6、消滅

 「 …クローン!?」俺は、驚きの声を上げた。


 「左様さようでございます。 諜報の鉄則は、ちりひとつ残さず敵のデータを根刮ねこそぎ奪取すること。 襲撃などしたら軍法会議ものです」と通信参謀。


 続けてユイが…「クローンの良いところは、単一細胞のみでの培養が可能な事だ。 これだけの枚数データ、複写ではかなりの質量になるが、クローンなら、虫でも運び出せるからな」と付け加えた。

 


 …なるほどね〜。…それにしても、あれだけの枚数、全ての短冊のクローンを造るとは! しかも、『紙のクローン』って…。


 「さあ、検索せい」


 …え? 目で探すの?


 「当たり前だ。 あたし達をかぶるな」


 …はい。すんません。


 通信参謀が「総司令閣下、本来クローンは有機物から作りますが、今回は無機物…。あまり長い時間は細胞結合を維持できませぬ。 …お早めに…」と言い残して消えた。



 衛鬼兵団えいきへいだん会議室に、手の空いている兵士達が集められた。


 正面の大型モニターには『鷹音 野華』と『ようおん ひろか』 という文字が表示されている。


 「司令官は、貴様だ。 指揮してみよ」…ユイに促され、初めての号令をかける事になった。


 「コホン、 え〜、み、な、の足元にぃ〜」しまった! 『な』の時、声が裏返っちゃった。 「足元にある『短冊』に、この文字があったら、すぐに報告せよ!」 


 「なお、その『タンザク』は、時間が経つと消滅する。総員、迅速に検索せよ」とユイがつけ加えてくれた。


 衛鬼兵えいきへいたちが、モニターと短冊を懸命に見較べている。 俺たちも、必死に探すが、時間だけが過ぎてゆく…。


 「閣下ぁ!」兵士の一人が立ち上がった!


 あったか!!


 …見ると、『野華ひろかさんみたいに、綺麗になれますように』 と書かれていた。 残念! ニアピン賞!



 「おい、兄! これは如何いかに!」


 あったか!


 間違いない! 鷹音ようおんさんの署名だ!


 ユイ! でかした!


 …願いを目にした刹那、手の中で短冊が消滅した。他の短冊も、全て消え去った。


 …俺はその場に立ち尽くし、一筋の涙をこぼした…。


 ユイが肩を落として近づき「すまん…。間に合わなかったか…。」


 俺は、首を振り、今でも目に残っている文字を口にした…。


『すてきな かれしができますように ようおん ひろか』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る