第14話襲いかかる『もの』
翌日、塚田さんに起こされるまで俺は爆睡していたらしい。コーヒーメーカーで淹れてくれたコーヒーを差し出す。
「おはよう御座います八神さん」
「ふぁいおはようございます、あの昨日俺どうなったんですか?」
口が上手く回らない
「ヒエ様が御力で貴方を眠らせたんです」
「そんなひどい……」
「いいえ、あのままでは…って何勘違いしてるんですか!」
バッチーンとビンタされる、今度こそハッキリと目が覚めた。
頬をさすりながら話の続きを聞く。
「良いですか、ヒエ様が八神さんの魂に何かを感じ取ったらしいのです。結果眠らせてヒエ様ヤエ様の御力で祓って下さりました」
「それは何だったんですか?」
「さあ? そこまでは私は」
そこまで話していると衝立ての内側から声がする。
「ちょっぴりだけどね微かに感じたのよ、穢が」
ヒエが顔を出す。
「ヤエには気付かない位に小さな穢だったけど、何故かしらね? 私には感じたのよ」
ヤエも顔を出す。
「そうなのよ、いつ取り憑いたのかさえ分からなかったわ」
「別に少しぐらい穢れてても……」
「嫌よ! アンタとは繋がっているのよ私達! アンタの性根がどんだけ腐っていようが魂は別! ちょっとの綻びでね病気になったらどうしてくれるのよ!」
「お前等には、病気と言う概念が有るのか?」
「うっさい! 揚げ足取るな」
ヒエがキレてる、でも助けてくれたのならそれはきっと意味があるのだろう。
「でも、ありがとうな」
本心だった、それを聞いたヒエが
「それ程でもあるけれどね」
満更でもない表情を浮かべていた、そんな俺達の会話を聞いていたヤエの顔が怖い。
取り敢えず話を逸らす事にしよう。
朝からゴタゴタしたが、今日の作戦会議へと相成った。いくつかのプランが塚田さんと俺との間で提案された。取り敢えず警察署へと向かい、俺の部屋に仕掛けた奴に会う先ずそこからだ。
警察署へは俺一人で向かう事にする、神様状態のヤエに付いてきてもらう。塚田さんとヒエは万が一の為に事務所で待機して貰う。狙われるのなら俺一人で十分だ、それに確信があった。
早速警察署へと向かう事にする。
「ヤエ頼むよ」
「任せておきなさい!」
そう言うとヤエの身体が一瞬光りその姿が消える、其処には着ていた洋服と下着だけが残っていた。
「何見てんのよこの助平が!」
「何見てるんですか八神さん!?」
しまった! ヒエには俺の考えてる事がっ!
パシッ! パン!
2発もビンタを貰った今日はもう3発も貰っている、こんなのご褒美だとか言う奴がいるがよっぽど変態だと思う。
「さっさと行ってきなさい!」
「行ってきます……ヤエ居る?」
「アンタの頭の上にいるわよ! とっと行く!」
「はい……」
事務所を後にする、今日は市役所から原付を借りた。これなら何か起きて暴走しても最悪の場合、俺一人コケれば被害が少なくて済む。エンジンを掛け警察署へと向かう、俺が向う事は塚田さんが連絡してくれてる筈だ。
「ちゃんと付いてきてくれてるのかな?」
空を見上げる、姿は見えないが大丈夫だろう。
警察署に付き、受付で鷲尾刑事を待つ。ドカドカと足音を響かせながら近付いて来る。
「八神さん! あんたとんでもない事してくれたね! これを見ろよ!」
右手を俺に見せる、右手が包帯でグルグル巻きにしてある。
「大丈夫ですか?」
一応聞いてみる。
「そんなわけ無いだろう! もう頭痛と吐き気が止まらないんだよ! 右手は火傷したみたいに……」
「わかりました、わかりましたから。でもこれで少しは普通じゃ無いって理解できたでしょう?」
そう言って言葉を遮る。
「それはそうなんだがなぁ……夜が怖くって仕方が無いんだよ」
「そんな事より昨日の変態は?」
「ああこっちだ、事情が事情だから特別に許可が出てる」
鷲尾刑事は俺を取調室の前迄で案内する、中を確認すると、随分と痩せぎすな男が、ガタガタと震えている。年齢は俺より明らかに下だな、何かに怯えている様に見える。
「名前は横野誠一、年齢は28職業は学習塾の講師だ」
「ただ如何せん、取り調べても言ってる事がさっぱり分からんのだよ」
「大丈夫ですよ、これから更に訳わからない事になりますから」
「そこに飛び込む覚悟は有りますか?」
「おぉおう! 俺もこの街を守る刑事だ行ってやるよ!」
取調室に鷲尾刑事が先に入る。横野の前に座り、俺は書記官の椅子に座った。
取調べ開始!
「横野さんよ、あんた何であのアパートのドアノブに細工なんてしてたんだい?」
鷲尾刑事は、俺が部屋の主とは分からないように話を進めていく。
「そいつがこの街に……災いをもたらし……だから僕が懲らしめようと……」
「災いだぁ? もうちょっとマトモな事話せ!」
「刑事さん! この街はそいつのせいで呪われてしまうんです! 僕は正しい事をした! だから仕掛けたんです、悪に鉄槌を下すために! そいつは女の子を攫い陵辱の限りを尽くし生贄にしてるんです!」
酷い言われ様だなオイ
「何でそんな事が分かるんだよ! おい答えろ!」
「それは……言えない……言ったら僕が粛清されちゃう」
僕が?
「誰かの指示ってことか、おうどうなんだ! ハッキリ答えろ!」
「ちがっ………僕が……僕は…言えない! 恐ろしい……」
もう良いか、鷲尾刑事に合図を送り席を立ち横野の前に立つ。
「どうも住人です」
横野の目は泳いでいた、コイツ何か知ってるな?
「どうも、始めましてだよな?」
もう強気で行こう
「何で俺のアパートに呪いなんて掛けやがった?」
「違う……あれは…そう聖痕だ! お前をやっつける為に僕が自分で仕掛けたんだ!」
これが中二病か? まぁどうでも良い
「この手を見ろよ」
鷲尾刑事が手の包帯を解き見せる
「ヒィイ! そっそそれは」
横野は本気でビビってる
「それも何も、お前が仕掛けた聖痕? とやらで出来た傷だよ!」
「よく見ろよ! 普通の人間には、こんな傷付ける呪いなんか作れないんだよ」
「良いか? ちゃんと答えろよ、お前誰かに言われてやっただろ?」
そこまで追い込むと、横野の様子がおかしくなっていった。突然立ち上がり、頭が腕が身体が足が、怪しい方向を向いたりして蠢き始める。ヤバい直感がそう言ってる。様子を窺う
「キサマガヤガミ」
横野の声じゃない?
「キキキサヲユユユルサナイ」
身体の動きが止まる、そして次の瞬間飛びかかって来た! 一瞬の判断が遅れた
「ヤバっ!」
ドガッと音が聞こえる。目を開けると鷲尾刑事が机を持ち上げ盾にしていた。
「ぐっ何て馬鹿力だよおい八神! 見てないでお前も手伝え!」
「了解!」
確かにとんでもない力で押し込まれている、人間の力じゃない! くっそなんかないか? 横野はもうヒトでは無い何かなんだろう、力の無い俺じゃ…………待てよ? 確か胸元をさぐる、あった! いつも身に着けていたそれを取り出す
「鷲尾さん合図したら二人で全力で押し切りましょう!」
「その後は!?」
「まかせて!」
「よく分からんが任せる!」
「せーのっ!」
「「うおおおおおおおお!!!」」
二人で全力で壁際まで押し付ける、そして横野の額に、御守にしていた三角剣を突き刺した。その瞬間、横野は絶叫し暴れ始めた。どうやら効いているらしい
「鷲尾さんそのまま!!」
「おう!」
俺はそのまま突き立て続ける、三角剣の一面が弾け飛んだ。行けるか!? 押さえ続けること5分遂に横野が動かなくなった。
「終わったか?」
「いやとどめを刺す、こいつの頭押さえておいて」
首、喉仏の部分に三角剣を突き立てる。更に絶叫が響き渡り取調室には警官が詰め寄せて来た。
三角剣の一面が更に割れる、こんなに脆かったっけ? 取り敢えず三角剣を押し返そうとする力は無くなった。もう大丈夫だろ多分……もう立つなよと思いながら横野から離れた、横野は死んだ様に動かない
「鷲尾さんもう良いよ」
「おう」
鷲尾さんも起き上がる
「八神よ、お前こんな事をしたんか2ヶ月前も」
「あん時よりマシだよ」
「まじかよ……」
取り敢えず留置所に横野を運んで貰い、俺達はロビーにいた、鷲尾さんに横野の調書と履歴を見せてもらった。
「何か解るか?」
んーちょっと、いや気になる。俺は駄目もとで
「鷲尾さん、強力して欲しいことがあるんだけど良いかな?」
「何だよ?」
「ちょっとここで聞込みしたいんだよ」
横野の職歴にある、現在勤めている学習塾を指差した。
「お前! そこを疑うって事は本気で言ってんのか?」
「そう言ってるんだよ、駄目かな?」
「コイツは危険だ、ヒトを操る呪い何てのが俺に向いているうちはいいさ」
「だけどその後どうなると思う?」
「想像もつかねぇな」
「コイツは危険だ、自分でしている事がどんな事か正してやらないと行けない」
「それに犠牲者も出てしまった」
そう言いながら、鷲尾さんに横野の資料を返す。鷲尾さんは少し考えて。
「わかったよ一緒に行ってやるよ! ただし極秘にだぞ? あと無茶も無しだ! 良いな?」
「ありがとう鷲尾さん!」
俺は鷲尾さんと共に、とある学習塾の前にいた。
「いくぞ」
鷲尾さんが先に入る
「五泉警察署のものですが、少しお話良いですか」
塾長らしい人と話をしている。その間に
「ヤエもう戻って良い、さっきの事でお前に何か悪い影響があったかも知れない。ヒエに見てもらえ良いな」
スマホを取り出し、誰もいない空に向かって言った。
「おーい八神! 話できるぞボケっと突っ立て無いで早く来い!」
「あぁ悪い今行くよ」
塾長に挨拶をする、市役所の職員の名札が役に立った。勿論、市霊払いの部分は上手く隠して
「そう言う訳で市役所から参りました八神と申します」
「当塾の講師をしている横野についてですか?」
その辺の話は適当に鷲尾さんに任せた、あらかた聞き終えた後、鷲尾さんが本題を切り出した。
「ですので彼の生徒にも被害が及んでいないか確認のため、彼の担当生徒のリストを見せて頂けませんか」
「捜査のためですか……横野君、熱心に指導していたんですがねぇ」
「お願いします」
俺と鷲尾さん二人で頭を下げて頼んだ
「本当は、個人情報保護法が有るのでお見せできないのですが、この場だけで見るのであればお見せします」
鷲尾さんが俺を見る、俺は無言で頷く
「結構です見せて下さい」
「では、今お持ちします」
塾長は資料からリストを探していた。鷲尾さんが
「おいどうするんだ、持ち出せねぇぞ」
「何とかして注意を引き付けて5分でいい」
「お前なぁ!」
塾長がリストを持ってきた、それも顔写真付で! 横野の担当クラスは全部で8名、愛宕中学校の生徒がいないか確認する、よし鷲尾さんを肘で突っ込む
「横野のデスクは何処ですか? 一応捜査させて頂きたいのですが」
「えぇすぐそこのデスクです」
近っ!?大丈夫だ落ち着け冷静になるんだ。鷲尾さんを信じるんだ
「では調べさせて頂きます」
そう言って横野のデスクに向う、鷲尾さんは引き出しを開け締めしている。突然大声を出す
「これは何ですか塾長!! ちょっと見てください! 確認したいことが有ります」
迫真の演技だ! やや棒読みだが、慌てて塾長が向かって行く。今だ!
「いやよくあるんですよ、恋する乙女って言うんですかねぇ。それラブレターですよ」
「ラブレターですか、見ても良いですか?」
「まぁ良いでしょうどうぞ」
塾長が戻ってくる、もう良いだろう。だが鷲尾さんが戻って来ない
「鷲尾さん?」
「おうすまん!」
塾長がリストをしまうのを確認してから
「お時間いただきありがとうございました」
「いえいえこの事と横野君がここに勤めていた事は内密に」
「了解です! では失礼致します」
ふぅ~二人で大きな溜息をつく、収穫はあった
「おい! こっちも収穫合ったぜ」
「本気で!? 後で答え合わせしよう」
「取り敢えず今日は署に戻るか?」
「いや鷲尾さん行きたい所がある、ついでだ一緒に行こう」
「はぁ!? お前、俺達はタクシーじゃないんだぞ!」
「いや鷲尾さんも来た方が良い、呪いに触ったろ、汚れは綺麗に落とした方が良くない?」
「そりゃそうだがよ、何処だよ?」
「霊峰白山慈光寺だよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます