ゆいとあい。
結人 哀
プロローグ ~出会いたくなかった人。~
これは、まだ僕が生きていた頃の話。
「はぁ~。」
たった一度のため息で僕の人生が少し動いた。
「人が幸せだなって思ったときにため息つかないでよ!!」
「んぇ!?」
僕が座ったベンチの後ろで一人の女の子が大きな声で言った。
どうやらゲームをしていたようだ。
「いや、そんなところに座ってる君が悪いでしょ。それに、君が幸せかどうかは僕には関係ないよ。」
「は!?何それ。…もしかして、うらやましいの???」
そう言って女の子はニヤッと笑った。
「…君。馬鹿でしょ。」
「はぁ!?初対面の人に向かってそれはないんじゃない!?」
「…………やっぱり馬鹿だ。」
そう呟いで僕は逃げるように帰った。なぜ僕が女の子のことを馬鹿だといった理由は、その女の子は僕と同じクラスだからだ。僕は絶対に関わりたくないタイプの人間だったが。
誰もいないマンションに着き、すぐにお風呂へ入り、部屋着に着替え、ソファーの座り、小説を読む。これが僕の日常だった。
「…この小説も面白くない。はぁ~。」
ため息をついた時にベンチの後ろにいた同じクラスの女の子のことを思い出す。
『日向 愛』だったかな…いかにも愛されて育ってます、って感じの名前だな。
僕は毎朝8時前には学校にいる。ほとんど誰もいない静かな教室で、小説を読む。
「あああー!」
教室に大きな声が響いた。珍しくこんな時間に人が来た。
「なんでいるの!?」
「君、やっぱり馬鹿でしょ。」
「そういえば昨日、同じ学校の制服着てたね」
と言いながら女の子は笑った。
「今更かよ。ていうか、始業式の日に自己紹介したでしょ。」
「あ。私、人の名前とか、顔とか覚えるの苦手なんだよね…」
申し訳なさそうに女の子が言った。
「別にいいけど。」
「…お名前、聞いてもいい??」
「……『原 結人』。」
「原くんね!私は『日向 愛』よろしくね!」
そういって女の子は笑った。
「 」
この時、僕がどんなことを考えていたのか、何て言ったかは些細なこと過ぎて覚えていない。
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