他人に無理と言われても、前に進め!

 一人の男性が緊張してステージに向かう

あまりの緊張で誰が見ても分かるほど手が震えている

マイクを落としてしまうんじゃないかと思うくらいに

それを見た審査員も大丈夫なのかと、期待していない表情で

見る中一人の女性の審査員が言った


「震えているわ、大丈夫?」


 男性は都会に来るのも始めてで話方もなまっている

 「こじゃんと緊張する」

 と応えた


「いいのよ、誰でも緊張するの」


 男性はその言葉を聞いて何故か

「すいません、すいません」


 と謝った、顔は真っ赤になって緊張して口から心臓が

出るんじゃないかと思うほどに見える。


 彼は三十四歳出身はリヴァプール仕事は電話受付をしている

このオーディションは人生で一番の出来事、外ではあまりの人の数

で大きく息を吐く、おばあちゃんと二人で来て、おばあちゃんは


「大丈夫?」


 と心配している彼は応える

「知らんかった・・・こんなにようけおるなんて、こんなん

始めてで五年ばあずっと出たかったけど応募用紙を印刷して書いて

封筒に入れて毎年破った、ずっと歌いたかったんだけんど

周りから言われよった『君では無理』と」


 それで彼は五年前から毎年書いては破って捨てた

「周りから言われて自身が無うなって応募できんかった

自分でもそう思えてほんでできんかった」


 おばあちゃんと二人で外のテーブルで向かい合わせて話をしている

「こじゃんと見たら分かる、落ち着くがよ、信じちゅうきね」


おばあちゃんは励まし勇気を出すように言う。


 おばあちゃんとは仲良し、じいちゃんが亡くなって世話をする

ために引っ越して来た、おばあちゃんだけが彼の歌を信じてくれた

おばあちゃんは彼の歌声がずっと好きできっと100%出来ると

疑わない、彼は歌は自分の全てと言う、今まで人前で大勢の前で

歌った事が無い、このオーディションは数千人の前で歌うことになる。


「かやるに(倒れる)にきまっちゅう」

 そんな状態でオーディションに向かった


 女性審査員は

「ちょっと落ち着きましょう」


 と彼をとにかく、このままでは何も出来なくなると思っての

一言だった、彼はその声を聞いても、それでも緊張はおさまらない

そこで更に女性審査員は聞いた


「誰が応援してしているの?」


 と少し話題を変えた

「おばあちゃんです、今は七十六歳です」


「仲が良いのね?」


「こじゃんとね、今日もそこに来ちゅう」


「今日、通過出来たら?」


「私の全てなんです、この曲はじいちゃんの葬式で流して

とても意義深く、じいちゃんは祝福された、自分にとっても

だから今日みんなにも歌いたいおばあちゃんにも」


「じゃあ、始めましょうか」


 彼は笑顔になった、完全に緊張は取れて無いけど覚悟は決めた

みたいだ、緊張したままだと本領が発揮出来ない、四人いる

審査員の中には期待してない表情の人もいる、観客も大丈夫かな

という目で見守る、でも彼がマイクを口に近づけ歌い始めると

一気に空気が変わった。


愛は流れる川

茎さえ沈む

愛は鋭い刃心を引き裂く

愛は永遠の渇き

満たされない

愛とは僕に咲く花

種は君だけ

独り長い夜

そして長い道

愛はただの運と力だと

君は言うだけど

冬の中冷たい雪の下

種は陽の愛で春に薔薇となる


 彼が歌い始めた瞬間、みんなが目を疑った、あんなに緊張して

いたのに、言葉もなまっていてのに、歌は素晴らしく審査員は笑顔に

観客は歓声を上げた、袖にいるおばあちゃんは

誇らしげに笑顔で見ている、そのまま歌は盛り上がり

更に会場を沸かせた、彼の歌声は大きくそして心がこもっている。


 誰よりも愛を伝える歌声で歌が終わると会場全員が総立ち

審査員四人も立って拍手を送る、彼は歌い終わると涙を流して

それを腕で拭っていた直ぐにでも泣き出しそうな顔で

前を向いて会場を見渡した。


 袖にいたおばあちゃんは見たかうちの孫は凄いんだと

言わんばかりに右手を振っている、観客の中には感動して

涙を流す人もいた、審査員の目も凄いという目に変わっていた

彼は下を向き両手を膝につけていた。


 最初に声をかけた女性審査員は笑顔で喜んでいる

とりあえず審査員は席に座った

彼は片手で頭を支えている、自分が歌えた事に

まだ気持ちが追いついてない感じだった、その時女性審査員は

「おばあちゃんはどこですか?」


 と言った、司会者が袖からおばあちゃんをステージに

行ってくださいと言うと孫が近づいてきて

おばあちゃんの手を取り一緒にステージの中央に向かった

中央に着くと、おばあちゃんは孫をなだめた、よくやったと

いう思いで、その二人を審査員は笑顔で見ていた

彼はまだ緊張しているみたいで顔が赤い、それでも

マイクを持って

「彼女が僕のおばあちゃんです」


 と言った、その後直ぐにおばあちゃんは孫からマイクを

取り審査員に言った

「今の気持ちは?」


 これは本来なら審査員のセリフなのに、おばあちゃんに

先に言われた、たまらず審査員は笑ってしまった

それを見ておばあちゃんはマイクを孫に渡したもちろん

笑顔で、審査員の男性が始めて聞いた。

「君は今何歳ですか?」


「三十四歳です」


「どうして今まで


 と言った、観客もそれを聞いて拍手と笑顔と歓声を上げた

 彼は応えた

「こんな経験はのうてずっと、恐かったけんど、

今日は勇気を出した」


 女性審査員は

「自分の声が聞こえないの?歌っている時の声よ」


 彼は応えた

「みんなからだけって

そう言われました」


 すると審査員は直ぐに言った、少し怒った感じで

「誰がそんな事を言ったの?」


 彼は 

「みんなです」


 すると一番年輩の審査員が言った

「今日は君のものだ、こんな反応は誰も、もらえなかった

今日のオーディションで君が一番素晴らしかった」


 全員が拍手喝采、彼もその言葉を聞いて笑顔になり

緊張は消えていた、審査員全員から次のステージの約束を貰い

おばあちゃんと二人で袖に向かって行った

その後審査員は顔を見合わせた話をしている

「あんなに緊張してたのに、歌う前からダメだと思ってた」


「すると、あの声がどこからともなく!」


 彼がステージから居なくなって本音トークをしていた。


 彼はステージから袖の奥に着くと司会者に

「本当に本当に、あんな反応になるっておもわんかった

ひとっちゃあ考えてなかった」


 司会者は

「緊張を乗り越えた、嬉しいよ」


 と言った、彼はおばあちゃんに聞いた

「これは現実?つねってみて、夢?」


 おばあちゃんは

「夢を見ゆうがない」


 と言った、これで彼は見事に認められ乗り越えられた。


 誰も結果なんてわからないし、それを否定することも意味はない

彼は五年間、毎年破った応募用紙それを破らせたのは周りの声

自分では判断出来なくても、それに全てを捧げているなら

他人の声は聞く必要は無い、今回は歌でしたが、どんな事でも

本人が決めたのだから他人は口を挟むべきでは無い

何故なら相手を否定することは誰にも未来は見れないから

その事で誰かが救えるのならその人以外の人も否定することに

なり、邪魔だからであり、それが人間の成長を止める

だから今でも人は真実を見つけることが出来ない。


『何事も正解を求めることではなく、挑戦すること、それを

信じきる信念を持って進む、それだけで素晴らしいことです』



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