だから僕は男の娘じゃないっ!

飛永英斗

私はいちごっ!

 流れ星高等学校。


偏差値は全国的に見ると中の下くらいで、口コミでは星3.5という良くも悪くもない、微妙な数字を叩き出した高校である。


そんな高校に通う女子高生、すなわちJKの17歳、土呂辺とろべいちごは、今日も絶賛遅刻中。その割にはス○バのコーヒーを口に加え、右手には鞄、左手にはパン屋の紙袋と、意識高い系女子を演じている。


信号の待ち時間にはスマホで自撮りして、SNSにアップして私忙しいですアピールをする。


そして信号は青になり、流れ星高校の校門が閉まるギリギリで潜り抜ける。第一関門は突破したものの、あと3分で着席しないと、遅刻扱いになってしまう!


そうとなれば、あれしか無い……!


私は下駄箱に入っている上履きを選ばず、鞄の中からローラースケーターを取り出し、一昔前のアイドルみたいに廊下を滑りながら、教室まで向かった。


だが、教室に辿り着くまでは階段がある。ローラースケーターじゃあ登ることは困難。そんな時はジェット機能を起動し、階段を一段も踏まずにジェットで登った。


走る。走る。と言うより滑る。滑る。急げ、急げ、急いで、急いでよ!! …… いかんいかん、停止したロボを動かそうとする少年みたいになってしまった。


…… なんて言ってる間に、教室に辿り着いた。ドアを開け、みんなに挨拶をした。



「な、何とか間に合ったぁ…… おはよーん!! みんな今日も餃子のようにアガってる!?」



激寒ギャグだとは分かっているけどぉ、これは私が可愛い子だっていうアピールをする為だからぁ、しかたないんだよぉ?



「…… いちご、落ち着いて。朝から疲れるから……」


「あ、カキナ! おっはよ! 今日も男の娘らしさ全開で可愛いよ!」


「ぼ、僕は男の娘なんかじゃない! 正真正銘男だよ! 勘違いしないでよね!」



彼女…… いえ、彼の名は、#葉島__はしま__#カキナ。私の幼なじみであり、男の娘だ。


髪は肩まで着くし、髪も縛ってる癖に、ボクは男の娘じゃないといつも言い張る。認めた方が、楽になりますよ……。


……と、私が席に着いたと同時に、先生が教室に入ってきた。



「はい席に着けー。みんな元気かーあー元気だなーじゃあ出席とーらないっ。今日は荷物検査するからみんな鞄の中身全て出せー」



──そう言えば、昨日先生そんな事言ってたなぁ。とりあえず、中身をザーっと出しますか。



「はい、まずはいちごからなぁ。…… なんだこれは?」


「えーっとこちらに並んでいる物はですねぇ、右からパン、ス○バのコーヒー、ローラースケート、単三電池、犬のおやつ、宴会用のうさ耳カチューシャ、ホットプレート、あとは教科書ですがぁ!?」


「なんで最後キレたの!?」



隣の席のカキナが、すかさずツッコミを入れてくれた。あ、大体ツッコミはカキナがするから、そこん所よろしく。



「…… うーん、68点。面白さが少し足りないなぁ……もう一息欲しかった所だねぇ」


「何68点って!? 何の評価!?」


「次、法桑ほうくわびわ。中身出せ」



私の次に指名したのは、ふわふわしたクラスメイト、びわ。休み時間は、マイ急須で烏龍茶を飲んでいる。



「はぁい、私ですわねぇ。先生、ご覧になってください」


「急須に烏龍茶、ドラムのスティックにエアコンのリモコン。そして……何だこれは?」


「はい、ですわ♪」


「おお…… 赤い絵の具でちゃんと血を再現している……! 86点!!」


「やりましたぁ! でもそれ猪の血ですけど、褒めていただき嬉しいですわわ!」


「えっ、サラッと怖い事言ったよこの人!?」



むむむ、なかなかやるなぁ、びわちゃん……。チェーンソーとはお笑いセンスが高い……。



「ねぇ、大喜利大会なの!? 持ち物検査って大喜利大会なの!?」


「そんな事言って、お前はどうなんだ、男の娘さん?」


「カキナです!! 先生までやめてください!! ほら、中身は教科書にペンケース、それに水筒と朝手作りしてきたお弁当。マニキュア、乾燥止めに顔パック、ヘアゴムにヘアピン、イ○スタアップ用の加工アイテム、ハート柄の折り畳み傘、そしてモバイルバッテリーと最近買ったラベンダーの匂いがするスマホカバーを付けたスマホ!! どこが男の娘なんですか!!」


「…… 100点あげるから、もういい。これ以上は聞かない」


「……あれ、ボク何かおかしい事した?」



──うん。私達よりやばかったと思うよ、カキナ。

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