ヒンデンブルグ・オーメン
松本タケル
トラウマ
高校二年生のミサキは最寄り駅から電車で通学している。並ぶのはきまって、一番うしろの車両。混雑を避けるのが狙いだ。
その日もミサキは最後尾あたりにいた。前の電車が出た直後だったため、並んだのは先頭だった。
(あっ)
ホームから線路を挟んだフェンスの上に一匹の真っ黒なカラスがとまった。
(駅でカラスって珍しい)
そう思った瞬間、カラスがキッとミサキの方を見た。
「列車が通過します。白線のうしろまでお下がりください」
アナウンスが入った。
特急列車が駅に迫ってきた。
「えっ?」
突然、ドンと強く背中を押された。ミサキは、その勢いよろけて前に数歩踏み出してしまった。
目の前には列車。
「これは……やばっ!」
そう思った瞬間、記憶が途絶えた。
目が覚めたら病院のベットだった。
傍らに両親がいた。
「よかった。ほんとうに」
二人とも目覚めたミサキの手を取って泣いている。
「痛っ」
頭が割れるように痛い。目が開けられないほどだ。
「お父さん、お医者さん。すぐ!」
母親が慌てて言った。
医者の注射により痛みが和らいだ。
「お母さん。私、駅で並んでていて、そこから記憶が……」
「特急列車にぶつかったの。通過前だったら線路に落ちてひかれてたかもって警察の方が言ってたわ」
母親は、ミサキを刺激しないように優しい語り口で告げた。
「打ち所によっては命に関わってたそうよ」
「通過中の電車にぶつかったの?」
「そう、弾き飛ばされて頭を打ったの」
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これが八年前にミサキが巻き込まれた事件だ。
数週間の入院後に退院した。その後も突発的な頭痛で学校に行けない日が多くあった。
駅が怖くて、しばらく父親に車で学校まで送ってもらった。通常の生活に戻るまでに一年かかった。
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