第二音②
鈴はちょうど考えていた相手からのダイレクトメールに少し怯えながら中身を開いた。そこには明後日の日曜に鈴たちの地元に到着する新幹線のチケットを購入した旨が書かれていた。そして最後の文には、芸能界の秘密を話すことになるため、くれぐれも一人で来るようにと書かれている。
(ますます怪しいよね……。う~……、どうしよう……)
しかしもう既に新幹線のチケットは買ってあると書かれているため、鈴は断るに断れなくなってしまう。完全に頭を抱えてしまった鈴だったが、再び震えたスマートフォンに身を固くしてしまう。
(今度は何……?)
恐る恐る液晶画面を見てみると、それは琴音からの個人メッセージだった。鈴はホッと息をつくとそのメッセージを見てみる。そこにはカノンから話を聞いたのだろう、明後日の日曜について心配している内容と、
(当日は、私に任せて……?)
そう、琴音は自分に任せてと書いている。鈴がすぐに琴音へと返信をしたのだが、それに対する琴音からの返事はこの時、なかったのだった。
結局、琴音の言う『任せて』の意味は分からないまま、二日後の日曜を迎えた。鈴は気乗りが全くしない中、市内の駅へと向かうべく準備をしていく。
あれから尾形からのダイレクトメールは時間を置くことなく送られ、ついには個人的にやり取りがしたいと言ってきた。鈴はそれだけは何とか断ったのだが尾形はそれでも日曜日の今日、鈴たちの地元へ来ることを曲げはしなかった。
(はぁー……、気が重いなぁ……)
鈴のスマートフォンは朝から鳴り続けており、その全てが尾形からのダイレクトメールなのだ。まだ高校二年生である鈴でなくても、これではげんなりしてしまうと言うものだ。
ピロン!
その時、ダイレクトメールとは違う通知を知らせる通知音が響いた。鈴が誰だろうと疑問に思いスマートフォンの液晶画面を覗くと、それはバンドグループメッセージでの琴音からだった。琴音は鈴へ今日、本当に尾形に会うのかと聞いてきている。鈴はそれに対して全く乗り気がしないことを伝える。
『それでも鈴ちゃんは、行くんだよね?』
『一応、行かないとかなぁって思ってる……』
『分かった。何かあったら、すぐに電話してきて』
琴音とのメッセージのやり取りにカノンの既読がつく。それからカノンからは『任せて』とスタンプが送られてくる。
これだけで鈴は少しだけ気分が楽になるのが分かるのだった。
待ち合わせとして指定していた新幹線の駅の構内は人でごった返していた。鈴が自分の最寄り駅ではなくこの新幹線の駅を待ち合わせ場所として指定したのは、人の目がたくさんあるためだ。
鈴はそんな新幹線の駅に尾形が到着する五分以上前に到着した。間もなくあの改札を通って、自称芸能事務所の代表取締役社長が現れるのかと思うと、鈴は緊張で口から心臓が飛び出そうな錯覚を覚えるのだった。
(これは、生配信で弾き語りするときよりも、緊張するな……)
鈴がそんなことを考えていると、手に持っていたスマートフォンが震えた。この人の喧騒の中、スマートフォンの通知音は全く気付かない。だから鈴は自身のスマートフォンを手に持ち、歩いていたのだった。
鈴が震えたスマートフォンを見ると、そこには尾形からのダイレクトメールの受信を知らせる通知画面があった。鈴は少々ウンザリする気持ちの中、受信したダイレクトメールを開く。そこには、
『いよいよ会えますね! 楽しみです』
と言う文面が踊っていた。鈴はその文面に、
(なんて返せばいいの? 全然楽しみじゃないんだけど~……)
んー……、と鈴が悩んでいるうちに五分の時間はあっという間に経過してしまい、新幹線の到着時刻になった。
(やばっ! 着いたって連絡、きた!)
鈴の元に到着を知らせる尾形からのダイレクトメールが届く。鈴は緊張からソワソワしてしまい、改札口を直視することが出来ない。鈴が明後日の方向を向いていると、
「鈴さん、ですか?」
上から落ち着いた大人の声が降ってきた。鈴はビクリと肩を震わせて背後を振り返る。そこには高そうなスーツをさらりと着こなしている背の高い男が立っていた。
「あ……」
「尾形です」
「えっと、桜井鈴、です……」
鈴はてっきり中年の男性を想像していたため、尾形が自分の父親と変わらないくらいの若さで驚いてしまう。思わず自ら名乗る声がぎこちなくなってしまうのだった。
しかし尾形はそんな鈴の様子を気にしたようには見られない。柔らかく微笑むと鈴に手を伸ばした。時刻は昼を過ぎた頃だった。
さて、そんな鈴と尾形の様子を遠くから見ている影があった。琴音とカノンだ。その傍には大和と何故か和真の姿もあった。
四人は鈴と尾形から十分に距離を取って二人の様子を見つめていた。
「あーあ、鈴のヤツ、あれは相当緊張してるねぇ」
「仕方ないよ。それより和真くん、本当に来てもらって良かったの?」
「ん、問題ない」
今回、和真が来ることになった経緯としては琴音が同行をもちろん頼んだからではあるのだが、まさか二つ返事で同行をしてくれるとは思っていなかったため琴音は恐縮してしまう。
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