ここはどこ?

@yatumi

本文

ふぃ~と、僕は目覚めた。

ここはとても居心地がいい場所。

喩えるならそう、絶妙な温度に調整された、いつまでも浸かっていられるぬるま湯のような感じ。


過酷な競争もなければ、批判や嘲笑を受けることもなく、羞恥すらそこには存在しない。

あるのはひたすらに孤独と、寂しさ。

けど今はその辛さすらなくなって、後に残ったのは無限に拡がる空虚だけ。


ていうか僕は、いつからここにいるんだっけ?


何かが、あったはず。

何かとても大きな、変化があった。

それで心が、傷んで疼いて、拗れてよじれて、やがて歪んで、確かどこかで...


音を立ててそれは起こったわけじゃない。

とても静かに、それは起こったんだ。

あれ?と思って振り返ると、後ろには無残にも折れて、落ちて砕けた、“心だった何か”があった、と言う感じだった。

あぁ、辛かったなぁ。



それに引き換えここは防衛的で、ぬくぬく、ふかふか。

ここには過去もなければ変化もなく、

有為無常の理などないかのように、連綿と時間が流れて行く。


にしても、ここはどこ?なんていうところ?


どこからともなく、笑い声がした気がした。

この空間には自分しかいないのに。

「あははっ、そんなことも知らないの?」

自分に対して指向性を持った、笑い声。

途端に身が震え上がる。

「教えてあげるよ。哀れなあなたに。

名前なんて、決まってるじゃないか。





そこはあなたの、殻の中。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

ここはどこ? @yatumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る