6月28日

@halcyonzero

 誰も何も喋らない。ただただキーボードを叩く音とマウスをクリックする音だけが彼らの息づかいを代弁するかのように聞こえてくる。テレビはNHKを流すが誰も見ていないし誰も聞いていない。彼らが沈黙する代わりにキャスターがその日何度も聞いたニュースを淡々と繰り返していた。

 当直の日はいつもこんな感じだ。

 いつもなら違う当直主任がいて、その主任もあまり話す方ではないが少なくともテレビは民法を流すし、今のように今日の当直が始まって3時間経っても誰も何も喋らないという事態には陥らない。

 最近、当直班が変わったのがいけなかった。正確には、当直班が変わったのでは無く、今日の当直主任はいわば「代打」の当直主任なのである。東京オリンピックを間近に控え、本来の当直主任は東京オリンピックに派遣される予定であった。

 その派遣はどうやらなくなったらしい。

 七月の当直表を見ると、今日でこの代打ともお別れだ。

 もうすぐ午後九時になる。そうすれば、一人は仮眠に就く。残された私と当直主任の間にはやはり会話は生まれないのだろう。いつものようにただ穏やかに時間が過ぎ、たまにかかってくる電話の話し相手となれば、直に自分たちにも仮眠時間がやってくる。

 そこで6月28日が終わる。

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