赤い光と歌声と
七瀬モカᕱ⑅ᕱ
【イベント中止のお知らせ】
【イベント中止のお知らせ】のタイトルで送られてきたメール。そのメールを見た瞬間、「あぁ、やっぱりか。」と声が出てしまった。
一週間前から台風が日本に近づいてきていて、イベントのある日は台風がこの街に接近するかしないかのギリギリの位置だった。
「はぁ〜〜っ、ユンくん会いたかったなぁ...。」
ゆっくりと部屋のベットから起き上がり、居間に向かった。
居間にあるテレビからはニュースがずっと流れている。ここ三日ほどは台風関連のニュースがほとんどだ。
『この台風の中心気圧は980ヘクトパスカルで──。』
せっかく楽しみにしていたのに、もう本当にやめて欲しい。
そんなことをモヤモヤ考えていると、居間の隣の食卓から祖父が話しかけてきた。
どうやら隣の家の人から無花果をたくさん貰ったらしい。
「置いといて。また食べる。」と声をかけるけれど、聞こえていないのか反応がなかった。
かといって、今はもう一度同じことを言う元気もないので声はかけないでおく。
私がユンくんを知ったのは今から五年前、当時母親が好きだったKPOPのアイドルグループにユンくんも所属していた。
はじめはそこまで興味はなかったけれどCDを聴いたりテレビでの特集を見ているうちに興味が湧き、母親に連れられて行ったライブで聴いた歌声や、かっこいいダンスを見て完全にユンくんに恋をしてしまった。
後々ユンくんについて調べていると、たくさんのかっこいいエピソードが出てきた。
『中学生時代にいじめられていた友人を助けていた。』とか、『後輩のアイドルの子達によくアドバイスをしている。』とか。
でも一番すごいと思ったエピソードは、グループがデビューしてすぐの頃過激ファンにボンド入のジュースを飲まされても、そのファンを許したこと。
でも私の周りには、母親を除いてユンくんのことを知っている友達はほとんどいなかった。
私はそれが、すごく悲しい。
ぼーっとテレビを見ているのも退屈してきたので、自室に戻って過ごすことにした。
『イベント中止になったわー萎える』
部屋でスマホを開いて、仲のいい友達にメッセージを送る。しばらくすると既読が付いた。
『やっぱり?まぁ台風じゃねぇ.....佳奈ちゃんの能面みたいな顔してたの想像できるわ笑』
「能面みたいってなによ....。」
友達が送ってきた文章に思わず吹き出してしまった。
『振り替えもあるかどうかわかんないしねぇ......とりあえずDVDでがまんするよ。でも萎えたのは確かだわ(◞‸◟ㆀ)』
その後もなんでもないやり取りをしながら、今度友達が家に遊びに来た時はユンくんの事をその子に布教してやろうかと考えた私だった。
また近いうちにあるライブの、会場中がペンライトの光で真っ赤に染まったあの景色を夢見ながら。
赤い光と歌声と 七瀬モカᕱ⑅ᕱ @CloveR072
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