第15話
「さて、それじゃレガリア城下町を目指そうかね」
「うんうん、早く装備とか新しくしたいよー」
「隠しイベントもあるみたいだしな」
「どっちに行けばレガリア城下町なんですか?」
「え?」
「え?」
「え?」
全員に不思議がられた。さすがリアル家族、息ピッタリだ。
「こしあん君って、ミニマップ見ない派?」
「ミニマップ?」
「あー、そこからかい。卑弥呼ちゃんが教えてくれたじゃないか」
「卑弥呼ちゃん?」
ミニマップの存在もそうだけど、卑弥呼ちゃんとかの存在も初めて聞いた。それは誰でしょう?
「ナビゲーターの妖精さん。自己紹介してたじゃない」
「あー、見てないです……」
「わはは! 最初の重要な説明をスキップするとは男だな、こしあん君は」
あのパタパタ少女は卑弥呼ちゃんって名前だったのか。ミニマップとかのことも説明してくれていたようだし、結構重要な役割を与えられていたようだ。しかしさすが国営MMORPG。歴史上の超大物な人物名を臆面もなくナビゲーターの名称にするとは。そのうち織田信長や厩戸皇子も出てくるのかな。そうなったら中世ヨーロッパっぽいファンタジーな世界感が台なしだよ。
「メニューの中に、ミニマップって項目があるでしょ?」
急いでメニューを開き確認すると、確かにその項目があった。
「そこをタップしたらミニマップが出るよ」
押してみると、ゲーム画面の左上に透過デザインの地図が表示された。拡大・縮小もできて、拡大すると川を渡りきったところに四つの青い点がある。これが僕たちの位置を表しているのだと思う。縮小したら、なんとこの大陸は日本国と瓜二つの形状をしていた。
はじまりの街が東京付近で、今いるところが山梨と静岡の県境くらい。そしてレガリア城下町は名古屋の辺りだ。名古屋のある県名は思い出せないけど、とにかく名古屋周辺だ。もう名古屋県でいいかな。
「こんな機能があったなんて……」
「他にも色んな機能があるから、確認したほうが良いよー」
「うん、そうしてみる。ありがとう」
多分、切羽詰まるまで確認しないと思うけど。
「それにしてもリザードマンのドロップアイテムはシケてたね」
「思った思った。トカゲ肉一個だけとかテンション下がるわー」
「俺なんて、何もドロップしなかったぞ。こしあん君は?」
「僕はリザードメイルとか消耗品とか……」
「おおー! さすがシーフね」
リザードメイルは説明を読むとシーフでも装備可能な防具のようだ。炎属性の攻撃を【5%】和らげる効果もついている。で、もうひとつのドロップアイテムは、多分激レアアイテムだ。一発でこれを入手できたのは強運だと思うけど、シーフのこしあんには使えない。
大車輪のスキルブック 使用すると槍装備専用スキル・大車輪を覚える。
槍を装備できるのはファイターとナイトだけ。つまり僕が持っていても意味のないアイテムだ。
「あの、オカンさん。良かったらこれどうぞ」
オカンさんをタップして、トレードを申し込む。もちろん、大車輪のスキルブックをトレード欄に入れて。
「なんだい、やぶからぼうに……! こんなアイテム、聞いたこともないよ! どこで手に入れたのさ」
「リザードマンのドロップアイテムですよ」
「いやいや、攻略サイトにはこんなの書いてなかっただろ?」
「他にもあったようですね。まあとにかく貰ってください。僕は使えないので」
「い、いいのかい? 本当に貰っちまうよ?」
「どうぞどうぞ無料で大丈夫です。恩返しさせてください」
オカンさんは、ためらいながらもトレードを受けてくれた。
「オカン、何貰ったんだ」
「オカンだけずるい!」
「待ちな、今見せてやるよ」
そう言うと僕たちから少し離れて槍を構え、スキルを発動させたオカンさん。槍の長さが二倍くらいになり、頭上で回転させるモーションがカッコいい。
「貰ったのは、大車輪のスキルブックってやつさ。近接範囲攻撃を覚えたよ」
「スキルブック? 初耳だな」
「うん、私も聞いたことない」
「多分、これは激レアなアイテムだろうね。こしあん君に感謝だよ」
「喜んでもらえたなら嬉しいです」
「へぇー。シーフって激レアなアイテムも入手できるんだ」
「なるほど、道理で能力値が低いわけだ。これで高けりゃ、他のジョブと釣り合いがとれないからな」
「こしあん君のユニーク特性ありきだと思うけどね」
その通り。シーフの能力だけなら、激レアアイテムを入手できない。いつかはできると思うけど、今回はユニーク特性があってこそだ。
「じゃあ行きましょう、レガリア城下町へ」
僕たちは道中を仲良くお喋りしながら歩き、目的地に到着したところでパーティを解散した。ナナファミリーには本当に、感謝してもしきれない。ナナさんからは、これからも一緒にプレイしようと誘われたが、僕はそれをやんわり断わった。
だってさすがに女の子を、僕のプレイスタイルに付き合わせるのは悪いからね。
一章 不遇職でオンライン 了
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