、もっと大きなことを示唆しているのだろう。

 自動人形たちは自分たちに必要ではないことは喋らない。例えそれが人間にとって大切なことであっても。

 だから人は自分で生き方を決めなければならない。


 ――◇ ◇ ◇――


 同時刻、信仰国家、神殿。

 用事があって神殿に来たミカルナが巫女に用意された待機室に寄ると、そこにはリカルトがいた。

「ここにいたの? 今日は仕事じゃないでしょ?」

 それは何度も繰り返された台詞だが、彼には届かない。

 姉と全く同じ格好をしているリカルトが鏡の前の丸椅子に座って自分――否、もう一人のミカルナを見ている。

「特にやることも思い付かないから待機だよ、待機」

 振り向きながらリカルトが応える。見慣れたとは言え、自分と同じ姿をしたものが喋り出すと、ゾクリとするものがある。

 彼は巫女になる前からこんな状態だった。姉と同じ格好で鏡の前で静かに過ごす。

 そして巫女になり活動的になった彼は、姉と同じ姿になって街を歩き始め、街中の硝子にその姿を映すようになった。特に悪さをすることもないので問題は無いようには思うが、事実を知ってしまった者からすれば、異様。

 しかしミカルナは、その異様なものが体内に侵入してくる奇妙な快楽に惹かれるようにリカルトに近付くと、後ろから抱き締めた。

「姉さんだってどうしたんだい? 自分だって休みでしょ?」

 双子の姉に抱擁されてもそれはごく当たり前の事であると動じもせず、鏡越しに同じ顔をした女性に訊く。

「巫女の選定を復活させてほしいと、神官にお願いしようと思ってるんだけど」

 弟の頬に顔を寄せながらミカルナが言う。昨日あの二人と話ができて少し心に余裕ができた彼女は、前から考えていたことを神官に切り出そうとここへ来た。

 この信仰国家では巫女という名の神像の操り手の選定を一定周期毎にやっていた。国民の中から若い女を選びディアボロスに乗せ、選定を行う。やる気に満ちた者も嫌々連れてこられた者も、押並べて目隠しをされたまま操作席に座らされ、素質ありとディアボロスが反応すればそれは取れ、そうでなければ操作室内を見ることもなく降ろされる。

 建国以来そうやって巫女は代替わりを続けてきたのだが、リカルトが選ばれそれに付き添う形でミカルナが選ばれてから、選定が行われていない。それはディアボロスの意思だと神官は告げる。神の言葉であるから巫女がずっと変わらなくとも、国民はそのまま受け入れる。

「どうして? ディアボロスは飛び立つ準備をしているのに、なんで新しい巫女なんか?」

 リカルトが不思議そうに訊く。

「星喰機と呼ばれる何かが空からやって来るのをディアボロスが迎え撃つ。そしてあなたは一緒に戦うつもりでしょ、死ぬまで」

「そうだよ? いきなり命を捨てるつもりはないけど、ディアボロスと一緒にどこまでも戦うつもりだよ、巫女だもん」

 何を今さら変なことを言うの? という顔でリカルトが鏡の中のミカルナを見る。鏡に写った自分が見てくるような忌避感。でもそれが心地好く感じられてしまう。

「姉さんだってそうでしょ?」

「なにかおかしく感じるのよ、ここでは死んではいけないって。命を懸けてまで戦うのはおかしいって」

 自分も巫女という神に身を捧げた身だから、それくらいの覚悟はあった。しかし頭の中で何かが囁き始めたのだ。おかしい、と。

 再び千年に一度の水災が起こるのかも知れないが、それをもたらす天からやって来る何か――神官の言葉を信用するならば星喰機と言うらしいが、それを討ち滅ぼして世界を平和にするのは何かがおかしいと、頭の中で囁きが続く。

 世界が水没するならば、また再び水の上に都を作り、水が引いて地上に帰れる日を待つ。それが人間に与えられた最良の手段だと、何かが告げる。

 星喰機に触れてはならない。自分の中の何かが囁く。

 だからそれを回避しようと新たな巫女を受け入れる手段を復活させたいと。新参者であるならば飛行などもままならず、天に向かって討伐など破綻する。

「ぼくは姉さんをずっと見ていたいだけなんだよ。だから巫女――神像を動かす仕事をしているんだよ」

 リカルトが言う。

「姉さんが側にいないときはしかたないから、ぼくが姉さんの姿になって鏡を見る。街中を歩いて硝子に映るのを見る」

「⋯⋯」

「姉さんはぼくの瞳の中でしか強く生きていけない。だからぼくがずっと姉さんのことを見ているんだよ」

 告白。弟からの。

 そう、リカルトに関連したことなら強く行動できるけど、それ以外のことは確かに弱いと自覚する。今回のことだってリカルトのことだから強く行動できている。ミカルナはリカルトを抱く力を少し強めた。

「だからぼくが神像の操り手をしているのは、神の声を聞いていれば姉さんとずっといれることを約束してくれたからだよ、ディアボロスが」

 リカルトが続ける。

「昔のままだったら、こんなことをしていたら奇異な目で見られて強いたげられて、そして⋯⋯離されて」

 彼が普通の環境を送るままだったならば、それは異様に見られ、おかしなことをするなと隔離されて、もう一生姉とは会えない生活になったのかも知れない。

「でもディアボロスの巫女であるならば絶対にそれはない。だからぼくはディアボロスが戦うのなら一緒に戦う、どこまでも」


「選定は新たに行われない」

 弟から離れがたい思いが消えぬまま待機室を出たミカルナは、神官執務室に来ていた。殆どの人間には入室は許されない聖域のような場所だが、巫女という絶対権力者の一人である彼女ならば出入り自由。何かを飲食した形跡も全く見られない、とてつもなく生活感がなく、とてつもなく神聖な部屋。

「それが神の御言葉だ」

 口元を覆うベールの向こうから言葉が紡がれる。ベントロキズムでも使っているのか口の動きは殆ど見られない。常にフードを被り目元は仮面のような物で覆われている。分厚いローブを纏い手には手袋。肌の露出は全くない

「ご意志ご意志って、考えてるのはあなたでしょ?」

 常に隙のない衣装に身を包む神官に向かって、ミカルナは触れてはいけない領域へと遂に踏み込んだ。他国の者から見ればこの神官が全てを掌握しているのは、少し考えれば分かる。しかしそれを思考の外に追い出してしまうのが信仰というもの。

 ミカルナもその恩恵で生きてきたが、自分の中で囁く何かがおかしいという気持ちが、その守られた殻を破り捨てさせた。

「神の御言葉だ」

 しかしあくまで神官は神からの言葉だと言い張る。

「神の言葉だというなら、なぜその声は私には聞こえないの、巫女なのに?」

 巫女とは神の内部に乗り込む仕事。近いという範疇すら越えている立場にいるのに、離れた場所から民に説教する神官には聞こえてなぜ自分には聞こえないのか?

「私の中で何かがささやくの、神――ディアボロスが討とうとしている星喰機ものとは本来触れてはいけないものだと。そしてそれがディアボロスの声だとは思えない」

 神の声は聞こえないミカルナは、自分だけにもたらされた言葉を口にする。

「⋯⋯そこまで言うのならば、応えるが」

 それを聞き、さすがに神官は一瞬言い澱むが、言う。

「神の声が聞こえないのはお前だけではないのか?」

「⋯⋯え」

「もう一人の巫女は、神の声が聞こえているのではないのか?」

「!」

 確かにリカルトは「神の声を聞いていれば姉さんとずっといれることを約束してくれたからだよ、ディアボロスが」と言った。

 そして巫女になってから備わった、双子の姉ですら離れがたくする奇妙な魅力。

 神官経由でもたらされた話とは思えない言葉の数々は、彼の妄想でも無いのなら。

「ディアボロスには意思がある⋯⋯?」


 神官執務室を出たミカルナは神殿の中の通路を宛もなく歩いていた。

(私はたぶん恋をしているのだろう、同じ顔をした彼に)

 リカルトの中にあるミカルナを大切に思う気持ちが、ディアボロスの意思が宿ったから生まれたものなのか、それとも彼自身が思うことなのか。それを知りたいから、逃げ隠れもせずに今まで巫女を続けて来たのか?

 自分と同じ顔をした女をそこまで思う弟を、守りたい。それが家族への愛情から恋へと変化しても。

 ディアボロスには意思がある。ミカルナが辿り着いた答え。

 神官が繰り返し告げる「神の御言葉」とは嘘偽りのない真実であり、神官は「本当に」神の言葉を伝えていただけになる。そして本当の言葉はリカルトの心の中に入り込み彼を積極的に動かす原動力になっている。

 それは、ずっと自分が守ってきた弟をディアボロスに盗られたに等しい。

 なぜ私はディアボロスの巫女を続けている? 弟をディアボロスから取り戻すため? 弟を引き離すには神の言葉の源を絶ちきる事が必要? それはディアボロスを砕くほどの破滅? それを成すためにはディアボロスの側にいるのが一番良いから? だから自分は巫女であり続ける?

 願いを叶える代償には自分の命が必要だとしても、彼を奪い返せるのならば。

 それは神に対する反逆の意思。

 神は大地が水没する元凶となる星喰機を討とうとしている。それを正当化するためにディアボロス自らがこの国を作り上げ「天より来る災いを討つことこそ正義」という教えを作り出し民を先導してきた。そう言うことになる。

 しかし、ならばディアボロスこそ分かっている筈だ。ディアボロスは千年以上前から地上にいる。それは神官の言葉にも含まれることだから、ディアボロスの真言。星喰機それが触れてはならぬ存在であることも、当然知っている筈だ。

 天からやって来る星喰機を討つよりも、それだけの力があるのならば、水没後の世界を復興させる方が良いことも理解している筈。ディアボロスの持つ力を使えば、多くの人々を助けられる。

 だが我らの神は天空に向かって飛び立つ準備をしている。

 そんな神に遣える巫女の一人に生まれた気持ち。ディアボロスへの反逆と破滅。

 触れてはならぬ星喰機に戦いを挑もうとする神の真意を知ったなら、人は機械仕掛けの者たちに意のままに操られるこの世界に満ちる矛盾に絶望を知るだろう。

 ミカルナの中に届いた囁きが、それに対する小さな抵抗の始まりだとしたら。


 ――◇ ◇ ◇――


 同時刻、十三号機飛行甲板上。

 空母型となっている十三号機の全通甲板の上に積載されたプルフラスの操作室にリュウナの姿がある。

 仰向けで載せられているので、座席も上向きである。内部通路も縦穴状態になっている箇所も多いので、クライミングで移動しなければならない場所もあるが仕方ない。

 姉とは離れて一人そこで細かい調整に勤しんでいる。

 別に姉妹といっても、作戦参加が同じだからといって、いつも一緒にいる訳でもない。仲が悪い訳でもないが、特段仲が良い訳でもない。姉妹間は至って普通だとリュウナは思う。二人とも出自も体の構造も特異なのだから、せめて姉妹の間柄くらいは普通でありたいと思う。右手の包帯もリュウガは特に指摘することもなかった。妹の方が激しく仕事をしているので、それぐらいの怪我は日常的にしていると思っているのだろう。本人も火が原因の傷は毎日の様に負うのだから。

 昨日は不覚にも姿勢を崩し姉の腕に抱き付く格好になってしまったが、そんなものは女同士ではなんでもない、目の前に丁度良い支えがあったから利用させてもらっただけ。

「⋯⋯」

 少し風に当たりたいと外に出る。出入扉ハッチから出てプルフラスの腰部前面に乗ると、自機を運んでいる十三号機が波に揺れたか足下を掬われた。

「ん?」

 リュウナはそのまま足を滑らせて腰部からまろびでてしまうが、自分の身体能力ならここから落ちても大きな怪我は無いと落下中に思っていると、プルフラスの手部が動きだし彼女の体を受け止めた。

「もう、また勝手に動いて」

 愛機の手のひらで尻餅を突く形になったリュウナは尻をはたきながら立ち上がる。

 自動で歩行や飛行を機体に任せる時に使う自立行動機能が勝手に作動するのか、リュウナが困っているとプルフラス自身がこんな風に然り気無く助けてくれる時がある。

 この機体を設計したであろうキュアにその事を訊いてみると「設計段階ではその様な機能は盛り込んでおらぬ」との解答をもらう。機械使徒は機械神の派生機であるのだから、自動人形ですら解明出来ない元の機械の持つ「何か」も継承しているのかも知れぬとも言われた。設計した本人とは思えない無責任な答えだが相手は自動人形なので仕方ない。

「まあ良いか、悪さをするわけでもないし」

 リュウナはこれ以上深く考えるのは止め、愛機が差し出してくれた手のひらに乗ったまま遠くを見る。

 大陸の向こうに峻厳なる岩の連山が見えてきた。南半球の要所の一つ、フィーネ台地。外に見える連山に取り囲まれた内部がフィーネ台地であり、岩山の中腹に匹敵する厚さの氷の層で中が全て埋まっているという。

 大昔よりここは興味深い地形として知られているのだが、地上より天に上る逆雷が非常に発生しやすく、近付くのも困難な場所としても知られている。

「⋯⋯今はあそこも調査対象になってるのよね」

 普段は副長付きのリュウナは、六号機の帰還と前後してこの地へ新たなる調査団を送り込んでいるのを知っている。ここからは見えないが連山の手前の土地で調査基地ーーという名の機械神の一機が駐屯している筈。

 また副長の使いで往復することになるのかと思うと少し憂鬱になってくるが仕方ない。それが自分の仕事だ。


 ――◇ ◇ ◇――


 同時刻。フィーネ台地、調査基地。

 リュウナの悩みは杞憂に終わる。副長自ら今回は視察に訪れていたのだ。

「ご苦労、レベッカ」

「そちらは息災だったか副長殿」

 四号機背部に設けられた仮設測定室に入ってきた副長の挨拶に、黒龍師団機械神正操士の制服に身を包む狐顔の獣人が応える。

 彼女はとある小さな神殿に祀られていた、というよりも勝手に住んでいたのだが、当時はその近くに四号機が埋まっていたのだ。洞窟探検気分で中に入り込んだところ操作室に辿り着き、席に着いたとたん機体が反応したという稀有な方法で機械神の操り手となった者である。

 その後になって黒龍師団が四号機を発見し回収しようとしたのだが「退屈だから連れていってくれ」と、一緒にくっついてきた。既に四号機に認められた操士であるので無下にもできず、彼女はそのまま黒龍師団所属の機械神正操士となる。その意味では彼女が最古参の操士である。

 彼女も機械神と共にいる生活が気に入ったのか今に至るまで特に悪さをすることもなく、今回の任務でも四号機を動かし、前線基地を用意してくれている。

「なあ副長」

「なんだ」

「私だけズボンを穿かないで良いという申請書を送り続けているのだが未だに申請が通らないのは何故だ?」

「そんなもの通るわけないだろう」

 またいつもの苦情なのかと頭が痛くなってくる。

「尻尾周りがゴワゴワしてかなわんのだ、どうにかしてくれ」

「お前用にケツにデカイ穴をあけてあるだろう、我慢しろ」

 彼女はこれでも九尾の尻尾を持つ堂々とした妖狐である。勝手に住んでいたと本人は言うが、本当は土地の神さまとして祀られてたんじゃないかとは副長も思うのだが、こんな露出狂の神は嫌だ。

「こんなゴワゴワでは不意討ちを食らったときに力が出せぬ、戦えぬ」

「だったら不意討ちを食らったときに改めて服を脱いで素っ裸になれば良いだろう⋯⋯」

「そんな正論をいわれてしまったら言い返せぬではないか」

「まあそれは置いておいてだレベッカ」

「⋯⋯なんだ」

「状況はどうだ、フィーネ台地の」

「うむ、やはりここには少しずつ水分を貯え氷にしていく機能があるらしいぞ。雹も霰も良く降る」

 この星の南半球に位置するこの台地。周囲が峻厳な岩山で円く取り囲まれた内側の広大な台地全てが、分厚い氷で埋まっているのである。あまりにも厚いため強い陽光を受けても溶ける気配がない。

 副長は千年前の大水災の手掛かりを求めて、ここへ調査団を派遣し本日自ら視察に訪れていた。

 ここは大地から空に昇る逆雷が発生し、上空を通過しようとする飛行機械を容赦なく撃ち落とし、地上から近付くものにも多大なる被害を与える。接近も困難なこの場所は調査対象から外れていたのだが、世界中の不明瞭な痕跡がある場所を調査した結果、最終的に残ってしまったここへ、機械神という地上最強の盾を先頭に遂に乗り込んできた。

「⋯⋯この逆雷もここへ近付けさせないための対空兵器だと考えると、全ての辻褄が合ってしまうのか」

 副長の要請を受け、レベッカは四号機を駆り調査団を率いてフィーネ台地の手前に前線基地を築いた。もっとも四号機が変形するだけで基地となるのでレベッカにとっては簡単な仕事であり、調査自体も専門的なことは一緒にやって来た調査団員がやっているので、本人はその報告を受けるくらいでいたってのんびりとした様子。

 そんな彼女の駈る機械神四号機・アーリマンは、機械神の基準機である三号機を静的進化させた機。

 しかし、発見された時には胴体と脚部のみで、両腕と背部装備が失われていた。今現在アーリマンに装備されている背面の機材と両腕は黒龍師団に回収された後に製造された仮設のものである。

 ちなみに操士選定に用いられていた四号機アーリマンに出撃命令が下ったので、暫くは機械神操士選定自体も無期限停止となっている。

「ここの氷塊が全て吹き飛んだとしたらどうなると思う?」

 氷で埋まるフィーネ台地の外郭である連山を見上げながら副長が訊く。

「世界の殆どを覆うだけの水量になるだろうな。しかし」

「しかし?」

「ここの氷の量を一気に砕くだけの何かが降ってきたとしたら、それはこの星そのものも無くなっているということだ」

 氷が水になる前に、氷を砕いた何かはそのままの勢いで大地も砕いて貫き、世界は滅ぶ。それだけの量の氷がここに詰まっている。

「千年周期で起こったとされる大水災を再現するならば、まずここの氷を溶かす必要がある」

「⋯⋯そんなことが出来るのは機械神か機械使徒だが⋯⋯千年前には機械使徒は作られていないし、機械神がやったのなら何らかの文献は残るはずだ。しかしそれもない」

 調査で得られたレベッカの説明は、副長の疑問ばかり大きくする。

「痕跡が残っていない以上、誰かが天の向こうからやって来て、ここの氷を溶かし、また何処かへ飛び去った、そう考えるしかない。なんのために?」

「それも含めて調査は行き詰まりだ。だがな副長」

 美しく形が整った獣の顔が相手を見下ろす。

「ここで重要なのは千年前に水災が起こったのかではなく、千年後も起こるのかということだろう?」

 長く生きすぎて暇潰しに操士をやっているように見える彼女だが、九本も尾を持つに至るだけあって中身は聡明だ。

 レベッカの言う千年後とは、今である。

「手段の解明ではなく、起こったあとの対処を考えたらどうだ?」

「⋯⋯そうなのだが」

 もし本当に千年周期で世界を包む大水災が近い内に起こるのなら、何らかの手立てを考えなければならない。

 機械神や機械使徒を始めとした主要機材の移動、本国の国民の脱出手段の考案、水が引くまでの海上都市の仮設など、とてつもない準備が必要になる。

 黒龍師団が総力を上げればその全ては可能だろう。多大なる犠牲を払いつつも、救世組織の脱出船監視基地の隊員の望み通り、国民の大半は生き残れる。

「⋯⋯」

 しかし納得の行かないものを副長は感じる。

 一定周期で起こると決まった、仕組まれた災いであると仮定するならば、なぜ毎回人の生活を脅かす程の大災害になるのだ。今回も水災が起こったとするならば黒龍師団と本国の人間は生き残れても、地上に生きる他国の人間は全滅する。

「黒龍師団も千年以上前からあるはず。ならば千年前の水災の被害を受けている。その時は、どうしたのだ?」

「⋯⋯それはあの鋼鉄の女に問い質せ、ということだよな」

「そうだ。キュアノスプリュネル。黒龍師団を真に牛耳る機械仕掛けの淑女」

 固有名詞を持つ数少ない個体であり、自らの意思をもって動く稀有な存在。

 黒龍師団創設時には意思を持つ自動人形は他にもいたらしいのだが、今では姿を消し、彼女キュアが機械神と他の自動人形との唯一の繋ぎ役である。

「俺は苦手だあの鋼鉄の女は」

「苦手じゃないのはお嬢たちくらいだ」

 お嬢たちとは勿論養女扱いのムラサメ姉妹のことだ。

 自動人形は自分たちに必要でないものは喋らないし無関心。副師団長という多くの人間の取りまとめ役をやっている者からすれば、一番扱いが難しい相手。しかし今回ばかりは難攻不落の防壁に穴を空ける必要がある。

「直ぐには戻らんのだろう。こっちもお前に持たせる調査報告の作成にはまだ少しかかる。その間に腹をくくれ」

「⋯⋯そうだな」

 九尾の獣人の助言に副長は途方に暮れたように答えた。


 ――◇ ◇ ◇――


 翌日早朝、フィーネ台地沖。

 朝靄の海上をプルフラスが飛んでいた。

 航海中の定時連絡の際に副長が近くまで来ていることが分かったので、リュウナは巫女からもらった情報を届けに十三号機の飛行甲板を飛び立ち、フィーネ台地へと向かった。

「――痛」

 操縦桿を握る右手が急に痛みだした。今まで感じたこともない程に辛い。リュウナは大事を取って出国時から包帯を巻いたままだった。キュアが巻いたものを血が滲んだので取り替えた以後は、手の変調も無かったので交換していない。それがここに来て急に痛みだした。激痛といって良いほど。

 自立行動機能を起動させ機体自身に飛行操作を任せると、リュウナは右手の包帯を解く。

「⋯⋯なに、これ」

 包帯を解くとそこには、硬質な作りの手があった。まるで自動人形の様な手。それが露出した途端、強い痛みが一瞬で消えた。

 手首から先が作り物の手の様になっている。その硬い部分と生身の境はあまりにも自然に融け合い、義手のようなものを無理やり付けられた印象はない。腕からそのまま生えてきたような。

 指を擦り合わせるとさすがに嫌な音がするが、動き自体は少し前までここから生えていた生身の手と変わらない。

 誰かが自分の右手を切断し作り物の手と代えたのかと一瞬考えた。しかし自分の右手に付いているものだからこそ分かる。これはずっと自分の体の一部であったもの。仮定するならば、今まで右手であったものがこの形に変化した可能性。

「⋯⋯これが、私に持たされた、力?」

 これが火の力を使える姉とは違う、妹の自分だけに持たされた力だというのか?

「⋯⋯」

 今ここでは答えは出ない。そして答えを知り得る可能性があるのは本国、黒龍師団にいる。

 リュウナは座席後ろから雑具箱を出すと中から黒色の手袋を出し、右手だけにはめた。自立行動機能を解除し再び操縦桿を握る。違和感はない。だが不安感は消えない。

 副長に連絡を済ませたら自分だけでも急いで帰還しなければと思い、リュウナは愛機の速力を上げた。


 ――◇ ◇ ◇――


 リュウガが駆る十三号機は数日の航海を経て本国に帰港した。

 飛行するなどして急ぎ帰還することも考えたが、空母型のままでしかも通常動力炉だけでは海上を進むのと対して変わらない速度しか出せないので断念している。

 入港し十三号機用の指定桟橋に接岸させると、中から自動人形が顔を出し波が被る部分の外装の修繕などを始めた。機の整備を機械仕掛けの彼女たちに任し、リュウガは黒龍師団の中央塔に向かう。

「予定より随分早かったな、何かあったのか?」

 探す相手は直ぐに見つかった。意思を持ちし自動人形にして自分たち姉妹の育ての親、キュアノスプリュネル。

 リュウガは今回の視察で得られた一番気になる言葉を単刀直入に訊いた。

「星喰機という言葉、知っていますか」

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