一方その頃─② 魔女子さんとリリパットちゃん。

 一方その頃。


 この世界で最弱と呼ばれる森では今日もいつもと変わらぬ日常が流れています。今日のお仕事を終え大きな木を探し森の中をうろついていたしろうさぎさんの元へ一人の小さな訪問者は駆け足でやって来ます。


「あっ!! 見つけたぁ、ぬーしーー!!」

「あ、魔女子さ……って、え? ちょ、ちょちょ、ちょっと、待っ……!?」

「ターーーーッチ!!」


 ──バッチーーン!!


「あわわわわっ!!」


 しろうさぎさんは勢いよく駆けて来た魔女子さんに吹き飛ばされるかたちでそのまま後ろへコロコロと三回転するとうつ伏せになって止まります。


「あ、ぬし、ごめんなさい、うまく止まれなかった」


 しろうさぎさんはその場でムクリと起き上がると答えます。


「い、いえ、私は大丈夫ですけど。魔女子さん、そんな駆け足で一体どうしたんですか……?」

「えへへ、うん。それはねぇ……あ、やっと来た。おーーい、こっちこっちーー!!」


 魔女子さんが手を振る先、しろうさぎさんの視界に入って来たのは先日のスライムさんと同じ綺麗な落ち葉マントにその身を包んだリリパットちゃん。その体はいつもの二倍くらいに膨れ上がっていて彼女は軽い地響きを鳴らしながらこちらへと向かってやって来ます。


 ──ドスン。ドスン。ドスン……


「……ぬしぃ、そこから絶対、動かないでぇえ……」


 悲痛にも似た叫び声を上げながら自身の手の届く距離まで辿り着くとリリパットちゃんは最後の力を振り絞ってその手を伸ばします。


「タ、ターーッチ……」


 ──パシ。……パタン。


 そうして目の前で力尽きて倒れ込むリリパットちゃん。しろうさぎさんがその状況に困惑していると魔女子さんがそれについて説明をしてくれました。その話によると彼女達は今一緒に特訓をしているとのことなのでした。


「……特訓?」

「うん。特訓。どっちが先にぬしにタッチ出来るか競争」

「あ、なるほどぉ。それで、私のところに。それは魔女子さんもリリパットちゃんもお疲れ様です」

「お疲れ様です!!」

「お&¥#*%です」


 満身創痍でへばるリリパットちゃんを見てしろうさぎさんは言います。


「それにしても凄い疲れよう……もしかしてリリパットちゃんの体がいつもより大きいのに何か理由が……?」

「さすがぬし!! それはですねぇ、えぇと……はい。これです!!」


 ──バッ!!


 魔女子さんが落ち葉マントを勢いよく剥がすとそこには全身をゴム紐でぐるぐる巻きにされたリリパットちゃんの姿。


「え、ぇ、ええぇええ!?」

「えへへぇ、ぬし驚いた? これは私とピクシーちゃんで考えたリリパットちゃんの為の特製スタミナ増強器具です」

「と、特性スタミナ増強、って……ただゴム紐でぐるぐる巻きにしてるだけに見えるのに!?」

「いえいえ、これはこの前大カラスさんにお願いして持って来て貰った特注品なのです」

「……それはリリパットちゃん動けない筈ですよ……」

「ふふふふふ……」


 そこで何故か突然不敵な笑みを浮かべる魔女子さん。


「へ? 魔女子……さん?」

「ふふーん。ぬし、でも私は魔女だから? リリパットちゃんをもっと強くする事が出来るのです」

「も、もっと、強く……?」

「はい。リリパットちゃんは凄いんです。見ててね、ぬし


 そう言うと魔女子さんはその手に木の杖を握り構えます。


「うーーん……落ちてぇ、雷りぃーーーー!!」


 ──キラキラ、どっかーーーん!!


「ひぃやぁあああ!!」


 そうして魔女子さんが雷の魔法を唱えると、背中の矢に向かって落ちて来る雷を必死に起き上がり避けるリリパットちゃん。その魔法は次から次へと彼女に襲いかかります。


「それーー、それーー、それーーっ!!」


 ──どかーーん、どかーーん、どかーーん……


「い、いいぃやぁあああ!!」

「ね、ぬし、凄いでしょ? きゃはは」


「え、ぇ、え、えぇえええ!! 魔女子さん、それ、スパルタッ!!」


 調停者アナスタシアとくろうさぎさんのクロエがこの世界の『違和感』を探している頃。

 この森では元気いっぱいの魔女子さんの笑い声が響き渡り。

 その目の前では全身をゴム紐でぐるぐる巻きにされながらも必死に雷をかわすリリパットちゃんの姿があったのでした──

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