第6話 有友と初デート ② a-1
「いやー歌った歌った! もう喉ガラガラ〜」
カラオケボックスの中、ハイテンション系の曲を何曲も熱唱し終わった有友は、そう大きく伸びをした。
カップに半分ほど残っていたコーラを一気にズズっと飲み干して、ふにゃんとホッと一息つく。
その伸び伸びとした姿に、俺は思わず顔が緩んでしまった。
有友 あさひとのデートは、割とアクティブだった。
まず出だしにボウリングに行き、一時間ほどで三ゲーム。
お互い特別運動ができる方じゃなかったから泥試合だったけど、ワンプレイに一喜一憂する彼女に釣られて、だいぶ賑やかに盛り上がった。
その後はボウリング場に併設されているゲームセンターへと繰り出し、しばらくいろんなゲームをやり回って。
それも大体が体を使う系で、ボウリングで久々に動いた後だとなかなかしんどかったけど。
でもどれもこれも、協力系も対決系も、終始キャッキャと楽しげな有友に釣られて俺も結構騒いでしまった。
そろそろ高校生は追い出される頃合いを見て、近くのカラオケに滑り込んで今に至る。
今までのアクティブなどなかったかのように有友は大はしゃぎで歌い、それもそこそこ付き合わされて。
体力底なしかと思ったけど、流石にバテてきたようだ。
有友はぐでんと浅く座って姿勢を崩した。
「楽しいねー! アタシ、いつもみんなでガヤガヤ遊ぶことが多くて、誰かと二人だけってことほとんどなかったんだけど。でもこれはこれでちょー楽しい! うっしーだからかな?」
「それは光栄だけども。でも意外だな。有友はこういうの、慣れてると思った」
「えーそう見える? こう見えてピュアガールだよっ」
有友はケラケラと笑いながら目の辺りで横ピースを決める。
二人だけで遊ばない、ということは、つまりデートの類もしたことがないってことなのか。
まぁ確かに相手が男に限らず、有友が特定の誰かとだけずっといる、というところは案外見たことがないな。
いつも色んなやつと幅広く関わって、どんな時も大勢に囲まれてるイメージだ。
「アタシ賑やかなのが好きだからさ、どうしても皆でぱーっとやりたくなっちゃうんだよね。そう思って色々誘ったりしたら、いつの間にかいつも大所帯、みたいな?」
「有友は友達多いもんな。というか、目につくやつみんな友達だと思ってないか?」
「いやいや、そこまでは思ってないけどさ〜。でも、友達なんていっぱいいて困らないし、みんなと友達の方が楽しくない?」
「まーなー」
ニカニカと楽しそうに笑うその顔を見ると、本当に芯が明るいやつなんだなぁと再認識される。
こういうやつだからこそ、俺みたいなはっちゃけ系とは縁のないやつにも関わってくれるんだろうな。
「でもでも、今日はうっしーと二人で楽しかったよ。ボウリングもゲーセンもカラオケも、ちょっとびみょーにヘタクソだったけど」
「な、慣れてないんだから仕方ないだろ……! それに、お前だって人のこと言えるほど上手くはなかっただろ」
「いーんだよー。こういうのは楽しんだもん勝ちだし。アタシの方が盛り上がってたから、アタシの勝ちなの」
「ノリと勢いで生きてるのかよ」
「ノリと勢い大事! 人生ノリが良ければ何とかなるよ!」
イェーイとまたテンションを上げる有友に、俺は苦笑いを浮かべた。
でもまぁ悪い気はしない。俺と考え方は違うけど、彼女のその振る舞いが人を明るくし、引っ張っていく力を持つのは確かだ。
「今日はアタシとデートしてくれてありがとね、うっしー」
「それはこちらこそ、誘ってくれてありがとう」
心底楽しそうな有友に、俺も自然と笑顔になる。
友達付き合いは今までしてきたけど、俺とはタイプの全く違う彼女とデートとか、そういうのが成立するか少し不安はあった。
でも案外なるようになる。いや、有友の明るさに俺が引っ張られて、一緒に楽しくなれたのかもしれない。
「いやーそれにしても、みこっち先輩が乗り込んでくるとは思わなかったよねぇ。あれは誤算だったなぁ」
「それもそうだけど、俺はみんなが未琴先輩ととりあえず仲良くしようってしてくれたことが意外だったよ」
「ありゃ、そう?」
そう言って首を傾げる有友は、未琴先輩に対する嫌悪感のようなものは感じられない。
まぁコイツ、真っ先に打ち解けてたからなぁ。
「んー。確かにみっこち先輩はアタシたちにとってラスボスで、どうにかして止めなきゃいけない相手なんだけどね。でも昨日も言った通り、アタシたちって裏方で実戦にはほぼ出ないんだよ。だからなんていうか、実感湧きにくいところがあるんだよねー」
「あぁ、前もそんなこと言ってたな」
「そそ。頭ではもちろん理解してるし、どーにかしなきゃいけない相手だって思ってる。でも敵として直接対面したことがないアタシたち的には、目の前のただの女子高生の印象がどうしても強くてさ」
えへへと恥ずかしそうに笑う有友に、俺はふむふむと頷いた。
まぁ言わんとしてることはわかる。というか、結局俺と同じなんだ。
俺より事情に精通してるだろうけど、それでも自分自身が敵対意識を持ってない相手だから、どうしても普通の部分を見てしまう。
普通に関われて、普通に仲良くなれるならそうしたい。平和に過ごしたいんだ。
「だから、向こうも友好的にきたし、できる限り普通に接していいかなって。まぁアタシの場合は、単純に仲良くできる人が増えたら楽しいからって感じだけどさ」
「お前らしいというか……。この状況で未琴先輩とお友達になろうって、なかなかできることじゃないよな」
「そんなことないよー。恋敵だってね、時には協力が必要だったりするからね。人手が多いに越したことはないんだよっ」
「ラスボスまで味方にして、一体何と戦うつもりなんだ……」
「ナーイショ」
有友は人差し指を唇の前にあてて、意地悪く目を細めて笑った。
何気ない仕草だったけれど、何だか妙に色っぽく見えてしまって、少しドキリとした。
というか、この個室が薄暗いせいで、そもそも有友が普段に増してセクシーに見えてしまう。
露出が多いせいでその健康的な肌は剥き出しで、カラオケボックス特有のじんわりとした照明に照らされて色香が漂っている。
だらしなく姿勢を崩しているせいで、元々広めなタンクトップの胸元が、更にその胸元の防御力を落としているし。
無造作に投げ出されている脚がまた、暗い光を反射して妙に輝いて見える。
薄暗い密室でこんな女子と二人きり。
ここまで賑やかにやって来たから少し気付かなかったけど、よく考えたらとんでもない状況だ。
意識しだしたら急に心臓がうるさくなってきた。
「ねぇうっしー。ちょっとヤラシイ目で見てなぁい?」
「み、見てない見てない……!」
意識しだした直後、有友の鋭い指摘が突き刺さる。
探りを入れるような視線が、ジトーッと俺を舐めていた。
女子ってみんな、思考を読めるのがデフォルト機能なのか?
「うそだね〜。チラッチラッてこっち見てんのバレてんだからぁ! ほら、どこを見てたのか正直に言え〜!」
そう言って有友は、ソファに寝転がるように俺の方へと乗り出してきた。
そうすることで余計に胸元に余裕ができて、膨らみのしっかりとした谷間がはっきり見えてしまう。
おまけに彼女がうつ伏せのような体勢になったことで、むっちりスラっとした脚の裏ももがよく見えてしまって、完全に目のやり場がなくなった。
ただ有友の顔を見ようにも、視線を下ろせばその谷間にバッティングしてしまう。
それはどう考えても明らかによろしくないから、仕方なく俺は顔を持ち上げて彼女の頭越しに、その脚がある方に視線を逃した。
飽くまで胸を見ていると思われないための行動だ。断じて脚を眺めたかったわけじゃない。うん。
「別に何もやましいところは見てないから。ずっと有友の顔しか見てなかった。それ以外は目に入ってなかったから」
「そういうことは顔を見ながら言ってくださーい」
「今はほら、ちょっと遠くを眺める気分で……」
「ふぅん、気分か。まぁうっしーが認めないなら言っちゃうけど。いつもうっしーが脚見てるの、実はバレてるよ」
「え」
衝撃的な発言に思わずその顔を見てしまう。
そこにはニヤニヤとした有友の顔と、セットでくっきりと谷間が描かれたお胸があって。
目が合った有友が、「お、今は胸見たね」と笑った。
「……ちょっと何言っているのかわからないな」
「まぁアタシも、好きでスカート短くしたり胸元広めにとったりしてるから、多少見られるのは気にしないけどさ。でも残念ながら、バレてるんだなぁこれが」
「もしかして、その察知スキルがお前の『
「ううん。ただうっしーがわかりやすいだけ」
必死に現実逃避をしてみても、それは簡単に一蹴されてしまう。
俺ってそんなにわかやすいの? ガン見してるつもりは、なかったんだけどなぁ。
でも確かに女子はそういう視線には敏感だというし、俺が迂闊だったのかもしれない。
「んじゃま、それを踏まえて。うっしーはどこを見てたんでしょーか!」
「答えの出ている問いに改めて答えなきゃダメですか?」
「正解者にはご褒美があるかもしれない」
「脚です。有友さんの綺麗な脚を見ておりました。はい、正解!」
もう色んな意味で答えないわけにはいかなかった。
決してご褒美に目が眩んだわけじゃなくて、その脚に目が眩んだんだ────じゃなくて、ここは潔く男らしく罪を告白しようと思ったんだ。うん、そうだ。
そう自分に言い聞かせながら即答した俺に、有友は「ちょー正直じゃん」とケラケラ笑った。
「じゃあしょーがないからご褒美ね。脚、触ってもいいよ」
「は?」
「流石に胸触りたいとか言われたら、まだかなり心の準備いるけど。でもま、脚くらないなら」
思いがけない言葉にフリーズする俺に対し、有友はソファの上で脚をパタパタとさせて微笑む。
俺の反応を楽しんでいるかのようにニヤニヤと意地が悪い笑みだ。
「いや、嬉しい提案だけど、い、いいのか、そんなこと……」
「別にうっしーだったらいいよ。あーでも、うっしーだけご褒美はずるいなぁ」
「せ、正解したご褒美だろ?」
「その前にアタシが正解出してるしねぇ。もらう権利はあるんだな〜」
そう言うなり有友はガバッと起き上がって、同時に俺をソファの端に行くように促した。
なんだか色々と彼女の勢いに飲まれてしまって、俺は言われるがままにするしかなくて。
何を要求されるんだろうとハラハラしつつ、でもこれから女子の脚を触っていいと言われたことにドキドキして。
本当ならもう少し紳士的な対応をするべきなんだろうけれど、全くそんなことはできなかった。
「よっこいしょっと」
俺を端に追いやるなり有友はこちらに背を向けて、かと思えばジジくさいかけ声と共にこちらに体を倒してきた。
そうすればどうなるかといえば、俺の方に倒れ込んでくるわけで、したら必然的に、有友の頭は俺の膝の上に落ちるわけで。
とんとん拍子に、そして勝手に、俺は有友に対して膝枕をさせられていた。
「ッ……!」
「な、なんだかこれ、結構恥ずいね」
頭が爆発しそうなほど戸惑う俺に対し、有友もこちらを見上げながらはにかむ。
最初の時のように顔を赤くして、笑顔で誤魔化しきれないモニョモニョとした口元が、彼女の心情をよく表していた。
有友は俺を見上げながら、けれど少し気まずそうに目を泳がせて、珍しく一瞬静かになる。
そんなちょっぴり萎らしい彼女が、俺の膝の上に収まっていて、しっとりとこちらを眺めて。
なんというか、とても愛らしい気持ちが掻き立てられた。
「ほ、ほら。うっしーの番。触って、いいよ」
小さな手で少し顔を隠しながら、有友は言った。
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