連れて逃げて

寂しい夜に君と出会いました

秋風ももう冷たさを感じて冬の足音が聞こえます

そんな頃不覚にも自分は声を殺して泣いていて・・・


そして後ろから声をかけられたのです

「涙は流すもの、声ははりあげるもの・・・押し殺したら自分が可哀そうよ」

「女じゃないし・・・そんな泣き方・・・」

前に回ってきた彼女は自分の頭を肩に引きずり抱きかかえるのです

声が張りあがりそこら中に聞こえ

彼女の肩はどんどん涙で染みていき・・・

おそらく生涯こんなに泣き叫ぶことはないでしょう


2時間もすると呆けてベンチに自分は座り

そして黙って星空を眺めてベンチにやはり座ってる彼女が居ました

その日なんで泣いてたか彼女は聞かなかったし自分も言わなかった

そして定期的に喫茶や飲み屋で会うこと慣れてきたころ

知らない男が彼女に近づいてきた


「そいつが新しい2号さんか?」

不躾に自分を見ながらさらに失礼な言葉を言う男

彼女は平気な顔して

「2号なんて作ったことないわ?男友達が居て何故悪いの?」

「男女の友情は成り立たない。情が沸く前に別れとけ」

それだけ言うと男は消えてしまいます

彼女は下を向きなんかとても悲しそうです


「今の・・・彼氏・・・かな?」

禁句だろうと思いつつ確信がつい言葉にでてしまいました

下を向いたまま虫のような声が聞こえます

「連れて逃げてくれる?」

凍り付く自分・・・そして時間は軽く10分は経った頃

彼女はいつもの笑顔でいいます

「冗談だよ。でもバレちゃったみたいだから君とは終わりね

お互いどこかで元気でいようね」


それから彼女から誘いを受けることは無くなりました

そして10年・・・消せずにいた電話番号から

変わらぬ声が聞こえます

「遊びに来て?」


指示された場所は飛行機が必要だったのですが

それでも気にかかり遊びに行きました

一面に広がる丘で白いシーツを干してる姿を見つけます

頭こそかぶって無かったものの修道女の服だなと思いました


彼女が気付いて建物の外のベンチにお互い座り

沈黙が流れます。自分の声は震えてなかったか今でも自信がない

「逃げてこれたの?」

「うん、逃がしてくれた男の人が居たよ。子供も生まれた・・・」

なら何故ここにいるのか・・・それは声になりませんでした

「子供なら知らない土地で知らない人の子供になってるよ。

知ることができないのは決まり事だからさ」

自分は珍しく彼女をのぞき込みます

「今度は自分が肩を貸そうか?」

彼女は首をふりいつもの笑顔のままです


「電話をくれたのは落ち着いたから?なぜ自分なの?」

「君だけ消せなかった・・・」

それはなんでとは聞けなかった


日が沈ずんでいく中・・・

自分は彼女の唇を求めた


なんで連れて逃げてくれた男より

自分を受け入れてくれていたのか

それは今でも謎だけど・・・


その日から

連れて逃げれなかった

自分のつぐないの日々が始まった

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