アクターズ・ハイ

キョン子

幕前

プロローグ

 車窓に映る自分の姿を見て、何度目かになるため息を吐いた。


 袖を通して二日目。新品ピカピカの詰襟は、やっぱりどこからどう見ても僕には似合ってはいない。

 せめて金ボタンタイプのものなら良かった。あれなら第二ボタンくらいまで開ければそれなりに着こなしているように見えるのだが、この学ランはなにを重視したのか喉元に食い込むホック式。ただでさえ喉元が窮屈な上、着用者の首の短さまで露わにしてしまうという恐ろしい形状だった。


 不満ならまだある。

 まず学校指定の鞄がださい(肩掛けの白い帆布製だ)。

 指定の靴下もださい(どんなに頑張って伸ばしてもふくらはぎまで届かない短め白ソックスだ)。

 分厚い生徒手帳の校則の第一条によれば、パーマ・染髪・長髪・ピアス・香水・パーカー・ミサンガ……要するに、お洒落に関係するものはオール不可。

 つまり『学生は学生らしく』、節度を『必要以上に』守った規範的な制服を着なければならないことが強く義務づけられている。


 誰が見ている訳でもないことは分かっている。自意識過剰だということも十分自覚している。

 けれど、それでも。


 ――記念すべき高校デビューがコレなんて、あんまりじゃないでしょうか、神様。

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