突然の誘い
休日の朝。起きたばかりでごろごろとしていると、携帯が鳴った。誰からだろうと寝転びながら画面を見ると、遥香ちゃんからメッセージが届いている。
寝ぼけていた頭が一瞬で覚醒してベッドから飛び起きた。
『突然ごめんね。菜瑠美ちゃん、今日空いてるかな?もし良かったら、午後から二人でお出かけしたいな』
連絡先を交換してから、学校で会えるからとそんなにやりとりしていなかった。だからなのか、返信を考えるだけで少し緊張する。
まごつきながらも行きたいと返事をすると、しばらくして時間と待ち合わせ場所が送られてきた。それに加えて、「楽しみにしてるね!」なんてメッセージも添えられていて夢でも見ているのかと疑ってしまう。
小学生の頃、教室の隅から見ていて密かに憧れていた、あの遥香ちゃん。その子と友達で、一緒に出かけるなんて小学生の私が聞いたらきっと腰を抜かすぐらい驚くだろう。
朝ご飯を食べて、バタバタと支度をしていると、あっという間に約束の時間近くになる。お母さんに一言声をかけてから家を出ると、楽しみな気持ちと少しの緊張を胸に走り出した。
待ち合わせは、お洒落なカフェの前。少し早めにつきすぎたかもと思いながら向かえば、もう既に遥香ちゃんがいて、慌てて駆け寄る。
「待たせちゃってたかな……?ごめんね」
「ううん、私が早く来過ぎちゃっただけだよ」
手を合わせて謝る私に、遥香ちゃんは首を横に振ると私をカフェへと先導する。どうやらここが待ち合わせ場所だったのは、最初の目的地だったからみたいだ。
「今日は突然ごめんね。前から菜瑠美ちゃんとゆっくり話したいな~と思ってたんだけど、中々機会ないから……今日、用事無くなっちゃって、急だけど会えないかなってメッセージ送ってみたんだ」
「そんな、謝らなくて大丈夫だよ!その……私も遥香ちゃんとゆっくり話せたらなって思ってたから」
小学生の頃の事、覚えてもらえていなかったのは寂しかった。けど、こうして気にかけてくれていたことが分かって素直に嬉しい。
「なら良かった」
遥香ちゃんは安心したように微笑むと、手早く店員さんに飲み物を頼んでくれた。程なくして店員さんが持ってきてくれたジュースを二人して飲む。
「そういえばね、ずっと聞きたかったことがあるんだけど……」
そこで言いにくそうに一旦間を置く遥香ちゃん。急かすことなく何も言わず待っていると、
「小学生の頃の私は、菜瑠美ちゃんにはどう見えてた?」
切羽詰まったような真剣な表情で、遥香ちゃんは私を見る。その様子に少しの違和感を感じながらも、私はずっと思ってきたことをそのまま言った。
「私にとって、誰にでも優しくて明るい遥香ちゃんは憧れだった……それは今でも変わらないよ」
まさか、本人に直接言う日が来るとは思っていなかったけど、言えたことで何故かすっきりしている自分がいることに気づく。対する遥香ちゃんは、どこかほっとした様子だった。
「そっか……なんか、面と向かって言われると照れちゃうね」
何でそんなことを訊くのか気になる。けど、今の遥香ちゃんの様子を見ていると、何となくそれをしてはいけないような気がしてぐっと堪える。
「なんか、覚えてないくせに変なこと聞いちゃってごめんね」
「そんなことないよ。むしろずっと憧れてた遥香ちゃん本人にそのことを伝えられて嬉しい。気持ち悪いかもしれないけど、遥香ちゃんが転校しちゃってからもずっと忘れられないぐらい憧れ続けてたから……」
こんな機会、滅多にないだろう。そう思って、アイドルの握手会に来たファンの気持ちで思いの丈をぶつけてしまう。
そんな私の戯言を、遥香ちゃんは嬉しそうに受けとめてくれた。
「気持ち悪くなんかない……嬉しいな、そんな風に思っててもらえて」
そうだったはずなのに一瞬顔を曇らせて、
「でも、今の私は……」
小さく呟いたのが聞こえてくる。
「遥香ちゃん……?」
私の声に、遥香ちゃんははっとしたような表情をすると、すぐに明るい笑顔に戻った。
「ううん、なんでもないよ」
取り繕うようにそう言うと、すぐに話題を変える。
不思議に思ったけれど、遥香ちゃん自身が聞かれたくないのならいいか、とさっきのことについては何も言わないでいた。
それから、私達は遥香ちゃんが転校してしまってからの時間を埋めるようにたくさんの話をした。学校のこと、勉強のこと、家族のことを含めた日常の些細なことを時間の許す限り。
デザートも追加で頼んだ後、他にも何軒か寄ろうかなんて話をしていたのに、本屋に行っただけで日が暮れてしまった。
今日初めて知ったことだけど、遥香ちゃんは好きなことに熱中すると時間を忘れてしまうタイプみたいだ。おすすめの漫画の話を饒舌に語る姿には圧倒されてしまったけれど、憧れていた遥香ちゃんの新たな一面を知ることができてなんだか少し嬉しい。
「じゃあ、また学校でね」
その日最後に見た遥香ちゃんの笑顔は、あの頃と全く同じように見えて、私も自然と笑顔を返す。
「うん、またね」
遥香ちゃんの様子に違和感があったのはきっと気のせいだ。だって遥香ちゃんはあの頃のまま、今も私が憧れている
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