エツコのアトリエ チャンネル

新倉敷 デュオジェット

第1話

ラーララ ラララ ラーララ 

ラララ ラララララー


皆様こんにちは。

エツコのアトリエ チャンネルのお時間です。

21xx年7月3日。

本日のゲストはなんと。

今。日本中で1番注目されている方ではないでしょうか。

つい先日我が国初。

火星への核廃棄物運搬を成功させた。

赤い流星号。船長のヤマトテツロウさんです。

本日はようこそいらっしゃいました。


はじめまして。

本日はお招き頂きありがとうございます。


大変お忙しい中。ご出演頂きまして。

こちらこそありがとうございます。

えー。割とリーズナブルに月面旅行が出来る様になりつつある昨今ですが。

火星までと言うとまだまだそう言う訳には行きませんから。

大変ご苦労なさったんじゃないでしょうか?


もちろんそうですね。

失敗の許されない国家プロジェクトでしたから。

大変なプレッシャーにいつも押し潰されそうでした。


アメリカとロシアが2回。中国が1回すでに成功させていて。

他の国々も着々とこの様なプロジェクトを進める中。

とうとう。あなた。やりましたね。

日本もついに成功を治める事が出来ました。

今や。時の人ですね。

大袈裟ではなく。

教科書に名前が載るかもしれませんよ。


いえいえ。

そんな大層な人間ではありませんよ。

僕は。


いや。だって。

悲願の国家プロジェクトですよ。

あなたがいなければ成功させる事が出来なかったと思ってます。

私だけではなく。日本国民の殆どは。


ありがとうございます。

そう言って頂いて。

本当にそう思って頂いているのなら。

本当にありがたいなと思います。


私はね。もしあなたにお会いして。

お話をさせて頂く機会があったなら。

まず最初に聞いてみたいと。

かねがね思っていた事があるんです。

あなたは何故。

こんなにリスクの高い。

常にプレッシャーと戦わなければならないプロジェクトに。

参加しようと思ったんですか?


そうですね。

最初はやはり。

格好つけず。

何より今お話している相手がエツコさんですから。

正直に話すと。

お金が欲しかったから。

と言う事になりますかね。


なるほど。

ではお聞きします。

大変ぶしつけな質問になると思いますが。

今回のプロジェクトを成功させた事で。

あなたが欲しいなと思っていたぐらいのお給料は頂けましたか?


はい。

それはそうですね。

思っていた以上でした。


それは何よりでしたね。

だって。

国家プロジェクトですもの。

誰にでも出来る事ではありませんからね。

あなたにしか成功させる事は出来なかったと思いますよ。


ありがとうございます。

ですが。

僕は今回このプロジェクトに参加して。

身をもって思い知らされた事があって。


あら。

それは一体何でしょう?


それは。

確かにお金が無いと人は不幸になります。

だけど。

不幸になる程のお金はいらない。

と言う事です。


なるほど。

大変人間味のあるお言葉だと思います。

それは一体このプロジェクトのどの辺りで?

そんなお気持ちになったんですか?


それは。

与えられたプロジェクトを無事に終えて。

たしか。

火星からまさに飛び立った辺りからだと思います。

無事にプロジェクトは終わったと。

ホットひと息ついた瞬間から。

先程お話したお金の事だけでは無く。

色々な種類の不安と言うか。

疑問ですかね。

そう言った類のモノが。

とめど無くあても無く生まれ始めました。


それは。今でも?


はい。そうです。

だけど。何て説明すればいいんですかね。

適当な言葉が。

今すぐ思いつかないんですけど。


あら。

何でもいいのよ。

あなたが今。本当に思っている事を話して頂ければ。

何でしょう。

とても漠然とした事でもいいし。

例えるとしたら何とか。でもいいし。


そうですね。

例えば。

1945年に日本は。アメリカから原子力爆弾を投下されましたね。

その後の日本の歴史と言うのは。

皆さんご存知の通りだと思いますが。

僕は日本の国家プロジェクトに参加して。

そして従って。

火星の地に核廃棄物を運搬して来ました。

そして。

今。この場にいるのですが。

果たして。

投下と運搬の言葉の違いはあるにせよ。

僕が日本の国家プロジェクトとして火星の地に運んだ物は。

1945年に日本がアメリカから投下されたモノと。

同じモノだったんじゃないかな?

とか。

火星に行く前はこの様な事は。

全く考えたりしなかったんですけどね。


国家プロジェクトと言う重い荷物を下ろして。

終わったと思った瞬間から。

その様な自問自答が初まってしまった。

と言う事ですかね?


はい。そうです。


あの。聞く所によりますと。

アレなんですってね。

既に他の国が置いてある核廃棄物の半径30キロ以内に。

別の国が核廃棄物を置いてはダメなんですってね。


はい。そうですね。

21xx年に国際法で定められています。

既に何度か火星への核廃棄物運搬に成功している国々は。

その法律を利用して。

火星での陣取り合戦の様な事を始めています。

まるで火星に自国の国旗を立てるかの様に。


と言う事は。

火星で各国が核廃棄物を利用して。

自国の領土を広げ様としていると?


はい。そうです。

その事に関しては間違い無いと思いますよ。


火星で領土を広げ様とする意味とは。

どう言う事なのでしょうか?

核廃棄物を置ける範囲を広げ様としているだけなのか?

はたまた。その範囲の中で。

行く行くは何かしらのプロジェクトを立ち上げようとしているのか?


そうだと思いますよ。

このプロジェクトはただ単に。

自国に置ききれなくなった核廃棄物を火星に置いて来る。

そしてその様な作業の出来る範囲を広げる。

と言う事では無く。

明らかに別の側面があると思いますね。


と言うのは?


先程エツコさんがおっしゃられた通り。

火星である程度の領土が確保出来たら。

そこに何かしらの施設を作り。

そこを拠点として。

火星で新たなプロジェクトを始めようとしているのだと思います。


そこに沢山の人を送り込む?


はい。そうですね。

あらゆる分野のスペシャリスト達を次々と送り込むつもりなのだと思いますよ。

そして火星にまた新たな自国を作ろうとしているのだと思います。


なるほど。

充分あり得るお話ですね。

と言う事は。

ある程度でも火星で人が生活して行ける。

メドの様な物は立っていると言う事なのでしょうか?


そうだと思います。

ただ世間一般には公表されていないだけで。

今から100年後を見据えた上で。

各国がこの様なプロジェクトを頻繁に行なっているのだと思います。


火星に我々人類が自由に行き来を出来る時代。

そう言われると。

一見素晴らしいなと思うのですが。

その反面。

何かしらの問題が起きる事も避けられないのではないのかな?

と素直に思いますが?


正しくそうだと思いますよ。

地球上で起きた負の歴史を。

火星でまた繰り返すのかな?

と言う懸念はつきまといますね。


と言うのは?何でしょうね?


例えば。

時代やら文明やら。

その技術やらテクノロジーやらがどこまで進んで行ったとしても。

それらを扱う当の人間は。

大した進化は出来ていないのではないでしょうか?

ある意味では。

どんどん進んで行く時代やら文明やらテクノロジーの中で。

取り残されてしまっているのは。

我々人間の本性なのかもしれませんね。


確かに。

あなたがおっしゃる通りかもしれませんね。

大変考えさせられます。

ところで。

話は全く変わりますけども。

久しぶりに火星から日本に帰って来て。

何か感動した事とかありましたか?


もちろんです。

沢山あり過ぎて。

何から話せばいいのか。わからないんですけども。

とりあえず単純に。食べ物が大変美味しかったですね。


あらあ。そう。


はい。

火星から日本のステーションに戻った直後の事なんですけども。

我々クルーにはそれぞれに。

数日ならそのまま滞在してもいい。

リラックスする為の個室が与えられるのですが。

そこには。もし空腹であればいつでもすぐ食べられる様に。

オニギリとかパンとか弁当とか置いてくれてるんですね。

僕はそこに置いてあったツナのオニギリとアンパンを食べてる時に。

美味しいと言う感情を通り過ぎて。

気が付いたら泣いてました。


そんなに美味しかった?

そこにあったオニギリとアンパンは。


はい。

美味しかったですね。

オニギリを食べ終わって。その次にアンパンを食べてる時とかは。

アンパン片手に。ワアワア泣きながら食べてました。


あらあ。そうなの。

でも何だかわかる様な気がするわ。

もちろん私は火星には行った事も無いけれど。

それは。

帰って来たんだと言う安堵感からかしら?


そうですね。

その通りです。

やっと数ヶ月間も続いた激しい緊張感から開放されて。

あの時は自分の意思で涙を止められなかったですね。


まあ。そうですか。

それで日本に帰って来て。

もうご家族やご友人の方達とは会ったりしたの?


いや。それが。

まだ会えてなくて。

メールとかテレビ通話とかでは割と頻繁に連絡を取っているのですが。

プロジェクトの終了手続きとか。詳細なメディカルチェックとか。メディアへの対応に追われて。

実際にはまだ会えてないんですよ。

でもまあ。

落ち着いたらゆっくり会うつもりです。


あらまあ。

でもそうでしょうね。

実際のところ私も早くあなたとお会いして。

色々とお話を聞きたかったし。

しばらくの間。各メディアはあなたの事を放っておいてはくれないと思いますよ。

あとね。

プロジェクト中何かトラブルの様な事はありませんでしたか?


それが。

トラブルらしいトラブルって特に無かったんですよ。

本当にありがたい事に。

たまに。急な環境の変化から眠れなくなる時はありましたが。

プロジェクト自体は。

日本を出発してから帰還するまで。

至って順調に進みました。

だからこそと言うか。

我々がこんなにも順調に進めてしまったプロジェクトは。

本当に正しい事だったのかな?

とつい考えてしまうと言うか。


なるほど。

結局のところ。

あなたが火星で見たモノ。感じたモノとは何だったのでしょう?

もし一言で言うとしたら?


うーん。

欲望ですかね。

人間の終わりの無い欲望をまざまざと見せつけられた気分でした。


何故そんな風に感じてしまったのか?

具体的に何かとかありますか?


そうですね。

火星の土地には沢山の資源が眠っている。と言われています。

鉄。ニッケル。プラチナは掘れば間違い無く出て来るでしょう。

もしかしたら。他の鉱物も出て来るかもしれない。

その可能性としては計り知れないんですよね。


まあ。

そうだったんですね。

広大な土地だけではなくて。

その下には豊かな資源が眠ってるんですね。

そして。その資源は計り知れない可能性を秘めていると。

そう思われてる訳ですね?


はい。そうですね。

エツコさんも。今このチャンネルをご覧下さってる皆さんも。

もし火星に行って頂ければ。わかって貰えると思うのですが。

あそこは。ほぼほぼが手付かずの土地ですから。

その下には。

我々が想像している以上のモノが眠っているのではないでしょうか。


確かに。

そうですね。

そう考える方が自然なのかもしれませんね。

また。

突拍子もない質問になるかもしれませんが。

火星で。

火星人とかにお会いにはならなかったですか?


はは。いや。

さすがに火星人には会いませんでしたけど。

ロシアの作業員達は数人見かけましたよ。

彼等。

一生懸命に土地の測定とかをしていて。

カメラにその記録を残して行く作業をしている様でしたよ。


他国では核廃棄物の運搬以外でも。

火星を訪れているんですね。


その様ですね。

明らかに別の目的で。シャトルで来てましたね。

僕か思うに。おそらく。

自国が置いて行った核廃棄物が。

本当に望み通りの場所に置けているのか?

当初の計画との誤差は無いか?

出来るだけ正確なデータを拾い集め様としていたのだと思います。


それでは。ロシアだけでは無く。

アメリカや中国も同じ様な作業をしているのかしら?


そう考える方が妥当だと思いますよ。


では日本もその様な作業をするのでしょうか?


だと思いますよ。

近々その類のプロジェクトの話が。

公然とメディアの方にも出て来るのではないでしょうか?


そうね。

あなたが話すと本当に信憑性が高いわね。

またまた。

180度話は変わりますが。

色々と落ち着いて時間が出来たら。

何処か行ってみたい所とか。

何かやってみたい事とかはありますか?


そうですね。

海を見に行きたいですかね。


例えば。

何処の海?


うーん。いや。

何処でもいいんですよ。

湘南でも。お台場の海でも。

宇宙から見た地球の海は本当に美しかったです。

暗闇の中でひっそりと輝きを放つ。

孤高な宝石の様でした。

気高さに溢れ。品位に溢れていて。

何か近寄りがたい様な印象さえ受けました。

まあ。その事は多くの方がご存知だと思いますが。

でも僕が知っている海は。

やはり地上からね。

ごく普通に眺めてる海なんですよ。

何も気取る事も無く。構える事も無い。

ありのままの自分を受け入れてくれる様な海。

そして。美しい。


なるほど。

海を眺めていると癒されると言う事でしょうか?

疲れも徐々にとれて。

自分がリセットされると言う事でしょうか?


おっしゃる通りですね。

正しく今。

エツコさんがおっしゃった通りです。

浜辺から海を眺めていると。

自分がリセットされて行くんです。


そう言う事だったんですね。

まだまだお聞きしたい事は山の様にあるのですが。

どうもお時間の方が来てしまった様です。

この後もインタビューのご依頼が入ってるんでしょ?


そうですね。

あと2本ほど入ってますね。


御多忙を極めていらっしゃいますね。

それでは最後にズバリお聞きしますが。

あなたはまた火星に行ってみたいと思いますか?


いいえ。思いませんね。

特に今は。

日本に帰還したばかりなので。

ですが。

政府とのパイロット契約があと2年3ヶ月残ってるんですよ。

なので。もしかしたら。その期間中にまた火星まで行く事になるかもしれません。 


まあ。そうなんですね。

ですが。と言うか。

なるべく早くね。リラックスとかされて。

充分にご静養下さいませ。

では。

改めて。

本日のスペシャルゲストは。

我が国初。

火星への核廃棄物運搬を成功させました。

赤い流星号船長。

ヤマトテツロウさんでした。

本日は素晴らしいお話を。

どうもありがとうございました。


いえ。

こちらこそお招き頂き。

どうもありがとうございました。


いかがでしたでしょうか?

本日のエツコのアトリエ。

本当はね。

もっと時間さえあれば。

あんな事やこんな事も。

色々とテツロウ船長にね。

お聞きしたかったのですが。

おそらく今日本でね。

1番御多忙な方でしたのでね。

これが精一杯であったと。言う所ですかね。

それでもまあ。

充分に面白いお話を聞く事が出来たと。

そう思っております。

それでは皆様。

本日も最後までご視聴頂きありがとうございました。

本日は月面PKスタジアム。

403スタジオからお届けしました。

たまにはリモートでのインタビューもいいものですね。

それでは皆様。

ご機嫌よう。



ラーララ ラララ ラーララ ラララ

ラララララー



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