第17話
理子の魔法で体を起こされ、俺は椅子に座らされた。
「それが一番手っ取り早いのよ」
「でも、捧げるっつったって……お互いの気持ちとか、その……」
「森田、あんた馬鹿? そんな事はどうでも良いのよ。いい? シルフィの魔力を戻せば自分で何とか出来るでしょって話なの」
「ちょ、待って⁉ お……俺のDTにそんな力が⁉」
理子はふふっと笑う。
「人間は知らないだけ、DTには神秘の力があるのよ。男がその生涯でたった一度だけ放つ生命迸る輝き……当然だわ。それに……ワタシの見立てだと、森田は普通の人間より濃いわね。うん、間違いない、特濃かも」
「マジかよ……何か微妙な気持ちになるが……」
「いい? ワタシの力で森田をシルフィが閉じ込められている部屋に転送する。恐らく結界も張られているだろうけど、それは力尽くで破れると思う。問題はそこからね」
「……」
俺は喉を鳴らし、次の言葉を待った。
「結界を反転させて、外からの侵入を防げるのは……長くて一時間が限界。その間にシルフィの魔力を解放できれば……そこからはシルフィ次第ね」
理子は俺の髪を撫でる。
「ワタシへの対価として、森田の二回目をいただくわ。まあ、DTに比べれば天と地の差があるけど今回は許してあげる。そうね、5年分ってとこかしら? どうする? これでも大サービスなのよ、今回の報酬で吸精した分、まるっと使い果たしちゃうんだから」
「……わかった、シルフィが助かるなら、好きなようにしてくれて構わない」
「森田、淫魔との約束は破れないよ?」
「わかってる」
俺は理子の目を真っ直ぐ見て答えた。
「はあ……じゃあ、ワタシの気が変わらないうちに始めましょうか」
「どうすればいい?」
「黙って、目を閉じて」
「おけ、わかった」
目を閉じていても何かが光っているのを感じた。
暖かい……。
ストーブが目の前にあるみたいだ……。
「――⁉」
次の瞬間、闇が捻れた――。
意識、脳、体、全てが細く捻れて、まるで自分がロープになったように感じる。
凄まじい勢いである一点に向かって俺自身が収束していく!
――タンッ!
全身に衝撃が走った。
そして、俺は見慣れぬ部屋に立っていた。
「森田……?」
「シルフィ……シルフィ!」
俺はシルフィに抱きついた。
そして力一杯に抱きしめた。
「ちょ、森田⁉ おい、待て! 何があった、説明しろ!」
シルフィを離して、両肩を掴んだ。
「シルフィ、お前の魔力を戻す方法がある!」
「落ち着け! まず、何があったか説明しろ!」
俺は大きく深呼吸した。
「理子は敵だったけど味方で……でも気まぐれかも知れなくて、ても結果的にはこうするしかなくて……とにかく、時間が無いんだ。理子が言うには、たぶん1時間くらいしか結界が保てないとか言ってて……えっと、その、シルフィの魔力を戻して後はそっちでやれってことらしい!」
「森田、お前何言ってるのか全くわからんぞ……」
まずい、こうしている間も時間が……。
クソッ! どうにでもなれ!
「あぁ~! もう! 頼むシルフィ、俺のDTを貰ってくれ!」
「……は?」
「理子が言ってた、お前の魔力を戻すには俺のDTを捧げればいいって! だから、その……貰ってくれ!」
「ちょ……⁉ 森田、お前、自分が何を言ってるのかわかってるのか⁉」
シルフィは耳を赤くして、警戒するように自分の肩を抱いている。
「お、俺だってこんな形で……でも、時間が無いんだ、このままじゃ九石に実験体にされてしまう! 長命遺伝子がどうのって……俺、よ、よくわかんないけど、お前を……失いたくない!」
「森田……」
シルフィは無言で何かを考えているようだった。
少し部屋の中を歩くと、立ち止まって俺に訊ねた。
「リリスは確かに魔力が戻るといったか?」
「ああ、そう言っていた」
「一時間と言ったんだな?」
「そうだ」
「ということは……失ったのではなかったのか? DTによる生命エネルギーが鍵に……」
シルフィはブツブツと呟き、カーテンを開け外を覗く。
「反結界か……リリスめ、小癪な真似を」
そう言って俺の方を向き直ると、
「森田……お前は……わ、我で良いのか?」と恥ずかしそうに言った。
「え……そ、そんな感じで言われると答えにくいっていうか……」
「だぁぁぁーーーーっ!! 考えろ、考えろ……これは儀式だ……このままこうしていても終わるだけだ。魔力の無い我などただの女子に過ぎん。そうだ、魔力の為だ……しかし……まさか魔力を戻す方法がDT……ええぃ! なんということだぁーーーっ! クソッ!」
シルフィは一人で叫んだり身悶えたりしながら、顔を真っ赤にして背中を向ける。
「ぐ……ぐぬぅ……も、森田! 来い!」
突然振り返ったかと思うと、シルフィは俺を強引に引っ張ってベッドに押し倒した。
「のわっ!」
俺に馬乗りになるシルフィ。
唇は固く結ばれていて、今にも泣き出しそうな顔をしている。
さらさらの髪が流れ落ちて、俺の頬をくすぐった。
「い、良いんだな!」
照れ隠しなのか、シルフィが怒ったように聞く。
「……うん、シルフィに捧げるよ」
「こ、この馬鹿が! どうなっても知らんぞ!」
次の瞬間、シルフィの柔らかな唇が俺の唇と重なる――。
ああ、心が満たされていく……。
俺は自分の気持ちが間違っていなかったと確信した。
もう、何年奪われても構わない。
シルフィは俺をどう思ってるのだろうか……。
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