第28話
自分史上、最高に勉強した感がある。主に英語。今なら英語の先生にだって余裕でなれると思う。
Good morning, everyone.
『Good morning,Mr. Kinoshita』
おっと、幻聴が……。
只今の時刻は二十三時四十分。良い子は寝る時間だけど、良い子でも起きていたいときはある。僕にとってはそれが今だ。いつもこの時間は起きてる気がするけど。
上位ジョブになるには、冒険者ギルドの転職専用カウンターに行くだけで良かったみたいだ。セカンドジョブの申請もそこで出来るらしい。
深夜のレガリアワールドオンラインにログインして、脇目もふらずに冒険者ギルドの門を叩いた。まあタップすると自動的に入れるシステムですけどね。
《転職専用カウンターへようこそ。今日はどんな用だい?》
クエスト窓口の隣りにある転職窓口の受付おじさんをタップすると、そんな音声の後にメニューが表示された。
・上位ジョブになる
・セカンドジョブを設定する
・用はない
とりあえず一回、用はないを選択してメニューをキャンセルし、もう一度話しかけて再度表示させた。深い理由はないけど、あえて言うなら「そこに、用はないがあるから」だ。
上位ジョブになるをタップすると、さらにメニュー画面が重なって、チェンジ可能なジョブが映し出された。もちろん情報通り、忍者とハイシーフだ。まあ忍者一択だけどね。
忍者:
魔法攻撃力依存の範囲攻撃、忍術を使用可能。
左右の手に装備した武器で交互に攻撃を行う。
攻撃回数は二倍になるが一撃の攻撃力は大きく下がる。
装備可能武器 短剣・投剣・剣・手裏剣・杖
装備可能防具 軽装
ジョブ特性 二刀流
ハイシーフ:
敵の持つアイテムを察知できる。
攻撃スキルは覚えない。
装備可能武器 短剣・投剣・円月輪
装備可能防具 軽装
ジョブ特性 アイテムドロップ率30%アップ
……思ってた忍者と違う!
ある意味、思ってた通りだけどなんか違う!
忍術は魅力的だけど、魔法攻撃力なんて今まで一度もSPを振ってない。ジョブチェンジでボーナスはつくだろうけど、多分そんなものじゃ焼け石に水。しかもジョブ特性から、アイテムドロップ率が消えるのは痛すぎる。
二刀流は文句なくカッコいいけど、交互に攻撃ってことは攻撃力がほぼ半減するのに等しい。攻撃回数は二倍になるからそこまでは下がらないだろうけど、敵の防御力を考えると、最悪ダメージを与えられない可能性も懸念される。特に、こしあんの場合。
一方のハイシーフはシーフの上位互換なだけあって、攻撃スキルを覚えない。アイテムドロップ率は増えるけど、上位ジョブにもなって攻撃スキルが使えないのは悲しいものがある。
忍者になって沢田さん……クリームみたいに範囲攻撃をしてみたい。でも今から魔法攻撃力にSPを突っ込んでも、威力はたかが知れている。そもそも初期の魔法攻撃力ステータス値がメイジとは雲泥の差なのだ。でもハイシーフだと、そのたかが知れている範囲攻撃さえ使えない。
悩ましい。とても迷う展開だ。底辺レベルで。みんながシーフを敬遠する真の理由はこれだったのか。どっちにジョブチェンジしても使えない、本当に戦闘では役に立たない。ダメダメのダメじゃん、シーフ。
それでも、ここまで育てたこしあんには愛着が湧いている。今さらリセットしてキャラを作り直すなんて考えられない。
ナナファミリー、ニャン太郎様、それにクリーム。少ないけれど、今まで手を差し伸べてくれた人のフレンド登録も、作り直せば消えてしまう。ヴァネッサの育成も、また最初からだ。それに何より、あのユニーク特性のリセマラをまたやるのかと思えば気が遠くなる。
僕は今日、人生最大のピンチに立っ――
《間もなく大型アップデートに伴うメンテナンスの時間です。プレイヤーの皆様は、ログアウトをお願いいたします》
え、ちょっと待って!
まだ上位ジョブを決めてないよ。僕とこしあんの今後を左右する大事な問題なんだ。もっと猶予を、時間よ止まれ、Please give me a time!
そんな願いも空しく画面は容赦なく切り替わり、強制ログアウトさせられた。
~只今メンテナンス中~
頑なにログインを拒むメッセージがタイトル画面に表示され、何度タップしても戻れそうにない。以前の告知通り、六時間はこのままなのだと思う。僕は今から、一体何をしていたらいいのか。暗に体を休めろと、運営に諭されているようにも感じる。
こんな気持のまま、朝まで眠るなんて良い子には絶対無理だ。
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