第44話

「え~っと、その風貌……メイダス側のプレイヤーですか?」

「いかにも。俺はこの世――」

「雷光! 雷光! 雷光! 雷光! ごめんね手加減できなくて」

「ぐはぁっ」


 本来カオス・ファントムがここを通せんぼしているけど、今は僕たちが占拠していた。そしてメイダス側のプレイヤーだけを選別してロストさせる。


「あ、そこの君。石倉サトミと深田涼子なら、どっちが好き?」

「拙者これでも、長澤ますみちゃんを裏切ったことがないでござる」

「はい、日本人プレイヤー確定。一名様ご案内ー」

「な、なんでござるか」


 僕とボッチリオさんに連れられ、シンボル部屋にワープした日本人プレイヤー。名前はこの際、聞かなくても良いだろう。


「あのシンボルに触ればイベント終了です。【メイダス側のプレイヤーをロストさせる】か、【選ばない】を選んでくださいね」

「うむ、案内かたじけない」


 日本人プレイヤーが来たらシンボル部屋に案内して、その人のイベントを終了させる。まあ、【選ばない】を選んでくれたら面白いんだけど、メイダス側をロストさせても結果は同じだからね。


 武士口調のプレイヤーは敵のロストを選んだようだ。その瞬間に変化する生存者数。今日でこれを初めて四日目。だから当然、数字はこんな感じになる。


【味方生存数:67 敵生存数:65】


 そう。日本人側がメイダス側の生存数を上回ったのだ。


「ようやくだね」

「長かったような短かったような。でも運営は接触してこなかったけど。大丈夫かな」

「さすがに今日はしてくると思うよ。このままだとジリ貧だしね……っと、噂をしてたら」


 僕たちの前に転移してきた女性キャラ。武士口調の人が今日のイベントを終わらせているから、彼女がプレイヤーでないことは明白。それに知ってる顔でもあるし。ボッチリオさんに目をやると、無言で『任せとけ』と頷いてくれた。さり気なくメニューを弄ってライブ配信をスタートする姿が勇ましい。


「お久しぶりです、こしあんさん」

「卑弥呼さん、どうも」

「イベント進行上、そろそろここから撤退してもらいたいのですが」

「それはおかしいだろ。ここに残る選択肢はイベントでも認められてるじゃないか」

「貴方は……なプロゲーマーのボッチリオさんですね? どうして日本人プレイヤーと一緒にいるのですか」

「僕とボッチリオは深い友情で結ばれてるんだ! 種族なんて関係ない。僕たちは、誰よりも分かり合えている」


 全然分かり合ってないし、未だに箱型アンドロイドの良さとかも理解不能だけど。卑弥呼さんに言ったのは事前に決めていた台詞だ。


「ボッチリオさん、貴方なら分かるでしょう。このままでは我々がゲームに負けてしまいます。そうなれば地球の中で日本にだけ侵略ができなくなるのですよ?」

「それがゲームの結果なら僕は構わないよ。何をするにもメイダスは平等かつ公正でなければならない」

「現政権政党の総裁……貴方のお父様がお困りになりますが、良いのですか?」

「誰が困るからどうとかじゃないでしょ。正しいか正しくないか、メイダスの矜持はそこにあるはずだと思うんだけど」

「しかし今回の侵略に失敗すれば、国民投票での支持率に響きます」

「そもそも地球に攻め込む必要性が見当たらないんだけど。父さんたちがすべきなのは、国民に媚びを売ることじゃない。正しく国を導くことじゃないのかな」

「政治とは綺麗ごとばかりじゃないのです。それに今回失敗すれば、私たち軍部の信頼にも傷がつきます。それはどうしても避けなければ」


 ボッチリオさんと卑弥呼さんの激論が続いてるけど、彼って総裁の息子だったのか。何かあると思ってたけど、お父さんに対する対抗心とか反抗心とかがあるのかな? まあどうでも良いけど。


 それにしても卑弥呼さんが、結構ヤバいことも言ってくれた。僕たちにとっては、とても都合が良い。さて、そろそろ会話に混ざろうか。


「そんなこと言ってるから支持率下がるんだよっ!」

「子供には分からないことですっ!」

「待って待って! 喧嘩はしないでください!」

「こしあん……」

「こしあん……さん?」

「僕は地球人で部外者だけど、レガリアワールドオンラインを提供してくれたメイダス人には感謝してる。ボッチだった僕があのゲームで友達もできたし仲間もできた。それもこれもメイダス人のおかげだよ。僕は、本当に、メイダス人の皆さんが……大好きなんだぁぁぁ!」


 ここで軽く泣き真似でもしておこうかな。妖精の姿なら効果抜群だろう。


「……ボッチリオと卑弥呼さんが争う姿なんて見たくない。ううん、メイダス人同士が争う姿なんて見たくないんだ。だからこれを使う決心がついた」


 そこでメニュー画面を可視化して、カメラに向ける。そこには映し出されている外部URLには、しっかりとあの選択肢が映っていた。


 

 ◯ メイダス側のプレイヤーをランダムで30人ロストさせる。

 ◯ 日本側のプレイヤーをランダムで30人ロストさせる。

 ◯ 生存数を無視してドローゲームとする。

 ◯ 今はまだ選ばない



「僕は、この中からドローゲームを選択するっ!」






 七章 侵略阻止でオンライン 了

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