約束

高透藍涙

約束

 天使だ!

 思わずハイテンションになってしまった。

 比喩ではなく、本物の天使。背中には純白の翼。金髪の頭頂部には、金の輪が浮い ていた。天使の輪っかだ。物語でしか見たことがない姿は、本当に美しく穢れがなか った。俗世の嫌なものを何も知らないというような清い瞳で、こちらを見つめてく る。青い神秘的な眼差しは、空や海の色とも違う独特の色彩だ。

「そんなきらきらした目で見ないでよ。まぶしいじゃん」

 天使は鈴を転がすような心地よい声をしていた。

(まぶしいってどっちがだよ!)

「ま、僕に見とれてるのはしょうがないんだけどさ」

 クスクス、と笑った天使は、雲の上をすたすたと歩いていく天使を慌てて追いかけた。黄金の階(きざはし)に足をかけようとしている。階は、天空へと続いているのだろう。らせん状に続くものをゆっくりと昇っていくいく彼に声をかけた。

「この先にあるのが、天国なの?」

 にこにこと微笑む天使は、頷いた。

「僕が見えるなんて、君はとても純粋で心が綺麗なんだね。

 そのままで、人生をまっとうしてほしい。約束だよ」

 初対面の天使は、思わず赤面してしまうようなことをさらっと言ってのける。

 確かに、悪事なんて働いたことはない。損だと言われるくらい真っすぐ生きていると思う。でも、綺麗とはまた違う気がした。ただ、他者に倣わず自分を生きているだけにすぎない。強く掲げる信念があるわけでもない。

「約束を守れたら、天国で君に会える?」

 天国に生きたいとかそういうのはないんだけど、また会えたらとは思った。背を流れるきらめく金髪と青い瞳が、心をとらえて離さない。底辺を生きる人間の自分が、彼に会えるとは限らないが、思わず口にしていた。

「どんなに、辛くて悲しくても自分で終わる道を選ばないって

 約束してくれたらね」

 約束が増えてしまい、苦笑いする。

「……うん」

「さようなら……」

 天使は、こちらを振り向いて極上の笑みを浮かべた。

 ふっ、とかききれるようにすべてが、消えていく。

 階段も白い雲も全部が、霧のように消え失せた。


「……夢なのになんでこんなに生々しいんだろう」

 目が覚めると頬を熱い滴が伝っていた。

 彼のさようならが、再会の約束に思えたのは、気のせいだろうか。

 俗にいう悪いことはせず真面目に生きて、天国の階を登ろう。

 死んだあとの世界で自我がないこととか、そういうのは

 置いといて、いつか終わる日まで投げ出さずに生きよう。

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約束 高透藍涙 @hinasemaya

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