The Three Sounds
彩女莉瑠
第一音
第一音①
「中間テストを無事に乗り切ったことを祝して……」
「カンパーイっ!」
ここはとある私立高校にある教室の一室。そこに集まっているのは先程まで一学期の中間テストを受けていた少女たち三人だった。少女たちは勝手に教室内の机を突き合わせ、その上にお菓子やジュースを広げながら、苦しかったテストを振り返っている。
「そもそも、テスト範囲が毎回広すぎるんだよ! ウチの学校は!」
そう文句をこぼしながら開いたスナック菓子に手を伸ばしているのは、
そんな鈴の向かい側に座っている少女は、
「来月の期末テストは、もっと広い範囲が出題されるから、鈴の前途は多難だね」
涼しい顔でそう言いながら、カノンも広げているお菓子の袋へと手を伸ばした。
カノンは鈴とは対照的に、真っ黒な髪を顎のあたりで切り揃えている。いわゆる、ショートボブヘアである。前髪は左右に分けており、切れ長の涼しげな目元が、カノンを大人っぽく見せている。
「んもーっ! カノン! それ、言わないでよっ! せっかく中間テストが終わったばかりなのに、もう期末の話とか……。ないでしょ? ないない!」
「それもそっか。ゴメン、悪かった」
鈴の、全力の抗議の声にカノンも素直に謝る。そんな二人に挟まれるような形で座っているのは、胸元まである艶やかな黒髪ロングヘアの少女だった。少女のサイドの髪は、耳の下辺りでバッサリと切り揃えられており、前髪の隙間からはチラチラとおでこの肌色が見え隠れしている。
そんな少女は先程から楽しそうに大きなタブレットにペンを走らせていた。
「こーとね! 君はさっきから何を描いているんだい?」
「うん、あのね。こんなステージ衣装があったら、素敵かなって思って」
鈴から『ことね』と呼ばれた少女の名は、
「うわっ! カワイイっ!」
「ホントだ! さすがは我らの衣装担当!」
鈴とカノンは琴音の描いたデザイン画に興奮した声を上げた。
この鈴、カノン、琴音の三人は、去年の春、高校入学の時に知り合った。入学してすぐ、クラスで浮いてしまっていた三人は自然と集まり、話をするようになっていった。
その時に三人には共通点があることに気付いた。それは音楽だった。好きな音楽のジャンルが同じで、更に三人共がそれぞれに違う楽器を演奏することが出来たのだ。
鈴はギター。
カノンはドラム。
そしてのんびり屋の琴音はベース。
音楽の趣味が同じ三人は、共通の知っている曲を合わせることにした。そうして初めて合わせた曲は、アップテンポなロックの曲だった。三人は自分の奏でる音が他者の音と混じり合い、溶け合い、そして繋がっていく快感にすぐに虜になっていった。
「ねぇ、バンド、組まない?」
初演奏を終えた鈴の言葉に異論を唱えるものはいなかった。
そうして始まった三人のバンド生活は、学校の文化祭にて人前でのデビューを果たすことになる。
「あの去年の文化祭も、琴音の衣装が色を添えてくれたんだよね」
「そうそう! あれは圧巻だったなぁ……。次々とステージの前に生徒が集まってくれてさ!」
「うんうん、気持ちよかったよね」
三人はスナック菓子におのおの手を伸ばしながら、去年の文化祭を思い出していた。
ベースを担当する琴音はのんびりした性格ではあったが、手先が器用で衣装作りも担当している。三人のデビューである去年の文化祭でも、もちろん衣装を手作りしたのは琴音であった。自然と三人の次の目標も、今年の文化祭出場になっていったのだった。
「そう言えば、鈴。明日のスタジオ練習だっけ? 私たちの演奏を披露するのって」
「そうそう! それ、私も確認しておきたかったの!」
カノンと琴音の視線を受けた鈴は、ペットボトルに手を伸ばし、喉を潤してからこう言った。
「うん、明日のスタジオは三〇分生ライブで、残りの三〇分は私のリスナーの疑問や質問に答える時間にする予定」
鈴はバンドを結成する前から、大手動画配信サイトにてチャンネルを運営しており、一定数の固定リスナーが付いているのだった。そのリスナーたちの要望の中に、鈴のバンド演奏を聞いてみたいと言うものがあり、明日、その声に応えることになったのだ。
「もしかして、私たち明日が世界デビューの日になったりして?」
「えぇっ? やめてよ、カノンちゃん! 緊張する~……」
「何言ってんの、琴音! めっちゃ楽しみじゃない!」
カノンと琴音がキャッキャッと楽しそうに騒いでいると、
「おい、お前らー。そろそろ片付けて家に帰れよー」
「はーい!」
廊下の窓から見回りに来た先生に軽く注意される。三人はそんな先生へと返事をすると、机の上のお菓子と飲み物を片付けて、机と椅子を元の位置に戻す。
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