可哀そうな屑姫と憎しみ続ける騎士

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 屑姫。


 その姫は、歴史に名を遺す大罪人だと言われている。


 だが、その姫を守ってきた騎士だけは知っていた。


 彼女はただ、心優しい少女だったのだと。


 騎士の想いは世界を変える。


 それは正しい思いではなかった。


 呪い、憎み、蔑み、貶す。負の想いだった。


 けれど、世界はその思いを承認した。


 これは、世界の形が変わる前の話。


 決して幸せになれない姫と騎士が、数多の世界をさすらう前の話。







 とある大国ブロッサムに、心優しい姫がいた。


 やがて国を背負う事になるその姫は、多くの民を幸せにすべく、いつも熱心に勉強を行う。


 小さい頃からそんな姫を守ってきた騎士は、その努力を知っている。


 だからこそ、幸せになってほしいと考えていた。


 多くの民に囲まれ、ただ笑い、未来を語る。


 そんな人生を歩んでほしかった。


 しかし、そんな未来はあっけなく奪われる事になってしまった。







 禁断の力を手にした小さな国ドレイクが、人の命を消費して放つ兵器を作り出した。


 自国の国民を犠牲にして放たれた兵器は、姫や騎士がいた大国ブロッサムを燃やして、あっという間に滅亡させてしまう。


 姫は騎士の助けを借りて、国から脱出する事ができた。


 だが、故郷は壊滅。国を復興する事など不可能だった。


 希望はひとかけらもない。


 それくらい、ひどい惨状だった。


 悲しい出来事はそれだけではない。


 多くを焼き払った小国ドレイクは、禁断の兵器を手にしてこう叫んだ。


 我々は、悪女によって騙されただけだ。


 兵器の使用は、正当な報復だった。


 犠牲は必要なのもだった。


 真に悪なのは、ブロッサムの姫。


 と。


 いつの時代も、どこの世界も。


 争いがあれば、勝者の言葉が強く、敗者の言葉は弱い。






 姫の悪行は一人歩きし、彼女は世界中から指名手配されることになった。


 大勢の者達から命を狙われる事になった姫。


 彼女の味方は騎士だけだった。


 孤独が、心を削っていった。


 やがて、姫の心は壊れてしまう。


 それでも、騎士は姫を守り続けた。

 

 騎士は憎む、何一つ責められるべき点のない少女が、こんな目にあわなければならない世界を。


 騎士は憎む、何一つ状況を動かす事ができない非力な自分を。


 騎士は憎む、何一つ疑うことなく姫を指さして、嘲る、全ての者達を。







 やがて正義を声高に叫び、妄信する者達が姫をとらえようとする。


 誰も彼もが姫を、人間の屑だと嘲った。


 そして姫は、正義を騙る者達に捕まった後、無残な目に遭わされて、その命を刈り取られてしまう。


 間一髪逃がされた騎士は、救出にいったその場所で、姫の亡骸を抱き、泣き叫んだ。


 こんな世界は間違いだ。


 姫にこんな運命を強いる世界など不要だ。


 こんな自分は間違いだ。


 姫にこんな運命を強いる自分は役立たずだ。


 だから、騎士は世界と自分を憎む。


 憎んで、憎んで、憎み続ける。


 その憎しみでどうか、


 世界が変わるように。


 自分も変わってしまうように。






 強すぎる憎しみは、世界を覆い、ゆがめていった。


 姫と騎士の魂は、あらたな世界にたどりついては、悲劇を編み、悲劇に食らわれ、悲劇を生みだしていく。


 その連鎖は、終わらない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

可哀そうな屑姫と憎しみ続ける騎士 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ