第32話
初級・個別ダンジョンは、いかにもって感じの洞窟。でもそこには謎の光源があって視界は確保できている。僕が土の中を掘り進んでたときは暗闇だったのにズルい。
僕たちが降り立った場所には、転移魔法陣がクルクル回転していて、この上に乗れば冒険者ギルドまで帰還できるようだ。これなら変異ダンジョンに当たっても安心かな。
《ダンジョン・ルール 弓装備禁止》
目の前にテロップが流れた。このメンバーでは誰も弓を装備していないので、あってないようなルールだ。
個別ダンジョンにはランダムで独自ルールが付加される。炎魔法禁止であったり、回復魔法反転であったり。面倒臭いと言えばそうだけど、鬼畜なルールなら一度帰ってから入り直せばルール自体も変更される。
「初級はスケルトンばっかじゃけん、楽勝じゃ」
ジャケンさんは中肉中背で、黒髪角刈りのヒューマン。見た目は格闘家っぽいけどバリバリのヒーラー仕様だ。さすがレガリアの上位プレイヤーだけあって、キャラクターメイキングで蘇生魔法を既にゲットしてる。
「うむ。刀の錆にしてくれるでござる」
ゴザルさんは細マッチョな感じの散切り頭。マゲ結えば良いのに、敢えて散切りらしい。彼は手数で勝負する剣士タイプだ。遠距離攻撃の手段はないけど、即死効果のある【居合い】があるから心強い。
前衛のゴザルさん、中衛のジャケンさん、そして後衛の僕。早押しで結成したとは思えないバランスの良さ。初級だから大丈夫だろうけど、盾役がいるようならヴァネッサも召喚できるし、このパーティーに憂いは何もない。
「まあほら、私ってデバッファー? みたいなポジションだし、初級だとイマイチ活躍できないっていうか~」
あ、あったわ。憂いの要素。
テフロン
HP60 MP5000
個体 Fairy-Mushroom-Witch LV6/75
戦闘 近✕/中△/遠◯
支援 治◯/バ◯/デ◯
生産 武◯/道✕/他✕
固有スキル1 飛翔LV3 麻痺胞子LV4 毒胞子LV3
固有スキル2 キノコ大爆発LV-- 弱化胞子LV3
一般スキル1 MPドレインLV1
SP 3
しかもPK戦で僕とパーティーを組んでたのでさり気なくレベルも上がってる。そしてまた面倒臭そうな【範囲全体に効果のある】デバフスキルを覚えやがった。もはや地雷の中の地雷。キングオブ地雷街道をまっしぐらだ。
「テフロンさんは、MPドレイン以外禁止ね」
「ええ、分かってるわ。初級でデバフは不要だもんね」
違うわ! 初級でも超級でもフレンドリーファイアが不要なんだよ!
「来たでござる」
前方にポップアップした十体のスケルトン兵士。覗き見で確認したら全て【LV5】の個体。数は多いけど楽勝かな。
「ターンアンデッド!」
ジャケンさんの浄化系範囲魔法が先陣を切り、実に八体を瞬殺。
「居合い斬り!」
「雷光!」
「MPドレ……」
時間にしてわずか数秒。どんな攻撃をしてくるだとか、HPはどれくらいだとかも分からない圧勝具合。このパーティーならどこまでもいけそうな気がする。
「進もう!」
ダンジョンと言えども、所詮は初級。悩むような枝分かれも、罠もなく、僕たちの快進撃は続いた。
「お! 宝箱でござるな」
すぐに引き返せる枝分かれの先に鎮座する宝箱。ダンジョンは、やはりこれがなくちゃ。
「私が開けてきてあげるわ。初級だし、大したものは入ってないでしょうけど」
フフンと鼻歌を鳴らしながらテフロンさんが宝箱を開く。
BOMB! ベタな爆発エフェクトと共に飛び散る宝箱の破片。
「あ……」
通路にはなかったけど、宝箱には罠がある事実。【100】のダメージを受けて、テフロンさんはあえなく昇天してしまった。
「リザレクション!」
「…………ふぅ、助かったわ。エヘッ」
「まあ、妖精族じゃけんの」
達観したジャケンさんの蘇生魔法で復活したテフロンさん……いやもうテフロンと呼ぼう。むしろ「おい」とか「なあ」とかでも良い気がしてきた。リザレクションがなかったら、味方生存数が減ってたよ。もうホント、彼女にはジッとしていてほしい。
なんだかんだあったけど、今回は(僕以外の)全員のレベルが三つくらい上がったところで個別ダンジョンを終了。
受付嬢の言っていた変異ダンジョンでもなかったから楽勝だった。そもそも幸運値って、マスクデータだから調べようがないんだよね。僕は前作に続いて高いと思ってるけど、テフロンはマイナス方向に振り切ってるような気がする。
まあとにかくジャケンさんたちとはフレンド登録をしたし、僕も覗き見のスキルレベルだけは上がったから、実りのある時間だったと思う。
ログアウトしてトイレを済ませ、久しぶりにテレビを……と思ったところで、玄関のチャイムが鳴った。
「宅急便でーす」
「あ、ども」
みかんのダンボール箱に入った荷物で、差出人は母親。サインをして受け取り、すぐに中を確認。
米、味噌、キュウリ、キュウリ、ナス、キュウリ、お菓子、キュウリ、キュウリ、その他。毎月送ってきてくれるので、その度にありがたみを感じる。僕、これで今月も生きて行けるよ。
「ん?」
ダンボール箱の奥に手紙が。電話で済むのに、こんなの入れるなんて珍しい。
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貴明へ
この手紙を貴明が読んでいる頃、お母さんとお父さんはハワイにいると思います。夫婦水入らずのバカンス。ああ~憧れのハワイ航路。お母さん、もうウキウキが止まらないわ。妹か弟ができちゃうかも。
科学技術庁長官の桜田さんって、良い人ね。この前、訪ねていらして貴明の内定を教えてくださったわ。あんた、いつの間に面接なんて受けてたの? そのときにハワイ旅行のペアチケットも貰っちゃった。
桜田さん曰く『ウチの娘も貴明くんと同い年なので、ゆくゆくはぜひ婚約を……』みたいなことを仰ってたわ。やったね、逆玉息子!
まだまだ子供だと思っていたのに、いつの間にか大人になって……。お母さん、寂しいから妹か弟を作っちゃおうかしら。
では体に気を付けて。アロハ~
母より
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……おーい!
もうツッコミどころが多すぎて、お腹減ってきたわ。キュウリ食べよう……。
桜田長官、いつの間に実家まで行ったんだよ。で、何で僕じゃなくて親に内定を告げてんだよ。母さんもサラッと懐柔されてんじゃねーよ!
まあ、メガネ屋(違う)に就職できるのは嬉しいから、拒否はしないけど。それよりもだ、文章に妹と弟チラつかせすぎ! もう作る気まんまんじゃん!
で、桜田長官の娘って誰?
会ったことも見たこともないんですけど。
脳裏に『みたいな~』のフレーズが浮かんだけど、まさかね。まあ今は恋愛より仕事(ゲーム)だし、深く考えないでおこう。
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