道.2
美澄さんの背中が完全に遠ざかった後、私達はいつもと同じ道を歩き出す。
「美澄、私が高校生になってからの、初めての友達。だから、菜瑠美にも紹介したかった。美澄も菜瑠美、見たいって言ってたから」
咲良の表情は変わってないけれど、心なしか少し嬉しそうな声だった。私はさっきまでの美澄さんを思い浮かべながら言う。
「ちょっとの間だったけど、美澄さんが咲良のこと大事に思ってるんだなって伝わってきたよ」
「そう……?」
「うん」
「私も、美澄大事。友達だから」
私も、沙綾や雪穂、遥香ちゃんのこと、とても大事だ。だけど、咲良に対する気持ちは、やっぱりそれとは違うような気がする。
「でも……菜瑠美は、それとはちょっと違うかも」
自分が思っていたことと同じ言葉が咲良から発せられて、ドキリとする。
「どっちも同じ大事だけど、菜瑠美のは、特別」
ずっと進行方向を見ていた咲良が、急にこちらを向いた。目が合う。声が裏返りそうになるのを抑えて、私も思ったことをそのまま口にする。
「私も、咲良に対する大事は、特別。……他の友達とは、違う大事」
すると、咲良は私の制服の袖をきゅっと握って微笑んだ。
「気持ちも、お揃いだね」
「そう、だね」
照れてそのまま目を合わせていられなくなり、そっと視線を外す。すると、咲良は新鮮なものを見るようにこちらを覗き込んで、つんつんと人差し指で私の頬を軽くつついた。
「菜瑠美、赤くなってる」
「き、気のせいだよ」
さらにそっぽを向くと、咲良はくすくすと笑う。
むずがゆさに耐えきれなくなって、何か他に話題は……と考えると、今日ずっと考えていたからか進路希望調査票がぱっと頭に浮かんだ。
「そういえば、咲良はもう、進路のこととか決まってる?」
「うん。私、みんなのためになる看護師さんになる」
咲良が言う「みんな」はきっと、いつもの如く猫や犬、人間以外の生き物のことだろう。ということは、動物病院の看護師さんだ。容易に想像ができて、自然と微笑む。
「咲良にぴったりだね」
「菜瑠美なら、そう言うと思った」
咲良ははにかむと、今度は首を傾げながら私に尋ねる。
「菜瑠美は?」
「私は……まだ何も決まってないかな」
「菜瑠美なら、きっと見つかるよ」
咲良のその言葉は何よりも、ただ焦っていただけの私を安心させた。たった一言なのに視界が開けたような、そんな気分だ。
先のことはまだ分からないけれど、今の私なら……咲良と出会った私なら、何かを見つけられる、そんな気がしてきた。
「咲良はすごいね」
「どうして?」
「咲良のたった一言だけで、すごくパワーがもらえるというか……そんな感じ」
「それは、私も同じかも」
驚いて咲良の横顔をまじまじと見つめる。そんな私に、咲良は遠くを見ながらゆったりと言葉を紡いだ。
「菜瑠美がいてくれるだけで、なんだか少しだけ世界が違って見える。色がついているものに、もっと色がつくみたいに」
私も咲良の視線を追うように景色を眺めれば、見慣れたはずの夕日に照らされた家々が温かく感じた。いつもは見過ごしてしまうのに。
その瞬間、自分でも驚くほど自然に咲良の手をそっと握り、繋いでいた。自分も同じだと言葉にするのは簡単だけど、その気持ちを別の方法で伝えたいと思ったから。
なんの前触れもなく手を繋いで、さすがにひかれているのではないかと咲良の様子を窺う。
あいにく夕日の影になって、どんな表情をしているのかは分からなかった。けど、繋いだ手がぎゅっと握り返される。それだけで幸せな気持ちで満たされて、ずっとこの道が続けばいいのになんて思ってしまう。
そのまま、咲良の家へ着くまで言葉を交わすことなく静かな時間が続いた。それでも、今までよりもっと咲良のことを近くに感じていた。
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