15,リーゼ・ドーソン
「初めまして、シャノンくん」
女騎士はおれの前で少し前屈みになり、手を差し出してきた。
「わたしはリーゼ・ドーソンと言います。今回はテディ様の付き添いということで一緒に来させてもらいました。よろしくお願いします」
「……あ、はい。どうも、よろしくお願いします」
手を握り返すと、リーゼはにこりと笑った。
それはもう可憐で美しい笑みだった。本当に花が
「……」
「ん? シャノンくん、どうかしましたか?」
「え!? あ、いえ!? な、何でもないですよ、何でも! あはは!」
慌てて手を離した。
……や、やべえ。
美人過ぎてどう接していいのか分からねえ……!!
「これはテディ様! ようこそおいでくださいました!」
家の中から慌てた様子でダリルが出てきた。
ダリルは特に片膝を突いたりはせず、普通にテディと握手を交わした。
以前もこんな感じだったから、テディが大貴族だなんて思わなかったんだよな。
どうやらこの二人はよほど親交が深かったようだ。
「手紙で先日のドラゴン退治でお怪我をなされたと聞いておりましたが……もう怪我の方は良いのですか?」
「ああ、あれくらいなら何ともない。もう完治したわい!! がはは!!」
「嘘言わないでください」
リーゼがテディの脇腹を突っついた。
「NOOOOOOOOOOOO!!!!」
テディが絶叫した。
リーゼは溜め息を吐いた。
「ほら、まだ全然治ってないじゃないですか……」
「ぐぬう……リーゼ、貴様少しは我が輩の身体を労らぬか!?」
「労っているからこうして同行してるんですよ。介護要員としてね」
「まだそこまで落ちぶれておらんわ!!」
「リーゼ……? お前、もしかしてリーゼか!?」
ダリルが驚いたようにリーゼの名を呼んだ。
リーゼは居住まいを正すと、何とダリルに向かって片膝を突いた。
「お久しぶりです、ダリル様。リーゼです」
「おお、大きくなったな! 最後に会ったときは今のシャノンよりも小さかったが……というか膝なんて突かないでくれ。今はおれの方が家格が低いんだぞ?」
「家格など関係ありません。我がドーソン家は、ダリル様のご両親にはとてもお世話になったのですから。家格が変わっても我々のケネット家への敬意は変わりません」
「はは……そういう真面目なところは変わってないな」
ダリルは困ったように笑っていた。
どうやらダリルとこのリーゼって女騎士は旧知みたいだな……?
……ん?
待てよ?
そういえばさっきリーゼ・〝ドーソン〟って言ったか?
「あ、あの、リーゼさん」
「ん? どうかしましたか、シャノンくん?」
リーゼは片膝を突いたまま、おれに顔を向けた。
「あ、いえ……その、リーゼさんの家の名前はドーソンというんですか?」
「ええ、そうですよ」
「もしかしてリーゼさんも大貴族なんでしょうか?」
「いえ、わたしは違いますよ。わたしは小貴族です」
「え? そうなんですか?」
「はい。なので、かつてケネット家が中貴族だった時に、我がドーソン家は色々とお世話になったのです」
「な、なるほど……」
……そうか。大貴族じゃないのか。
〝ドーソン〟という家名には前世で知り合いがいる。
知り合いというか、かつておれが野良騎士だった時代に所属していた騎士団の総長だ。
そりゃもうお世話になった人だ。剣術だってその人に教えて貰ったし、騎士としての何たるかや戦闘に関する知識も全て教えて貰った。
結局、おれは騎士としてはあまり役に立たなかったが……それでも、平民出身のおれたちに差別しないで対等に接してくれた人だ。みんなからは〝おやっさん〟と呼ばれていた。とても大貴族とは思えない愛称だが、それくらい周りから慕われていたということだ。
その人の名前はウォーレン・ドーソンと言ったが……でも、あの人は大貴族だったからな。それにこのスクラヴィア王国は地理的に西側寄りだ。東側諸国の貴族だったドーソン家がこんなところにいるわけないと思うが……分家か何かだろうか?
「さあ、とにかく家に上がってくれ、リーゼ」
「はっ。それではお言葉に甘えて」
リーゼは立ち上がり、家の中へ入っていった。
ダリルはテディに改めて振り返った。
「テディ様もお疲れでしょう。汚いところですがゆっくりくつろいでいってください。今回は何日か泊まっていかれるのでしょう?」
「うむ。今回は日程に余裕があるからな。三日ほどは泊まらせてもらおうと思っている」
「分かりました。お好きなだけゆっくりしていってください」
「まぁ本当なら一週間くらいは滞在したいのだがな。だがさすがに三日が限界だわい。いちおう、これも仕事で来ておるからな」
「仕事ですか? でもドラゴン退治は終わったのでは?」
ドラゴンの名前が出た途端、おれはドキリとした。
テディに直接姿は見られていないから大丈夫だとは思うが……声は少し聞かれてしまっているからな。
それに時間がなかったから自作
でもまぁ大丈夫だろう。
常識的に考えて、あれを9歳の子供がやったことだとは思わないはずだ。それに現地に残した痕跡がおれに結びつくことはない。テディたちに分かるのは、ただ何者かがそこにいたということだけだ。
もちろん、おれに繋がるような証拠は一つも残していない。
魔力紋の痕跡も消しているから大丈夫だ。
「まぁ色々とあってな。詳細については〝陛下〟から機密にされてしまってな。すまぬが今回は何も話せんのだ」
「機密ですか? いえ、それなら仕方ありません。むしろ野暮なことを聞いてしまって申し訳ありません。さ、とりあえずどうぞ上がってください。仕事のことはいったん忘れましょう。酒も用意しておりますので」
「うむ、そうだな! いまは仕事のことなど忘れよう!」
テディはのしのし歩いて家の中に入っていった。
「……」
……いま〝陛下〟って言ったか?
それってどう考えても王様のことだよな……?
もしかして……現場に残した残骸のことも含めて、全部この国の王様の耳に入ってるのか……?
……ふむ。
おれはあれこれ考えたが……すぐに考えるのをやめた。
なあに、心配せずともおれは素知らぬ顔をしておけばいい。バレないバレない。なんせおれは9歳の子供なのだし、証拠は無いのだから疑われる余地がない。
おれもみんなに続いて家に入った。
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