のこされし子供達 鎌田有紗の嫉妬

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私の名前は、鎌田有紗。


 私には好きな人がいる。


 でも、その人には好きな人がいるから、私は諦めなくてはいけない。


 彼の事を応援してあげなければいけない。


 彼にとって、ただの私は良い友人というもの。

 それ以上は望めないから。


 だから、ずっといい友人でいないと。


 下手に仲を進展させようと失敗して、嫌われたくないもの。


「鎌田にはいつも助けられてばかりだな」


「本当に、鎌田には頭が上がらないよ」


「ありがとう鎌田。また、頼らせてもらうからな」


 彼にお礼を言ってくれるのが嬉しい。


 友人としてでも頼ってくれるのが嬉しい。


 だから、その時まで私はその関係のままで満足していたのだ。






 その日も私は、彼に声をかける。


「最近元気ないですね」


 部室に入って来た彼に、一番に話しかけるのが私の楽しみ。


 放課後の贅沢な時間だった。


 けれど、私はその時間を失ってしまう。


「実はな、最近妹に避けられてる気がするんだよ、お兄ちゃんうざいのかな」

「ご愁傷さまです。でも、当然ですよ。妹さんはもう年頃の女の子ですもんね」


 しょんぼりする彼の頭をなでて慰める。


 私はそのささいな行為にとても満足していたけれど、なぜか嫌な予感がしていた。


「ちょっと、気にしすぎですよ。どうして毎日毎日、そんなに妹さんの事を気にかけるんですか」

「どうしてだろうな。でも、あいつそそっかしくて、脇が甘いところがあるから、守ってやりたくなるんだよ」


 つぶやく彼の表情はとても優しくて、幸せそうで。


 私は直感したのだ。


 彼が愛している人は、妹なのだと。


 そう思った。


 そんなの許せない。


 妹なら、頑張らなくても、ずっとそばにいられるのに。


 家族としての立ち位置がもうすでにあるのに。


 なんて贅沢なんだろう。


 それ以上を望んで、彼を誘惑するなんて。


 きっと、卑怯な手を使っているに違いない。


 そう思ったら、負の感情が止められなくなった。


「実はですね」


 気が付いたら私は、ありもしない事を彼に吹き込んでいた。








「妹さんは実はお兄さんの事が大嫌いなんですよ」


「妹さんは裏ではこんな事を考えていたんですよ」


「妹さんは本当は」


「妹さんは」


 日に日に彼の瞳が濁っていくのを感じる。


 家族に裏切られる辛さは、ほかならぬ私がよく知っているのに。


 私は昔、両親から虐げられていた。


 良い学校に通うために、机に鎖につながれて毎日が毎日、勉強漬けだった。


 でも、それを救ってくれたのは彼で、そんな彼にこんな悪口を吹き込むのが申し訳なくなってくる。


 なのに、止められない。


 彼の心が妹から離れていくのを、嬉しく感じてしまう。


 あと少し、


 もう少し。


 せめて、お互いに口も利かなくなるくらいは。


 そう思って、続けてしまった。


 けれど、やりすぎてしまったようだ。






『本日のニュースです。○○県、○○町の自宅で、殺人事件が起きました。犠牲者は』


 私はその結果を、人伝手に知る事になる。


 とりかえしは、もうつかない。



 

 

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