【第四.八話】 幕間劇①・御伽噺─赤い風車。
──これは遠い遠い、いつかの昔の話。
この世界にある伝承や言い伝えの一つに属する御伽噺。
それは一人の少女と一匹の妖精が主人公の愛と悲劇の物語。
二人が辿った真実と現実の果てに見たのは、ただ風に揺れる一本の赤い風車でした。
※※※※※※
昔あるところに『迷いの森』と呼ばれていた森がありました。
その森には多くのモンスターが生息しており人々は滅多な事では近づく事はありませんでした。
ですが、そんなある日。
それは雨のよく降る日でした。
この森の入り口に一人の人間の赤ん坊が捨てられていました……
「……人間の、赤ん坊?」
そんな中、捨てられた赤ん坊を最初に見つけたのはこの森に住む一匹の森の妖精です。
赤ん坊は木のカゴに白いシーツに包まれた状態でそこに置かれていました。
そしてそんな赤ん坊の傍らには雨に濡れてふやけてしまった一枚の手紙と一本の赤い風車。
「……そっか。お前もここに捨てられたんだね」
──この森の名前は通称迷いの森。
人間が一人道に迷うこともあれば、今日のように人間が捨てられる事も珍しい事ではありません。そんな時、いつも小さな子供を捨てる時に添えられてあったのが風車です。その意味を森の妖精は知る由もありませんでしたが、彼女は『またいつもの事か』と思うと一言だけ残しその場を飛び去ります。
「……次に生まれてくる時は幸せになってね……」
そんな彼女でしたが……
少し進んだ先で動きを止めると再び赤ん坊の元へと戻って行きます。
そう。大雨が降っていたにも関わらずその赤ん坊が泣き声一つ上げていなかった事を不思議に思ったからです。何故そんな風に思ったのか、その理由は妖精自身にもわかりません。普段なら人間の赤ん坊を気にかけるなんて事は決してないモンスターである彼女でしたがこの日は不思議とそう思ったのでした。
「……こんな雨の日に、それでも泣き声一つ上げないのね……」
そうして覗き込んだ彼女の目に飛び込んで来たのはニコニコと笑顔を浮かべる顔。
淡く光輝く自分を物珍しそうに見つめる赤ん坊の顔でした。
「ふふ……こんな時だっていうのに笑ってる……何も知らないんだもんね。自分が今どういう状況で、どんなに恐ろしくて、悲しくて、絶望的な状況なのかって、キミはわからないんだもんね……」
それから妖精は暫くその場で考え込むと呟きます。
「……大丈夫よ……私が何とかしてあげるから」
その時妖精が何を考え何を思ったのか、それはわかりません。
ですが彼女は確かにそう言葉にすると赤ん坊の目の前でくるりと弧を描き空を舞って見せたのでした。
そんな彼女を追ってキラキラと輝く光の粒。
その光の一つ一つがまるで赤ん坊にとっての『希望』の光のようで。
白いシーツからその小さな小さな手を伸ばすと、大雨の降り注ぐこの森に声は響き渡ったのでした。
──キャッ、キャッ、キャッ、キャッ。
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