八十八歳の最後の夢

 わは退役軍人で王立病院から来ました

老後にはとてもいい生活です

軍役時代を挟んで八十年間歌い続けています

いい人生だった今夜歌うのは

「愛は翼に乗って」

私が愛した妻のために

この歌を捧げたい

1952年に結婚して六十六年一緒だった

彼女と逢うまで昇進に興味が無かった

ただ、彼女にはとても惹かれた

いつも優しかった妻は2016年の11月に

亡くなった私の腕の中で

椅子に座った妻は

「あなた」

 と、一瞬の出来事だった、私の腕の中で死んだ

私は気が狂ったように何度も何度も呼びかけて

この舞台に立つ事を妻も望んでいると思う

妻のために今日は歌います

私のだったから


私の後ろに立ち陽の光をさけ

輝かせてくれた

いつも一歩後ろで

人生は栄光に満ちた君がいたから

麗しき笑顔は痛みを癒やした

君こそが僕のヒーロー

私の憧れ鷹より高く飛べた

この翼の風

気づかないふりをした

でも心はずっと伝えたかった

君なしではいけない

君こそが僕のヒーロー

私の憧れ鷹より高く飛んだこの翼の風


 彼は八十八歳と思えないくらいの素晴らしい歌声で

会場の観客と審査員を包み込んだ、貫禄はあるがそれよりも

声に込められた思いが凄かった、全員が歓喜と拍手が鳴り止まない

年齢を忘れるくらいの歌声は愛に溢れてた、歌い終わったら上を向いて

妻が見ているように見つめてた、見事に次の準決勝に進んだ

八十九歳になってもまだまだ現役で更に夢は終わらない。


 1930年3月9日生まれ十五歳の時に軍へ

路頭に迷っていた、だから軍に救われた

毎週木曜日に舞踏会があった、そこで妻と出会った

美しい黒髪の女性一晩中踊り続けた

私は二人の子供を授かり四人の孫に恵まれた幸運です

なんでも妻と一緒にやった、特に歌う事が大好きで

情熱を注いだ彼女は二年前に召された

まるで右腕を失ったようだ

二人で一つだった、王立病院は最高の老人ホーム

妻には誇ってもらいたい準決勝に進むことを

彼女と歌っている、そばで聴いている

また会おう、どこかでいつの日か必ずまた会える

晴れた日に、笑い合おういつものように

雲から空がのぞくまで、知人に会いに行こう

「遅れたね」

 また楽しい日が来るように

僕は歌うよまた会おうどこかでいつの日か

必ずまた会える晴れた日に必ずまた会える晴れた日に


 準決勝は素敵な時間だった妻も気に入ってくれただろう

こんな場所に来るとは想像した事もなかった八十九歳だよ

父親と祖父を経験したとても親しい家族でずっと一緒に

出掛けてくれる次の目標は曽祖父だ今夜歌う曲は

「愛は全てを変える」

 愛は何でも変えてきた、今でも妻のことを愛している

この道のりは彼女にとっても誇り高い、もし優勝出来たら

それは名誉の極みだ、王室の舞台で歌う究極です

女王のため二十五年勤めた、妻を思いながら

家族に誇ってもらいたい、それが一番嬉しい。


愛、愛は全てを変える

手や顔、大地に空

愛、愛は全てを変える

生き方、死に方

愛は夏の蛍、儚く夜を過ごす

そう愛は全てを変える

今も君を感じる

同じものなど世界に無い

世界中に幾年も重なり

愛は突然のごとく心に燃え上がる

愛の前では言葉は意味がなくす

そう愛は全てを変える

生きるか燃えるか、愛はあなたを変えてくれる


 歌い終わった後には彼は満面な笑顔だった、会場も湧いた

審査員は敬意を込めて拍手を送る、最後の決勝まで進んだ

最後の審査員はテレビを見ている国民投票で決まる

彼は八十九歳で見事に優勝した。


 人生で私は後どれくらい、生きれるだろうかと考えても

そんな事に意味は無いと思ったけれど

私が八十九歳まで生きていけるとして、彼の生き様は

素晴らしいことだと思います

なのでいつか誰でもその日が来るので

最後に華を咲かせるためにこれからも書き続けます。


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