第4話 水着姿の美少女たち ③
みんなで海に入っていたら午前中はあっという間に過ぎ去って、太陽は真上に昇り、一番暑い時分になった。
ジリジリと肌を焼くような暑さと、けれどそれを中和するような爽やかな空気が気持ちいい。
朝っぱらからはしゃいだ俺たちは、すっかり腹ぺこになって昼食にすることにした。
思えば、ボランティア部の五人でちゃんと遊んだのは今回が初めてだ。
今までも放課後に寄り道してくっちゃべったりはしたけれど、みんなで仲良くお出かけをしたことはなかった。
もちろん夏休みに入ってからも部活動はあって、ちょこちょこみんなで顔を合わせてはいたし、それに俺はみんなと個々にデートをしたりなんかもしれいたけれど。
でもこうやってみんなで仲良く時間を過ごすせるというのが、なんだかとても嬉しかった。
あさひじゃないけれどやっぱり賑やかなのは楽しいし、それに一体感みたいなものが心地良い。
もちろんハーレム的な状態になっている現状を味わう下心のようなものもなくはないけれど。
でも何より俺は、彼女たちみんなと過ごせる時間がとても楽しいんだ。
「うっしー先輩、なんだかご機嫌ですね」
昼食の買い出しに向かう最中、俺の横を歩く
結構ゆっくり歩いているつもりだけれど、体格差ゆえに歩幅の狭い彼女はどうしても少し足早気味で。
そんなちょこちょことした動きがまた愛らしい。
昼飯は近辺の海の家で調達しようということになって、いろんなところでいろんなものをと、俺たちは二手に分かれている。
俺は安食ちゃんと二人で、残りの三人が別働隊だ。
この組分けでまた揉めるのも面倒だったから、一番近くにいた安食ちゃんに声をかけてささっと繰り出してきた結果だ。
「そ、そうかな? まぁでも楽しんでるよ。普段はアウトドア派じゃない俺も、流石に海に来たらテンション上がる」
「ですよねぇ。海って不思議です。で、でも私は、うっしー先輩がいてくださるから、尚更楽しいです」
妙に浮かれてしまっていないのかと心配になりつつ、けれど正直に答えてみれば、安食ちゃんはニコッと朗らかに笑って頷いた。
おまけにそんな健気なことを言ってくれるもんだから、可憐な水着姿も相まって余計に意識してしまった。
「それに、ちょっとしたことですけど、こうやって私を一緒に連れてきてくれたのも嬉しかったです。私、先輩たちの勢いに負けがちだから」
安食ちゃんの小さな手が控えめに俺の手首に触れ、細い指が引っかかる。
その慎ましさがいじらしく、また愛らしかった。
「なかなか皆さんみたいにぐいぐいはいけませんけど、でも私だって気持ちは負けてないつもりです。だから、もっと仲良くしてくれると、嬉しいです」
「それはもちろん。安食ちゃんの優しさは、いつもちゃんと伝わってきてるよ。俺だって、もっと君と仲良くしたい」
「やった」
嬉しそうにはにかむ安食ちゃんの笑顔が、燦々と輝く太陽に照らされて眩しい。
その庇護欲をそそる可憐さが俺に一心に向けられていると思うと、この上なく幸せだと思えた。
「私ちんちくりんだし、皆さんに比べると子供っぽいから、正直不安だったんです。男の人って、女性らしい子の方が好きなんじゃないかなぁって」
目星を受けた海の家の列に並びながら、安食ちゃんは少し不安げにそう言った。
俺の腕にかけた指に、少しだけ力が入る。
「だから本当は今日も、水着にはあんまり自信がなくて。だから早く着替えて、一番に見せちゃおうって思ったんです」
「いや、安食ちゃんの水着はめっちゃいいよ。自信持っていいって。一番目のインパクトもあったけど、そうじゃなくても全然見劣りなんてしてないよ」
「本当、ですか?」
控えめにこちらを見上げて窺ってくる安食ちゃんに、俺は力強く頷いた。
「ああ。今だって俺、実はドキドキしてる。水着姿の君が隣にいてソワソワしてるんだ。なんていうかこう……興奮冷めやらぬというか」
「それだと、ちょっと変態さんっぽいですけど」
「あー今のなし! 言い方が悪かった。忘れて忘れて!」
「えー、ダメですよ。うっしー先輩が私に興奮してくれたってこと、もうしっかり聞いちゃいましたから」
チョイスを完全に失敗した言葉を取り消そうと手を振るも、安食ちゃんはニヤリと笑って一蹴した。
普段は柔和な彼女の珍しく意地悪気な笑みが、なんだか無性に心を撫ぜた。これはこれで、なんだかいい。
「女の子に対して興奮したって言っちゃうなんて、うっしー先輩は案外大胆なんですね」
「だから言い方が悪かったというか、言葉の綾というか……。別に他意はないんだ」
「じゃあ、興奮、してくれなかったんですか? ドキドキしてくれてるっていうのも、言い間違いですか? そっか……」
「正直に申しまして水着姿の安食ちゃんを前にめちゃくちゃテンション上がってますけれども……!」
シュンと落ち込んで見せてくる安食ちゃんにヤケになって正直な気持ちを答えてみれば、すぐに満足そうな笑みが返ってきた。
まぁわざとなのはわかってたけど、でも今のは言わないわけにはいかなかった。
女の子を目の前に興奮してます宣言している俺は、側から見たらただのど変態だろうけれど、もうこの際仕方ない。
にしても、安食ちゃんにこんなふうに弄ばれるなんて。
普段は大人しげで優しい彼女にしては珍しい、可愛らしくも意地悪な一面だ。
「ちょっと虐めちゃいました、ごめんなさい。うっしー先輩が変態さんじゃないことは、ちゃーんとわかってますから」
自分の大胆な発言に恥入っている俺に、安食ちゃんは穏やかな笑みに戻って言った。
「むしろ、私のために頑張ってはっきり言ってくれたんですよね。普段のうっしー先輩は、割とそのあたり優柔不断ですし」
「まぁ事実だし、わかってくれてるのはありがたいんだけれども。その評価はそれはそれで凹むなぁ。事実だけど」
「あ、いえいえ。別に悪口で言ったわけじゃないですよぉ」
柔らかくもキッパリとした言葉は、俺にグサリと突き刺さった。
なまじそこに悪意がない分、忖度のない評価ということだ。屈託なく言われる方がくるものがある。
思わずしょげそうになった俺に、安食ちゃんは慌てて声を上げた。
「私、そういううっしー先輩が好きです。もちろん、ハキハキしててかっこいい事ポンポン言える男の人もかっこいいですけでど。でも私は、迷ったり控えめになりながらも、それでもちゃんと私に向き合ってくれる、そんなうっしー先輩のことが好きなんです……!」
両手で俺の腕にしがみついて、背伸びをしながら食らいつくように見上げてくる安食ちゃん。
そのクリっとした瞳は真剣そのもので、お世辞や気遣いのようなものは全く感じられなかった。
どこかちょっとムキになっている感もあって、可愛いらしさの中に迫力を感じる。
「ありがと。でも自分では情けないって自覚してるから、もっと強くなんなきゃとは思ってるんだ。せっかく好きって言ってもらえてるんだから、できるだけかっこよくなりたいし。呆れらたら寂しいしさ」
「私、呆れたりなんかしませんよ?」
安食ちゃんは、なんでそんなことを言うのかというふうに、ちょこんと首を傾げた。
「うっしー先輩はうっしー先輩ですから。私は今の先輩が好きなので、もちろんかっこよくなるもの大歓迎ですけど、私にとっては今の先輩が十分素敵なんです。私は、どんな先輩だって受け入れますよ」
「安食ちゃん……」
にこりと微笑みながら放った言葉に、なんだか無限大の包容力を感じた。
その小さな体の中に海よりも広い心を抱いて、俺の全てを許さんばかりに引き込んでくれる。
自分の不甲斐なさを嘆くことの多い俺だけれど、そんな俺でもいいんだと、その笑顔を向けられて思えてしまった。
自分よりも小柄で、しかも年下の女子相手だというのに、思わず縋りつきたくなる暖かさがそこにはあった。
弱い自分も情けない自分も、全て許して受け入れてくれる、ありのままを曝け出せる女神のようで。
まるで無償の愛を注いでくれる母親のような、そんな安らぎすら覚えた。
「ありがとう安食ちゃん。そう言ってもらえると、ちょっと気持ちが楽になるよ」
「無理はしなくていいですよ。先輩のたまの勇気を出した一言が、とっても嬉しかったりするんですから」
ホッと心が穏やかになった俺に、安食ちゃんは優しく笑いかけてくれる。
最初は安食ちゃんを励ますような会話だったはずなのに、いつしか俺が励まされている。
先輩として、というか男として情けなく思いつつ、でもそれすらも彼女は受け入れてくれるんだろうな。
甘えすぎは良くないにしても、でも安食ちゃんとはそうやって寄り添い歩いていくのが心地いい気がする。
彼女が俺の不甲斐なさも許容してくれるというのなら、俺もまた安食ちゃんのいろんなことを受け止めてあげられる、そんなしっかりとした男になりたいものだとしみじみ思った。
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