陰の超能力者!~未来が予知できれば女性にもモテるよな!?~

楯石イージス

第1話 ”爆誕!超能力者田中の巻”

 どうも、正真正銘の超能力者、高校一年生の田中良だ。身長が低く、目元は前髪で隠れている陰キャフェイスだが、別に陰キャではない。どちらかと言えば陽キャだ。パーリーピーポーだ。


 そんな僕は、朝目が覚めると未来を予知できるようになっていた。


 と言うのも、何故超能力者になったのか、その経緯が不明だ。いつもと変わらない日常を過ごし、見慣れたベッドで起床したらこんな状態になっていた。俺を無自覚系超能力者と呼んでくれ。


 この能力、何時も数秒先の未来をただ映像として見せてくるだけで、自分のタイミングで発動できない。つまり、この能力を悪用して一儲けするという選択肢も取れないわけだ。とんだ欠陥能力である。要らない時に未来予知することも多々見受けられるので、神様がお与え下さったのならば今すぐに返還したい。


 未来予知の必要がない状況と言えば、今がそうだ。


「あれ……どこやったっけ」


 あの道端にいる40を超えたくらいに見えるサラリーマンのおっさん、鞄を弄って何かを探しているようだが、最も気にしなくてはいけないのはもっと上の方だ。


「うぉッ……!?」


 数秒後、強い風が吹くと今までふさふさだった髪の毛が後頭部へずり下がり、額が日光で照らされキラリと輝いた。おはようございます、太陽様。今日は少し遅れた御起床ですね。


 まぁ、こんな風におっさんがはげ散らかす光景を未来予知したわけだが、こんなもの誰も見たくないだろ。何故見せたんだ。見せるならせめて女の子のパンチラとかにしてくれ。


「お」


 次は僕にとって都合のいい未来が見えたぞ。なんと、3秒後に現在位置へボールが飛んでくる。この軌道が完全に俺の顔面位置と合致しているときた。これは回避させてもらおうか。


 僕は一歩後ろに下がり、軌道上から外れるよう体を動かす。最小限の動作で攻撃を躱す、これぞプロの所業よのう。恐れ多いぞお前ら、我こそが超能力者だ。


 結果、飛んできたボールは僕の股下を抜けて全くの無害で終わる。


「ヘブシッ!?」


 しかしボールは勢いが良かったのか地面と壁で二回バウンドして、僕の後頭部に激突する。た、たんこぶできた。


「さ、最悪だ……」


 未来予知の効果は、おっさんの脂ぎった頭皮の目視にボールの後頭部直撃だ。


 ここ数日、未来予知を体験してみて分かった事実がある。


 この流れを見ればお気づきの方も多いだろう。


 つまり、未来予知は役に立たない。









 今日も憂鬱な学校生活が繰り広げられていた。何故こんな場所に来なければならないのか。勉強であれば家でもできるし、運動をするなら外出すればいい。愛する両親からの命令で渋々通ってはいるが、できることなら今すぐに退学したい。


(……母の唐揚げは何時も旨いぜ)


 今は昼食時で、各々が好きな友人と集まり食事を共にしている。高校に入学してまだ数日しか経過していないが、既にグループは固まっている様子だ。


 僕? 僕は独りが気楽だから団体には自ら入っていかなかった。別にコミュ障ではないぞ。話しかけられたけど、敢えて会話に混ざらなかったんだ。其処を勘違いしてほしくない。


 そんなことを心の中で考えていると、一人の男子生徒が話しかけてきた。


「君、一人? よかったら俺達と一緒に食べない?」


 入学して間も無くだと言うのに、髪をあっちへこっちへ遊ばせているこの男は明らかにチャラ男だろう。チャラ男が来た方角を盗み見ると、クラスでも見た目偏差値の高い連中が集っているのが見て取れた。其処に全く釣り合っていない僕を誘うということは、確実に虐めの対象として見ているということだ。ここはガツンと断って威厳を見せるに限るな。なんたって僕は陽キャなのだから。


「い、ぃぃいいぃぇ……け、けけ、けっこぅれすぅ……」

「……そう? 何時でも来ていいからね」


 それだけ言うと、チャラ男は所属グループに帰って行った。


 勝ったな。


 やはり、意見はガツンと一言に限るぜよ!









 この学校に入学してきた1年生には、上級生の中でも話題に上がるほどの美少女が二人ほど存在している。その二人のあまりに対極な性格から、“太陽”と“月”なる呼称で噂され、男子の中ではどちらに肩入れするかで意見が衝突していた。


「アハハ! それでさー」


 彼女が“太陽”であるギャルの原恭子だ。件のチャラ男くんグループに所属しており、クラスの覇権を握っている人物の一人だな。普通にイケイケな感じで近寄りがたいが、隅っこにいる僕にすら偶に話しかけてくる気さくな女性だ。これは完全に僕が好きですね!


「……」


 窓際でブックカバーのかかった本を開いているのが“月”の黒髪清楚、南静香。僕と同じく固定グループには入っていないが、その容姿から他グループからの誘いが多く、同じくクラスの覇権を握っている一人である。読書は僕も好きなので、これは完全に僕のことが好きですね!


 と、冗談はさておき。クラスに1学年の美少女二人が揃っているという事実から、クラスは相応に騒がしくなるわけで。


 休み時間に入り、お手洗いに行こうと少し席を外していただけで僕の椅子は何処かに連行されてしまっていた。カムバック、僕の椅子!!


 恐らく、ギャーギャー動物園の様にうるさいチャラ男グループのところだろう。あそこだけ異様に椅子の数が多いしな。いや、自分の椅子を持っていけよ。何故僕のなんだ。僕のマイケルを返してくれ。


 こういう時こそ、ガツンと一言、物申して返還してもらおう!


「ぁ、ぁの」

「いや、まじそれー!?」

「ぁ……」

「っべーわそれ、っべーわ!」

「……」


 もう一回尿意を催したからお手洗い行ってこようっと!

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