第10話 事件!そして俺の存在意義


1月。教室の席には所々に穴が開いており、もう授業もなく自習をする者やトランプをする者といった風に、皆自由に過ごしている。


 ちなみに担任は寝ている。


 そして俺は真面目にも自習をしている。




 いやマジで油断禁物。


 この世界の高校受験の問題と前世でのものとでは難易度は同じくらいだが、どちらも簡単なものではない。気を抜かずに励もう。


 それにしても・・・・・・と俺は左の窓の外を見る。今日は雨天、気が重い。


 もちろん雨が降るのは大地にとって必要なことであり大事なことである。うん。


 でもやっぱり晴れだと気持ちも晴れやかになるんだよなぁ・・・・・・。それに低気圧のせいか、雨の日によく頭痛に見舞われる。今日はなんか嫌な感じ。身体もだるーいし、頭も重痛い。


 俺は勉強の手を止めて机に突っ伏す。じめじめしていて机も気持ちが悪い。はぁ~・・・寒ぃ・・・・・・












 昼食の時間を示すチャイムが鳴り、俺とチヒロは飯を食べる。今食べているのは学校の弁当。


 1年のときは自分で作って持ってってたけど、2年から学校のものに変えたんだよなぁ。


 理由は、食べてみたかったからというシンプルなものだ。懐かしかったというのもあるし、高校に入ったらもう給食的なものを食べられないと思ったからでもある。


 とにかくおいしい。この弁当の主菜は肉と魚が交互にやってくる。今日は肉だ。雨でじめじめとしていて気分は悪いが食欲はあるのだ。おいしいおいしい。




 朝食後の授業は体育だって。ご飯食べた直後に体育は・・・・・・キツくないか・・・??走るとかだったら絶対横っ腹痛くなるじゃん。ウゲぇ――


 雨、頭痛そして昼食後の体育というトリプルアタックに打ちのめされた俺は、へなへなと渡り廊下を歩いて体育館へ向かう。


 今日は雨で体育館だから・・・シャトルランかなぁ・・・・・・。ウゲぇ――






 シャトルラン、それは音を聞くだけでも身震いするものである。前世では大々大っ嫌いだったけど、今の俺はそこそこ好きである。腹にものを入れた後でなければだが。










 はぁ~と廊下を歩きながら本日何回目かのため息を吐いていたところ、背後から




 「くろはらぁ――!!!!死ねぇーーーーーー!!!!!!」








 という凄まじい奇声が聞こえてきた。


 とっさに振り向くと、カッターナイフを手に持ってそれをこちらに向かって振りかぶる男子生徒が見えた。




 ヤバい。






 俺はとっさにチヒロの前に出てどうにかしようとしたが、かなりの至近距離での攻撃だったために反応できなかった。


 やべっ、顔やられるっ!と思い、手で庇う。


 次の瞬間、“ブッシャーー”と右腕の手首に近い場所が切り裂かれる感覚がした。


 そして相手が俺に気を取られている間にチヒロが相手の顔面を殴り、その衝撃で相手はカッターナイフを手から落とし、地面に倒れた。今の一撃で気絶したのだろう。


 チヒロはそいつに馬乗りになってさらに殴ろうとしている。




 俺はチヒロの今にも殴ろうとしている腕にしがみついた。




 「チヒロっ!もう止めとけ!!!!」




 チヒロはすかさず左手で殴ろうとする。俺はどうにか左腕も掴む。


 力が強く、俺でもぎりぎり止められるかどうかぐらいだ。必死に抑えている腕がぶるぶる震えている。


 チヒロは殴ろうとするのを止めない。俺はチヒロに思いっきり頭突きし、




 「チヒロ!!!! もう止めろって!!!!!!」




 と叫んだ。






 するとチヒロはハッとした顔になって、抑えていた腕から力が抜けたのがわかった。




 「マキ、腕」




 チヒロは俺の腕を掴んで傷を覗いた。


 遅れてきたじんわ~とした痛みに顔をしかめる。あの、皮膚を切ったときの独特な痛みだ。




 「いっつ」




 切られた腕を見ると、右の手首の下から斜めに10数センチくらいの赤い線が走っており、周りの皮膚がぷくぅと少し腫れていた。うひゃぁ、視覚的にもい、痛い・・・・・・




 そのとき俺たちを囲んだ人の輪から教師が駆けつけてきた。遅ぇよ。


 教師達は俺らを見、状況を把握し俺に保健室に行くように言って襲いかかってきた生徒を回収していった。






 俺はチヒロに付き添われて保健室に入った。ちょうど保険医もいたことから、チヒロには俺は後で行くから先に授業へ行くように言った。すでに午後の授業は始まっていた。




 「じゃあ、まず傷見せて」




 保健室の先生である、年齢が俺の母さんくらいの女性の先生とは今回初めて話す。


 保健室というもの自体あまり好きな場所ではなく漂う匂いも独特で少々緊張したが、先生が優しそうな人だったので緊張がほぐれる。




 先生が俺の腕を取って回しながら傷を確認する。そして綿に消毒液をしみ込ませて傷を消毒してくれる。いっ、いっつー!!




 「これは、ひどくやられたわね・・・」




 「はい・・・。あの先生、 これって縫ったりは・・・しなくてもいいですよね・・・・・・?」




 俺は今緊張で胸がばっくばっくいっている。“縫う”なんてことは前世も今世もしたことはない。できれば、いや絶対したくない!!怖い!!痛そう!!!痛いの嫌だ!!




 俺の不安をにじみ出している声色での問いに対して先生はなおも傷を見て無言。


 先生・・・その無言、怖いんですけど・・・・・・




 「う~ん・・・」




 ごくりっ。俺は先生が次にこぼす言葉に集中する。




 「この傷なら・・・そうねぇ・・うん。縫わなくても良さそうね」




 先生はそう言って患部に薬を塗り包帯を巻いてくれた。


 俺はもう緊張が抜け痛いことには変わりないが安心感にほっと息をついた。




 俺の治療を済ませた先生は、傷の状態を担任や他の教師達に伝えるために保健室を出て行った。


 俺はしばらくここに居てよいらしく、留守番をいい渡された。








 俺はベットに腰掛け、包帯が巻かれた腕を眺める。




 本当に・・・チヒロが無事でよかったあ。


 俺は所詮サブキャラだからどうなってもいい。最悪死んでも。(嫌だけど)


 でもチヒロとユウキは違う。あの2人はこの世界の主人公達なんだ。2人が死んだら、そのことがこの世界にどんな影響を与えるのか想像できない。


 この世界が終わるのか。それとも変わらず続くのか・・・・・・


 いや、わからないことは考えないようにしよう・・・・・・








 それにしても、あっぶないよなぁ~カッターナイフなんて。


 もしあのとき俺もチヒロも反応できなくて、チヒロの手首や顔、動脈が通っているところとかが切られてたら・・・・・・と考えるだけで怖い。傷ついたのが自分でよかったと心底思った。




 チヒロを庇って傷を負う。この行為が、自分にとって今までで一番達成感や喜びに似た、何かしらの感情を抱かせた。


 父さんや母さんには悪いと思う。もちろん父さんと母さんと一緒にいて、手伝いをしたりしても達成感や喜びを感じる。




 だが、それとは違うんだ。


 前世では言わずもがな、自分が『誰かの役に立った』という気持ちになったことなど一度もなかった。


 今世では俺は母さんの手伝いもするし、人の役に立っているという感覚はあった。でも、それは身内に対する愛情だと思う。


 チヒロを助けることができて、何か、俺は、自分の存在がこの世界で認められた・・・・・・ような気がしたんだ。




 そう思って俺はふと、腑に落ちた。
















 そっかぁ、












 「俺マキって、 チヒロのためにいるんだな」










 だって俺、全く躊躇することなくチヒロを庇うことができたし、漫画のチヒロは多分どこにも怪我を負ってなかった気がするから。きっと漫画の中のマキもこうやってチヒロのことを庇ったのだろう。






 俺は嬉しかった。存在が認められているんだと感じることができて。
































































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