〘非公開・蛍〙7月23日 煌くんと初めて喋った時の事

ー”蛍”か、と訊かれたら、はい、と答えよう。


 そう決めたんだけど、コンサートが終わって、コウんが私の方へ向かって来るのを見たら、逃げ出したいくらい緊張しました。


 いよいよ煌くんが目の前に来て、距離約1mで顔を合わせたら、少しの沈黙にも耐えられなくて、自分からどんどん話しちゃった。

 絶対、変な女って思ったよね。ごめん。


 。。病気の事は、最初に言おうって、決めてました。


 ほら、ペットは先に死ぬから飼わない、みたいに、すぐ死ぬ私には深入りしない、みたいな。

 そんな選択も、有りだと思ったから。


 突然、親しい人が永遠にいなくなる事を伝えられる。

 そんな絶望、ちょっとキツすぎるの、分かってるから。

 最初に言わないと、って思いました。


 そんな感じで、あの時私、実は人知れずなんだか凄いテンションだったんです。


 だから、病気の事を言って、緊張の糸がほどけてから、やっと私、初対面の煌くんに、自分勝手に、自分の事情を投げ付けてるなって事に気付いて。

 なんだか私、手当たり次第、物を投げ付けるゴリラみたい、なんて思って。

 ゴリラ化した私と、私の攻撃に耐える煌くんを想像してしまったら、笑いが止まらなくなって。


 申し訳ないな、と思いながら、煌くんに、「え」と「あ」しか言ってないねって言ったら、煌くん、本当に私の病気の事、ちゃんと聞いてた?って疑ってしまうくらい普通に、よろしくお願いします、って言ったの。


 煌くんのそういう、ちょっとやそっとでは動じない所に、私、何度も救われました。


 でも、ちょっと言わせてもらうと煌くん、少しにぶ過ぎるんじゃないかな。

 握手した手を握ったまま、どうして日記にコメントを書いてくれたの、なんて質問するから、私、思い切って、話をしてみたかったって言ったのに。

 文芸部の皆で話をしてみたかったって言ってるのと勘違いして、文芸部の皆と会うお話、どんどん進めちゃうし。


 もし私が死んで、天使になったら。

 煌くんがにぶ過ぎて、煌くんの事、いいなと思ってくれる素敵な女の子とすれ違ったりしないように、しっかりサポートしてあげようと思います。


 だから、素敵な彼女が出来たら、私の尽力じんりょく賜物たまものだと思って、感謝してね。


 ーなんて、私、何もせずに裏口入学の成功報酬をせしめる人みたいだけど。


 もし私の祈りが何かの力になるなら。

 きっと煌くんは世界一幸せになれるってくらい、私、煌くんの幸せを願ってます。


 煌くんの勘違いにも、文芸部の皆にも、とっても感謝しています。

 本当に、ありがとう。

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