第6話 ムサカとコルシカ
「ムサカ、コルシカ、いったい何があったのだ?」
森の中に張られたテントの中で壮年の男が目の前に立つ二人の青年へ尋ねた。
「キャプテン、俺たち気を失ったこの女を拾ったんだ。こいつ、アヘ顔ダブルピースキメながら地面に直立不動で半分埋まって回転してたんだよ」
「いやそこまで異常じゃなかったろうムサカ、お前は事実を言っているように見せかけてナチュラルに嘘を混ぜる癖がある。いい加減に直せよな」
「コルシカは真面目すぎるんだよ」
「ああ、わかったから二人とも少し黙れ。そうか、砂浜にこの外国人の女が……それに妙にマグロ臭い。ちなみにアヘ顔ダブルピースはどんな感じだったのだ? ムサカ」
「それは……」
「それはじゃわからん、ちゃんと再現してくれんと」
「こ、こんな感じで……」
「ううんよう見えんぞムサカ、もう少し正確に再現してくれんと」
「……キャプテン。俺、キャプテンの闇がたまに怖い」
「冗談だ。この娘を医務室へ運んでおやり」
意識を失ったままの娘を二人が連れていくのを見送ってから、キャプテンと呼ばれた男は静かにつぶやいた。
「ハートキャッチプリキュア」
そしてキャプテンは真顔のままこう言った。
「あの娘、素人ではないな。さてはハワイ沖で敗れたという日米海軍の生き残り……役に立つのならば、しばらく生かしてやってもよいか」
「ここは……」
再び目を覚ました私が身体を起こすと、二人の青年がこちらを興味深げに眺めていた。
「お、起きたな。俺はムサカ、こいつはコルシカ」
「ムサカ……ネオ・ジオン軍のムサカ級軽巡洋艦の系譜をいったいどこから」
「ムサカ、こいつ何を言ってるんだ?」
「マグロにやられたんだろ。キャプテンから貰った薬を……あった、ほら、これを飲んで」
私は朦朧とする意識の中、ムサカという青年の手から口に薬をふくまされた。
とてつもない臭気がする薬。この臭い……なんだろう、エビチリのエビの部分だけを取り除いて乳酸菌に漬け込んだかのような……あるいはカラムーチョのムーチョ部分に制御がきいていないかのような……。
……あ、でも少しだけ気分が良くなってきた。そうか、マグロ酔いの薬を飲まされたのね。
「……ありがとう」
「ちゃんと治すには家に帰らなきゃだめだ。薬じゃ症状を和らげるだけ、結局いつかはそれも効かなくなる」
「充分よ。日本へ帰らなきゃ……ここはどこ? ハワイの近く?」
「ここか? ここは奈良県だ」
「えっ……」
てっきり南国のどこかだと思っていのだけど、奈良県だった。
私は和歌山生まれなので、なんというか、わりと地元近くだ。でも奈良県はそういうのもありかもしれない。
「俺は六坂達郎、こいつは留学生のコルシカ・パパディモンだ」
「ドウモ ハジメ マシテ」
さっきまで普通に日本語を話していたような気がするけれど、ああ、でも、奈良県なら……。
「ところでキャプテンって?」
私がそう言った時、二人の雰囲気が変わったように思えた。
「ムサカ コイツ ヤパリキケン デハ?」
「ああ少し黙ってろコルシカ。なあ姉さん、あんたマグロハンターなんだろ?」
「……どうしてそう思うの」
「そのマグロ臭、隠しきれるもんじゃないぜ」
「……そう」
「だからあんたに頼みがある」
「頼み?」
「ああ、狩ってほしい奴がいる」
そう言う六坂の顔は、頼み事をする者の顔には到底見えず、どこか狂気をはらんでいるかのように見えた。
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