第32話 衝撃の告白
今回少し不快な描写があります。
苦手な方はご注意ください。
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──その日の放課後。
俺は井口君の知人と会うため、道から少し外れた喫茶店で、翔太とみつは、レコと一緒に待機していた。
「──なんというか。渋い店だな」
コーヒーを一口啜った翔太が『にがっ』と舌を出す。
この味をわからないとはお子様なヤツめ。
「私はこういうお店、好きです。開放的なお店はおしゃれですけれど、ちょっと入りづらくて」
みつはがそう広くはない店内を見回し、感想を口にする。
「わかる。なんか落ち着くわよね。このティカップもすっごく可愛いし」
レコがカモミールティの入ったカップを繁々と見つめる。
「にしても、こんな雰囲気の店、映画やドラマでしか見たことないぜ。あんなデカい木彫りのお面なんてどこで売ってんだ?」
「流行りの騒がしい店よりいいだろ、翔太」
人の多いところは好きじゃない、と俺はマスターにお勧めされたコーヒーを口に含んだ。
「にが」
「おまえもかよ」
「コーヒー苦手なんだよ」
「おい。ならあのマスターとのカッコつけたやり取りはなんだったんだ?」
「やってみたかったんだよ。違いのわかる男を」
「おまえ……だヴぁだ──」
「春臣君。ここのロイヤルミルクティ、蜂蜜が利いているので甘くて美味しいですよ? よかったら少し飲んでみます?」
「え?」
十河さんの言葉に真っ先に驚いたのは、俺でも翔太でもなく、レコだった。
そりゃあ、今飲んでいるカップを俺に差し出すとなったら、俺はそのカップを受け取って飲まなければならなくなるわけで、でもそうすると俺とみつはは関節なんとやらになるわけで、それくらい女性経験に乏しい俺でもわかるわけで。
「ありがとうみつは。気持ちだけもらっておくよ」
くそ!
せっかくのチャンスが!
俺は後悔が顔に出ないよう必死に取り繕うと、シュガーポットから角砂糖を五つ、立て続けにカップに落した。
マスターが細い目をしているのには気づかないふりをした。
もう少し時間が過ぎれば会社帰りの社会人で席も埋まるのだろうが、三時を少し過ぎた今の時間帯は比較的空いていた。
学生はやはりもう少し華やかなコーヒーショップに行くのか、秀麗院の制服を着た生徒もここにはいない。
まあ、だからこそこの店を選んだのだが。
「そういやさ。今更だけど初等部からっていう生徒は意外と少ないんだな」
翔太が言っているのは、うちのクラスに初等部から通っている生徒が二人しかいない、ということだ。
帰り際に、うちのクラスに二人──男子と女子がそれぞれ一名ずつ──初等部からの生徒がいて、翔太からその二人を紹介されたのだ。
「だな。一般クラスには相当数いると思うけど。ま、小学校受験より中学受験で入った生徒の方が実力は上ってことじゃないの」
「経験の差ってやつか。でもその二人が二人とも『はるおみのこと憶えてない』って言ってたのも意外だったよな。もしかして小学校のときのはるおみって案外地味だった?」
実際、心の準備をする前に初等部卒の生徒と引き合わされたので多少慌てたが、なんということはなかった。
二人は俺のことを知らなかったのだ。俺もだけど。だから初対面として挨拶を済ませた。
「どうだろ。地味と言えば地味だったかもしれないな。女子とは一切話さなかったし、暗いやつだと思われてたかも。ただ、何人かの女子には酷い態度をとっちゃったから、その女子たちは憶えてるかもしれない」
いや、きっと憶えているだろう。
誰になにをしたかまでは思い出せないが、きっと暴言を吐いていたはずだ。
その人たちには早急に謝罪しないと。
「女子と言えば、あの噂どうなんだろうな」
翔太が話題を変える。
今度は井口君が言っていた、番条先輩に関する噂話だ。
「そういやあれから鷺沼はなにも言ってこなかったな」
ねちねちと因縁をつけられるかと一応身構えていたのだが、午後は静かなものだった。
放課後も、とっとと教室から出ていっていた。
「本当だとすれば、酷い話です。罰も受けないなんて……」
みつはが眉を寄せる。
そりゃそうだ。
そんな鬼畜行為が許されていいはずがない。
「あ、来たようです」
入り口の方を向いて座っていたレコが先に気づいた。
レコがすっと席を移動すると、みつはもそれに続く。
レコはまだ初対面の男子とうまく会話が出来ないので、今日は同席はしない。
少し離れた席で話が終わるのを待っていてもらうことにしてある。そしてみつははレコの付き合いだ。
井口君の姿を確認した俺は、手を上げて合図を送ると二人を迎えた。
◆
井口君が連れてきた男子は早川と名乗った。
秀麗院には中学から通っているらしく、今は普通科の一年生だそうだ。
なんともおっとりとした話し方をする男子で、顔つきも女子の制服を着させたらそのまま女子として通用してしまいそうなほどに可愛らしい。
「あの、あちらは……?」
早川君が訝しげな表情で訊ねてきた。
「ああ。俺たちと同じクラスの十河さんと沙月さん。ちょっと事情があって同席できないんだけど、知り合いだから安心して」
俺は詳しい事情は話さずにそう紹介した。
みつはとレコは、俺たちを直視しないようにしつつも、ちらちらとこちらの様子を窺っている。
ただでさえ目立つ容姿のうえに、秀麗院の制服姿で耳に手を添えて、あからさまに聞き耳を立てている女子二人。
「怪しい人じゃないから」
俺は念のためそう付け加えた。
「それで訊きたいことというのは、生徒会研究会のことでいいんだよね」
注文を終えた早川君が早速切り出してくれた。が、聞きなれない言葉に
「生徒会研究会?」
「なんだそれ?」
俺と翔太が訊き返した。
「僕が呼ばれたのはそのことについてだよね?」
早川君が井口君に確認する。
そうだという井口君に早川君は、
「生徒会研究会というのは番条が入っている部活のことだよ。高等部の二年生が中心になって活動している部活で、新一年生に生徒会に興味を持ってもらうようにという観点から立ち上げられた部活」
そう教えてくれた。
「ごめん。俺、その部活のこと知らなかったから。ということは、番条先輩が二人を誘おうとしている部活は、その生徒会研究会って部活なわけか」
俺がそう言うと
「先輩なんて呼ぶことないよ! 番条なんかに!」
早川君は突然大きな声を出した。
「は、早川君? どうした?」
「す、すみません、つい……」
翔太が驚いた顔をすると、早川君は慌てて頭を下げる。
番条なんか──そういえばさっきも『番条』と呼び捨てにしていたような。
早川君、番条先輩となにかあったのだろうか。
「二人っていうのは、ええと十河さんと沙月さんっていったけ。あそこにいる二人のこと?」
二度ほど深呼吸をして冷静さを取り戻した早川君が、少し離れた席に座る二人を見て訊ねてきた。
俺が頷くと、早川君は納得した顔をする。
「そうだったんだ。それでここに……逢坂君。あの二人に『絶対番条の誘いに乗ったらダメだ』って警告しておいてねっ!」
「お、おう」
尋常じゃないくらいに険しい顔をする早川君に、俺は思わず返事をした。
きっと二人も聞いているだろう。
「で、さっきから番条せん……番条とか生徒会研究会とか異様なくらい嫌ってるみたいだけど、いったいなにを知っているんだ?」
敢えて番条と呼び捨てにした翔太に早川君は
「信じてもらえるかは……でもあの二人に被害者になってもらいたくないから」
そう前置きをしつつ、
◆
「──んっだっそりゃ! 完全に犯罪じゃねえかよ!」
話を聞き終えた翔太は、今までにないくらいに怒りを露わにした。
「クソふざけた奴らだ……」
かく言う俺も腹の底から怒りが込み上げている
井口君からざっと聞いてはいたが──胸糞が悪くなるとはまさにこのことだろう。
早川君の説明では──
生徒会研究会とは、表向きには生徒会がどういう活動を行っているかを新一年生に知ってもらい、生徒会活動に積極的に参加してもらえる人材を育成する部活なのだという。
それ自体はとても有意義な部活だと言える。それだけであれば。
だがしかし。
その裏では──二年生が新一年生の中から見繕った綺麗な女子生徒を強引に勧誘し、研究会と称して様々な場所でパーティーを催しては、その場で数の力で肉体関係を強要し、そして好き勝手に弄ぶ、などというなんとも馬鹿げた、到底部活などとは呼べないしろものだった。
被害に遭った女子は少なくないという。
だが多くの被害者は乱暴されたことを明るみに出したがらないそうだ。
被害者が訴えることに消極的な理由は、映像や画像が残されていて脅されているからだという。
警察や先生に相談する生徒も当然いたが、なぜか時間ばかりかかって遅々として捜査が進まず、そのうちに何らかの力によって訴え自体が揉み消されてしまい、結局有耶無耶になってしまって泣き寝入りする選択肢しか残されていない──などということもあるらしい。
「早川君。その話は全部本当なのかな」
俺がそう確認したのは、実際にそんな奴が存在してほしくないという願いからだ。
酷く気分の悪くなる話のほとんどが作り話であってほしい、と思いたいからだ。
だが、早川君は真剣な表情で
「──嘘なわけがない。なぜならあいつらに乱暴されたうえに妊娠させられて、その挙句学校まで退学させられたのは……僕の実の姉だからだ」
衝撃的な発言をしたのだった。
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