第9話 年末の大掃除

月日が流れ、俺たちは3年生になった――。


 速いものだとマキはしみじみとしていた。








 ちなみに今は10月。右を向いても左を向いても受験受験。


 私立の高校の推薦試験に受かった奴は遊んでる。うらやましーと、俺も昔思ったものだ。


 もちろん俺は自分が選んだ学校に受かりたいという気持ちは強い。だが早く終われるなら早く終わらせたいのだ。








 俺にとっては2度目の高校受験。前回受験したのも今回受験するのも公立で、最後の最後まで戦う集団の一員である。


 俺は前世でがむしゃらに勉強を頑張っていたことでこの世界でも勉強に困ったことはなかったが、それは2度目の恩恵。そのままでは前世の年齢を超えたときにすぐ落ちぶれてしまうという焦りから、大学に入っても困らないレベルまで前々からどんどん勉強を進めてきた。


 2度目だといえども慣れるはずなく、受験することに対して緊張はする。ここで絶対に主人公が入学する高校に入らなければ・・・・・・ユウキとチヒロのツーショットが見られない!!




 受験勉強をしているとよく前回の高校受験のことを思い出す。


 必死になって勉強していたけど、一体どうして何のためにあんなに頑張っていたのだろう。今考えてもよくわからない。高校は卒業しないといけないと思い込んでいたのだろうか。それとも、いち早く施設から出たかったのか・・・・・・とはいえ施設側からしても俺なんか早くいなくなった方が良かっただろうなぁー


 前回では高校生活に楽しさを見い出すことができなかったが、今度はできるだけ楽しみたい。


つーか楽しむために俺は生まれ変わったんだ俺は!!








 俺はもちろん、チヒロもあいつ(八巻)も勉強に関しては何も言われない。チャラいだの不良だの言われていたが(不良らしいこと何もしていないのに謎だわ)、成績が良いので次第に何も言われなくなった。なんなら勉強教えてとよく頼まれるほどだ。
















 冬休みに入り、もう年末だ。勉強もするが家族との時間も大事にしたいと思い、普段以上に手伝いに励む。


 新しい料理に挑戦したり、最近はお菓子作りにも凝っている。家族で過ごすのは正直すっげえ楽しい!!




 今日は大掃除。まずは自分の部屋を掃除する。机の上は頻繁に整頓していていつも綺麗だから掃除の必要はないのだが、本棚にぎっしぎしに詰まっている本の整理と、たぶん埃がすごいからそれを除去しなければならない。




 うっわ、やっぱり本の上の埃すごいわ。鼻に埃が入る・・・・・・マスクしながら掃除しよ。


 あ、この漫画懐かしっ。まだあったんだ。あー・・・このシーンめっちゃ好きなんだよな~。


 って、いかんいかん。横道逸れてしまった。


 もうこの本はいいかな。手放す本はここ積んどこ。




 




 残るは一番下の棚だけ。


 あ、アルバム。横道逸れる定番だけど・・・・・・ちょっとだけ久しぶりに見よーと。




 アルバムを開くと、マキの生まれた直後の赤ん坊のときの写真が一番最初のページに貼られていた。ページを捲る《めく》と小さな赤ん坊がすやすや寝ているその寝顔を撮った写真。大泣きしている写真。母親に抱かれている写真。ちょっと成長した小さくむちむちした足を折り曲げ公園の砂場で山を作って遊んでいる最中の写真。家族でキャンプに行った時の写真。どんどんページを捲っていくとだんだん成長していく自分の姿。この家に生まれてきてよかったと思う。こんなに大切に育ててもらって、こんなにたくさんの思い出をくれて、こんなにもたくさん・・・・・・幸せをくれる。




 俺は少し涙を目に滲ませながらアルバムを捲り続けた。


 だいぶ大きくなったなあと思ったところで、小学校の入学式に正門の前でチヒロと並んで撮った写真、そして両親と並んで撮った写真があった。小学生の卒業式の写真(これもチヒロとの写真もある)の次には中学校の入学式にチヒロと一緒に撮った写真。


 チヒロはなんだかんだ言って最後には俺のわがままを聞いてくれるのだ。




 チヒロも俺にとって楽しい思い出をくれる大切な1人。かけがえのない人だ。
















 アルバムはダメだな・・・。元々涙もろいのに・・・・・・。


 泣くのは違うと思っている。幸せを感じるなら笑えって。 でもさ、やっぱ感謝とか心から幸せって思えると、泣けてくるんだよな。








 俺はあれからアルバムを全て制覇し、その間掃除は全く進まず結局本は埃を落としただけで本棚に元通り戻すことになった。






 そして大晦日。俺は母さんと一緒にお節を作り、一年最後の風呂に入り、そばを食べ、こたつに入りながらテレビ番組を見ていた。


 まだ受験が終わっていない受験生にあるまじき行為だと思われるだろうが、父さんも母さんもなんにも気にしていない。たぶんこんなもんだと思っていると俺は思う。


 両親は俺が小さい頃から他の子どもと比べるようなこともせず、勉強を強要したりもしなかった。


 だから俺も自由にのびのびと何でもすることができた。




 俺はこの時を大いに満喫していた。


 みかんうめぇ~。やっぱこたつにみかんだわ。前世ではこたつなんて一回も入ったことはなかったし、果物を買おうとも思ったことはなかった。


 この俺マキになってから初めて知ったものは多いが、そのどれもが知ったら最後、もうなしじゃいられないものになった。
















 そして年が、明けた。


 俺は両親に『あけましておめでとう』と新年の挨拶をし、真っ暗な夜の中外へ駆けていった。




 いつもの待ち合わせ場所。白い息をはぁはぁと吐き、顔に冷たい風を受けながら今まで何回も通った道を走る。風冷たっ!絶対鼻とか赤くなってるし・・・・・・と思いつつ公園の入り口にたどり着くと、あちらの入り口にもたった今人影が見えた。


 ふうっと息を整えあちらの人影に歩み寄ると、あちらもこっちに近づいてくる。


 公園の薄明るい街灯の光で人影の顔が露わになる。




 「チヒロ、あけましておめでとう」




 「おう・・・・・・。 マキも、 あけまして、おめでと」




 チヒロの鼻の先と頬が真っ赤になっている。きっと俺のもそうなっているのだろう。


 俺たちは2人して赤い顔で白い息を吐きながら、神社へと初詣をしに真っ暗な道を歩くのであった。
















 チヒロは一体、何を願うのだろうか。






























































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