スカウト
注)
『最後の食事』
https://kakuyomu.jp/works/16816410413889680417
の続編です。
◇◇◇◇
場末のバー。
俺は飲んでも酔うことの無いウィスキーのグラスを持ってカウンターの隅っこにいる。
薄汚れたデニムのジャケットとGパン。
首には赤いバンダナ。
いつもの格好であるが、もう還暦近くの年齢には似つかわしくない。
そもそも、とてつもなく時代遅れなのは分かっている。
今夜、俺はこの店で待ち合わせをしている。
やがて、時間通りに扉を開けて入って来たのは・・・明らかにホームレスの風体の老人。
実際ホームレスなのだ。
「よう。久しぶりだな」
「おう、元気だったか?」
「なんとかな」
相手は、ある意味では気心の知れた相手。
昔、俺は正義のヒーローをやっていた。
そして、こいつは・・・悪の秘密結社の首領だった。
「相変わらず、あんたは日雇いの生活なのかい?」
「おまえも、ホームレスじゃないか」
「ちがいねえ・・・・あ、俺にもウイスキーをくれ!」
「いいよな・・・飲んで酔える奴は・・・」
「また改造してやろうか?」
「遠慮する」
ウイスキーを飲んで、元悪の首領はふう・・・と吐息をつく。
「なんで、こんなことになっちまったんだろうな・・・」
「負けたからじゃないのか?」
「それだったら、あんたはどうなんだよ。世界を救ったのにその日暮らしで」
「そうなんだよな・・・学校にも行かず、就職活動もしてこなかったけどな・・・」
二人して、遠い目をして過去を懐かしむ。
「あの頃は、よかったよな・・・キラキラして、情熱に燃えていた・・」
「そうだな・・・」
もう一口、ウイスキーを飲んで聞いてきた。
「ところで、今日呼び出した目的は何だ?今更、復讐しようってのか?」
「いや、スカウトしようと思ってな」
「スカウト?」
元悪の首領は、不思議そうにのぞき込んでくる。
「やっぱり、俺らがこんな社会の底辺でもがいているのって間違っていると思うんだ」
「ほう」
「そう・・・この世界・・絶対に間違っている」
「なるほどな、だがどうしようってんだよ」
いぶかしがる相手に、元正義の味方は話す。
「こんな世の中変えなきゃいけない」
こぶしをギリリと握りしめながら、真剣なまなざしで見つめながら言う。
「俺は世界征服しようと思うんだ。力を貸してくれ」
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